学校現場で感じる子供の貧困と格差
■6人に1人の子どもが「貧困」水準
貧しい家庭といっても、第三世界と比べれば豊かではないかとお考えの方もいらっしゃるでしょう。そのとおりです。でも、ここで言う「貧困」は、相対的な貧困です。クラスの平均的な子と比べて「貧しい」子が増えているという話です。
■NHK視点・論点 「子どもの貧困を防止する」
日本は豊かな国です。さらに、何十年前と比べれば、全体的に豊かになっていると思います。学校の給食も教材も、何十年前と比べて豊かになっています。しかし、相対的に見た貧困の割合は、増加しています。
■全体的に豊かならいいか?
全体的に見て豊かになったことは、とても良いことです。昔は、子供用の自転車などなく、大人用の自転車に「三角乗り」していました。その後、子供用の自転車ができます。それでも当初は、自転車は贅沢品でした。子供にとっては宝物です。
きれいな筆箱も、おしゃれな靴や、最新型のパレットやシャープペンシルも、宝物でした。大事にしていました。でも今や、そんなものほとんどの子が持っています。落としても取りに来ない子もいます。放置自転車が問題になったりもします。みんなが、昔と比べればすっかり豊かになりました。
今、豊かな子は本当に豊かです。地方都市から、家族でディズニーランドに行きます。みんなでディズニーのホテルに泊まります。そういう子は、クラスに何人もいます。家族で海外旅行に行く子もいます。
何台ものゲーム機を持っている子も、たくさんいます。何千円もするゲームソフトをたくさん持っている子もいます。お年玉を合計10万円もらう子もいます。
でも、そんなこととは遠い子もいます。泊りがけでディズニーランドに行くのは、大金がかかります。どの家庭もができるわけはありません。海外旅行など夢のまた夢で、家族旅行に行ったことがない子たちも、もちろんいます。大金をくれる親戚などいない子もいます。
手の込んだクリスマス会や、誕生会を毎年してもらえる子もいれば、クリスマス会も誕生会も、まったくない子供もいます。その子の家には、サンタクロースが来ません。
経済的に豊かな子は、自分の生活が当たり前だと思っていますから、別にいばるつもりではなく「ディスにーランドに行ってきた!」などと普通に話していますが、そんな話を寂しい思いで聞いている子もいるでしょう。
■現代の「貧しさ」
昔のような貧しい子はほとんどいないでしょう。生活保護や就学援助もありますから、大昔のように一目でわかる貧しい子は、まずいません。貧しさのために高校へ行けない子も、ほぼいません。
それでも、他の子達と比べて「貧しい子」が増えている問題があります。そのような子達の多くは、決してみじめではないと、私は感じています。ほとんどの子は、明るく元気にがんばっています。
高校進学するときに、「私立でも公立でもお前の好きなところへ言ったら良いよ」といわれている子もいれば、「できれば公立で」「とても私立は考えらない」という子もいますが、多くの子は自分の家の経済状態を理解しています。
それでも、貧しさのために可能性が狭められている子達もいます。たとえば不登校の子達で、欠席日数や成績の関係で公立の全日制は行きにくい子達がいます。
本人にやる気が出て、家にお金があれ、いくらでも塾に行かせ、家庭教師をつけ、学力をアップさせることもできます。しかし、そんなことができない家庭もあります。
お金があれば、欠席日数が多い子も受け入れてくれる私立高校や、サポート校(通信制の高校に入学させ、その高校を卒業できるようにサポートしてくれる学校)に行かせる進路もありますが、お金がなければ公立の定時制高校しか選択肢がないこともあります。多くの定時制高校は、良い高校です。先生方もとても熱心です。ただ、お金がないと選択肢が狭くなるのは、事実でしょう。
高校卒業後の進路も同様です。学力、健康、そして経済状態によって、選択肢の幅が違ってくるでしょう。
家庭において、パソコンやスマホでインターネットを駆使している子もたくさんいますが、どの家庭にもパソコンがあり、ネットがつながっているわけではありません。学校でしか、インターネットにふれられない子もいます。
パソコンもインターネットも贅沢でしょうか。でも今や多くの家庭でできていることが、できない子達がいます。
多くの子は明るく元気とはいえ、他の家庭では普通のことが自分の家庭では許されないことで、悲しみや怒りや絶望を感じている子もいるでしょう。
■さまざまな貧しさと格差
貧しさが経済的な貧しさだけであれば、現代日本社会においては、いくらでも手はあると思います。大変だけれども、何とかなる方法は、いろいろ考えられます。
貧しくとも、心豊かな生活を送っている方々を、私はたくさん知っています。
しかし、経済格差は、他の格差をも伴うことが多いでしょう。人生の早い段階で希望を失っている子達もいます(山田 昌弘 (著)『希望格差社会』)。
お金がなくても、心のこもった誕生会やクリスマス会はできます。温泉旅館に行けなくても、おにぎりを持ってピクニックには行けます。でも、ギャンブルや自分のアクセサリーを買うお金や時間はあっても、子供に使う時間をお金をもっていない人もいます。一生懸命がんばっていても、その心の余裕がない家庭もあります。がんばってはいても空回りしている家庭もあります(やればやるほど逆効果:空回りと人間関係の心理学)。
希望を失い、目標を失い、学力や道徳心を育てる教育意欲も失っている家庭があります。その中で、子供達は苦しんでいます。
お金の貧しさ、教育の貧しさ、人間関係の貧しさ、愛の貧しさに苦しんでいる子達が、たくさんいます。
マザーテレサが言っている通りです。「本当の飢えは、アフリカやインドのような第三世界にはない。本当の飢えは、東京やニューヨークのような大都会にある。誰にも愛されないという飢えが。」
■今、学校で
学校はがんばっています。「貧しい子」たちを支えるためにがんばっています。こういう時代だからこそ、小中学校の公立義務教育学校の役割は重要です。最後の砦です。
給食でだけ、温かい手の込んだ食事を食べている子もいます。学校がなければ、健康的な運動もしない、芸術にも触れない、読書もしない子達がいます。別の子達は、家庭においてすばらしい環境が用意されているのに。
政治や行政、様々な福祉サービスの充実など、もちろん必要です。でも同時に、その子達と毎日接している教師達と学校を支援したいと思います。
公立高校にも貧しさの問題があります。さらに現代では、私立高校においてですら、貧しさの問題が起きています。みんなが好んで私立を選んだわけではありません。また授業料の補助があり、以前よりも経済状態が良くない人でも入学できるようになっています。
助けが必要なのに、助けを求めない、求め方がわからない家庭も多くあります。学校の教職員なら、きっかけが作れることもあります。
さまざまな貧しさの中で、学校で問題行動を起こしている子達もいます。非行、怠学、暴力、いじめ、不登校などのさまざまな不適応行動が、貧困問題と絡んでいます。先生方が苦慮している場合も多々あります。ぜひ、みんなでこの子達を支えたいと思います。
さらなる不幸が起きないように。貧しさの再生産を防ぐために。
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NHKテレビ視点論点「少年犯罪と犯罪心理学・心の闇」(碓井真史)
愛への飢え、人間関係の貧しさが、犯罪を生む。