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年収300万円台なのに「4500万円払え」と言われても…。結婚を無理ゲーにする住居費高騰問題

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:イメージマート)

高嶺の花となった結婚

婚姻減の要因として、結婚できる年収のインフレが起きていることは当連載でも何度か触れている。

20代の若者が考える「年収いくらあれば結婚できるか」という調査では、2014年時点では379万円であったものが、最新の2024年では544万円にまで上昇している。実に2014年対比で約1.4倍である。

参照→20代の若者が考える「年収いくらなら結婚できるか?子ども産めるか?」その意識と現実との大きな乖離

「結婚できる年収」が1.4倍にあがっていても、若者自身の年収も同期しているのなら問題ないが、10年前とで若者の年収は1.4倍になどなっていない。それどころか、社会保険料などの度重なる負担増で可処分所得はむしろ減ってしまっている場合も多い。それに加えて、近年物価高も合わせると、若者の暮らしは非常に苦しいものになっている。

「結婚できる年収」だけがあがってしまい、実態年収がそれに伴わないために、いつまでも結婚できないという状況が生まれているのである。

もちろん、中には実態年収もあがっている一部の条件に恵まれた大企業勤めの若者もいるが、それはあくまで一部でしかない。ボリュームの大きい中間層の若者にとってはとても手が届かない金額になっている。

住居費が高い

それでも、年収にかかわらず「この人と結婚したい」という気持ちで、結婚した若いカップルがいたとしよう。しかし、そうした若い夫婦の前にたちはだかるのが、高い住居費である。

結婚すれば新居も必要になる。子どもが産まれれば、それなりの広さも必要になる。そうした時に、特に、東京など首都圏で家を考えるとなると、どうしても「年収なんか関係ない」というわけはいかなくなる。

ニュースなどでは、都内の新築マンションで1億円超えなどの価格は珍しくもなくなっているが、そんな新築は無理として、首都圏においてせめて家族で住める中古マンションを購入したいと思っても、近年この中古マンションの価格も高騰している。

財団法人東日本不動産流通機構による「首都圏不動産流通市場の動向」から、中古マンションの価格の長期推移を見ると以下の通りである。

まだ、バブルの名残のある1992年は3714万円とそれなりに高かったが、それ以降は下落し、2001年には2000万円を切った。しかし、その後じわじわと値上がりし、2023年には1992年を大幅に超え、4575万円にまで高騰している。

ちなみに、冒頭の「結婚できる年収」が2014年から2024年にかけて1.4倍なのに対し、中古マンション価格は2014年から2023年にかけて1.7倍である。

結婚年収以上に中古マンション価格は高くなっている。もちろん、結婚した若い夫婦は皆中古マンションを購入するものではないが、住居という必要経費が高騰していることは事実である。

住居費と婚姻数の相関

試しに、この首都圏の中古マンション価格の推移と、首都圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)の婚姻数合計の相関を見ると、中古マンション価格があがればあがるほど婚姻数は減るという強い負の相関がある

少なくとも、1992年以降中古マンション価格が下落し、2500万円あたりで落ち着いていた2010年くらいまでは、多少の上下はあるが、首都圏の婚姻数は平均22.5万組で減っていなかった。中古マンション価格が3000万円を超えたあたりから、急激に婚姻数が激減し、2023年には16万組にまで減った。

「マンション価格が高くなったから婚姻数が減った」と因果にまでするつもりはないが、結婚生活や家族生活に必需となる住居の価格高騰が、若者の結婚に何一つ影響を与えていないとは言えないだろう。

お金がないとはじまらない

結婚するにもお金がかかる、結婚して住居を決めるにもお金がかかる、子どもが産まれてもお金がかかる。

提供:イメージマート

お金がかかるとしても、頑張ればなんとか払える範囲ならまだしも、年収300万円台の20代の若者に、いきなり4500万円の買い物をしろと言われてもなかなか難しいものがあるだろう。「無理」と諦めてしまうのも道理である。

そんなときに「結婚はお金がかかるわけではない」などという精神論的な高齢者のアドバイスは何の役にも立たない。今の高齢者が若い時とは違って、間違いなく「結婚のインフレ」は起きているのである。

だからこそ、日本の若者は、40歳になったときに「結婚も子どもも持てていない」という悲観的な未来予想図を描くしかないのである。

参照→各国10代-20代若者の未来予想図「40歳になったとき、僕たちは結婚や子どもを持てているだろうか」

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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