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伊達マスクの心理学:人間関係を避ける若者と私達(マスク依存症?)

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

■「伊達マスク」すっぴん隠しで人気

衛生用でない場合、数年前から「だてマスク」という言葉が生まれている。〜「娘は1年中夏でもマスクをしています。」〜「すっぴん隠し」などのほか、「落ち着く」「知り合いに会いたくないとき便利」〜藤掛明准教授(臨床心理学)「人と関わると、笑顔を見せるとか怒りをあらわすとか関係性を決断しなければならないが、マスクをすると表情が見えないのでそうした対人関係を保留することができる。現代青年の対人恐怖がそこにはある」と指摘。

出典:「伊達マスク」すっぴん隠しで人気 ファッション化が拡大するマスク市場産経新聞 2月19日Y!

日本人が何でもないときにマスクをして歩いている姿は、外国から見ると奇妙な風景のようです。2009年に新型インフルエンザが大きな話題になったときには、大勢のマスク姿の人々が見られました。

またずいぶん前から、花粉症の人たちがマスクを日常的にかけています(春先の私もそうです)。「風邪ですか?」「いいえ、花粉症です」といった説明を以前はずいぶんしましたが、今ではマスク姿は普通の風景になってきました。

そして今、中高生や大学生、青年達を中心に「だてマスク」が増えています。

■伊達マスク”の効用 「すっぴん隠し」「人と話したくない」

若者世代には「人と話さないで済む」「顔を見られずに済む」という声もあるのだとか。マスクに「心理的なものを隠す」という機能を見出しているようです。しかし、場合によっては、“伊達マスク依存症”“伊達マスク症候群”などとして、専門家が警鐘を鳴らすケースも。

出典:“伊達マスク”の効用 「すっぴん隠し」「小顔」「保湿」…「人と話したくない」も?:Self Docter NEWS 2013.11.29

すっぴん隠し、小顔、マスク美人効果などの他に、心理的な理由もあるようです。たしかに、あまり人と話したくないときに、ポケットに手を入れ、うつむいて、早足で歩くときなどはあるものです。

マスクをすることで、あまり話さないですむ、顔、表情を見られないですむということもあるでしょうし、ポケットに手を入れるのと同様に、心理的に守られている感覚もあるでしょう。

■マスク依存症?

仕事中も寝るときも着用するようになって3年くらい経つという30代の会社員女性は「マスクをしているのが普通。していない方が落ち着かないし、外へ出られない。手放せないですね」と頼り切りだ。

出典:風邪や花粉対策だけじゃないマスク 目的の多様化で依存症も NEWSポストセブン2013.11.23

藤掛先生も述べているように、若い世代の人間関係能力は落ちているように思えます。雑談が苦手だと感じている若者はたくさんいるでしょう。友人とつながり続けていることに疲れを感じたり、友だちを怖がっているようにさえ見える若者もいます。

今、だてマスクをしている子供若者の中には、強い対人不安を感じている人もいるでしょう。しかし、実際に学校の中でだてマスクをしている人を見ると、特別に人間関係が苦手な人々とも思えません。

それだけ、だてマスクは、普通のもの、ひとつのファッションになっているのでしょう。

■人間関係の癒しと訓練

人間は集団の中で生きてきました。本来、一人では生きていけないのが人間です。しかし、豊かな現代社会では以前よりも薄い人間関係でも生きていけるようになりました。そして、以前よりも人間関係が鍛えられていないとも言えるでしょう。

私達の社会では、以前から心理的な「個室化」が進んでいました。カラオケ・スナックが、カラオケ・ボックスになり、一人カラオケになる。銭湯や温泉、ラーメン屋や図書館に、隣の人とのしきりが作られたりしています。

電車やバスの座席では、以前よりも隣の人と距離を置くようになってきました。

豊かになって、余裕ができて個室化するのは良いことですが、人間関係が苦手になって心理的に個室化せざるを得ないとすれば、それは問題ともいえるでしょう。

現代人は、面倒な人間関係を嫌い、人間関係で傷つきやすくなっていますけれども、それでもやはり、人間関係を求めているからです。

疲れているときには、癒しが必要です。マスクをつけ、表情や心を隠すことが良いときもあります。しかし、良い人間関係を作っていくためには、リスクは覚悟の上で、心を開かなければなりません。

心理学の研究によれば、人間関係を作るためには「自己開示」(心を開き自分を示すこと)が必要です。人は自己開示されれば、こちらも自己開示したくなり、互いに自己開示することで関係が深まります。

心を開くのには、リスクが伴います。コミュニケーションには、技術や慣れも必要です。だから、トレーニングしていかなければなりません。

顔は、いつも外に出ていますから、寒さにも強いのかもしれませんね。顔をおおいたくなるほどの寒さの時もありますが、いつもおおっていれば、かえって弱くなってしまうかもしれません。

良い方向に行けるように頑張ればがんばるほど、人間関係の中で逆効果になることもあるものです。

みんながおしゃべりや、人気者になる必要はありません。自分らしくあれば良いと思います。互いに笑顔や時には不機嫌な顔を見せながら、心配や不安を乗り越えて、人間関係を作っていけるといいですね。

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社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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