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有能な人が人生で失敗するとき:犯罪・非行・不適応:大学院出身の岡山倉敷女児誘拐監禁事件容疑者

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

■岡山倉敷小5女児誘拐監禁事件監禁

岡山で少女が誘拐監禁された事件は、無事に被害者が保護され、無職藤原武容疑者(49)が、逮捕されました。

逮捕された岡山市北区の無職藤原武容疑者(49)は、大学院で哲学を学び、研究者を志した寡黙な青年だった。〜「カントを愛している」。約20年前、大阪大学大学院の博士課程で倫理学を専攻していた藤原容疑者は、研究室の宴席で同窓生にこう打ち明けた。寡黙で勉強熱心。青春時代の藤原容疑者を知る人たちの印象は似通う。交友関係は少なく、存在感は薄かった。〜だが、学問の壁に突き当たる。学友が順調に助手や教職に就き始める中、1人だけ就職先が見つからなかった。

出典:カント愛した元院生、存在感薄く 岡山・女児監禁容疑者:朝日新聞デジタル 2014年7月26日

「岡山・倉敷の女児監禁:救出1週間 孤独なインテリ、綿密計画 大阪の国公立大で哲学専攻」毎日新聞7月26日

なかなか立派な学歴です。学問が好きだったようです。

しかし、就職は上手くいかず、報道によれば、家庭教師などを転々としたそうです。結婚もしましたが、すぐに離婚しています。

20年前とはいえ、文系の大学院博士課程を出て、専門を活かして就職する事は大変です。研究能力に加えて、人に理解してもらえる誠実さや積極性、器用さも必要だったでしょう。彼には、それらの力が足りなかったのかもしれません。

そうして、事件は起きてしまいました。

ネットと世間に流れる「少女はなぜ逃げなかったか」に答える:岡山小5少女誘拐監禁事件被害者保護のために

■「有能」な犯罪者・「有能」な非行少年

学歴や資格を得ることができず、家庭の教育力も弱く、そして犯罪を犯す人々もいます。その一方、世間を驚かせるような犯罪者達の中には、もともとは成績優秀な人々もいます。

秋葉原通り魔事件の犯人は、県下一番の進学高校の出身です。

アメリカでも、連続快楽殺人のような猟奇事件の多くは、中流以上の白人男性が起こしています。学校で銃乱射事件を起こすような生徒も、多くの場合は本来頭の良い生徒達です。

PC遠隔操作ウイルス事件の容疑者も、有能でなければ警察をだますようなことはできません。

黒子のバスケ脅迫事件の容疑者も、ずいぶんまめに脅迫状などを送っていますが、高い能力がなければできない犯罪だったでしょう。

今まで万引きもケンカもした事がないような優秀な生徒が、突然殺人や強盗をすることもあります。「優等生突然型犯罪」などと呼ばれます。

今、ニュースで流れている、佐世保での女子高校生による同級生高1女子殺害事件。自室で殺害し、遺体を切断しています。この事件も、詳細はまだ報道されていませんが、決して「札付きのワル」が起こした犯行などではないようです。学校は、県内有数の進学校のようです。

佐世保高1女子殺害事件:教訓はなぜ生かされなかったか

(7/29補足:佐世保高1女子同級生殺害事件の犯罪心理学:人を殺してみたかった・遺体をバラバラにしたかった:成績優秀、スポーツもできて、親の社会的地位も高い生徒でした。)

勉強だけではありません。小さな頃、優れた運動能力で少年スポーツチームで活躍した生徒が、後にグレてしまうことも、ままあることです。

犯罪、非行までにはいたらなくても、かつては優秀だったのに、社会生活に不適応を起こしている人はたくさんいます。

■成績の良さは、問題を隠す

成績が良いからといって、みんなが善人というわけではありません。有能さを利用した、狡猾な犯罪者もいるでしょう。

また成績が良いことで、さまざまな問題が隠される事があります。何かがおかしいと大人が感じても、とりあえず成績が良いと、その子の問題が後回しにされることもあるでしょう。

スポーツも同様で、問題があってもスポーツができることで、大目に見られてしまうこともあるでしょう。

■こんなはずではなかった

有能な人が、そのまま大きくなっても、その有能さを発揮し続けられれば良いでしょう。でもそれは、なかなか難しいことです。子どもの頃なら、少しピアノが弾ける、サッカーが上手い、成績が良いといったことで、ちやほやもされるでしょう。

しかし、大きくなれば、多少の能力の高さは、それほど賞賛されません。みんなが、ショパンコンクールや甲子園大会に出られる訳ではありません。

大きくなるほどに、さらに高い能力がもとめられます。また、素質や、その能力自体だけではなく、高い人間関係や、努力することが求められます。

スポーツなら、チームプレイやサインプレイを求められたり、優秀ならチームのリーダーとしての役割も求められるでしょう。これが、なかなかできない人がいます。

スポーツも勉強も、素質があって能力を発揮すれば、さらに上の学校やチームに入ります。そこでは、さらなる努力と成果が求められます。周囲には、能力的にも人格的にも、本当に優秀な人たちがいます。

その中で、成功が続かない人たちがいます。チームをやめてしまったり、望んでいた進学ができない人もいます。あるいは、学校時代はとても成績優秀でも、社会生活での人間関係能力が足りない人もいます。

最初から割り切れる人なら良いのですが、自他ともに有能だと思ってきた人たちは、「こんなはずではなかった」と感じてしまいます。

■自己否定

ほとんどの人が、中学校で一番、高校で一番、大学でも社会に出ても一番というわけには生きません。勉強も、スポーツも、容姿も、何だってそうでしょう。

途中まで上手く行っていて人の多くが、挫折を味わいます。そして、挫折を乗り越えます。一番ではなくても、自分なりに頑張ろうと思って、逆境を乗り越え幸せをつかみます。

ところが、一番に成れなかったときに、激しい自己否定に陥る人がいます。自己否定が激しすぎると、その思いは社会へ否定につながり、犯罪的行動のような破壊的行動に出る人もいます。

そんな激しい行動に出なくても、自己否定の思いが心の奥底にあると、嫌みや皮肉になって出る人もいます。

心に余裕がある人は、自分が一番ではなくても、謙遜な態度で社会に適応していきます。心の余裕を失うと謙遜ではなく自己卑下に陥り、幸せから遠のいてしまいます。

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■あなたなりの有能さを活用しよう

学校で一番でも、後に大したことではなくなることもあります。一番などではなくても、あなたなりの何かの「有能さ」を、人は持っているものです。

いつも一番でなくては嫌だと感じるのも、自分はどうせダメ人間と感じるのも、どちらも自分の「ありのまま」を受け入れていないということです。

私たちが持つ大きな力を使いこなすのは、とても大変です。小さな力を活用するのも工夫がいるかもしれません。劣等感を克服する事は困難です。でも、私たちはたとえ小さな光でも、自分らしく輝かせたいと思います。また、輝かせるように、支援したいと思います。

どんなに小さな光でも、真っ暗な暗闇の中で、たしかに輝けるのですから。

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社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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