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「リーマンショック時より悪い」経済的な問題で社会に不満を抱いている20代若者が7割

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:アフロ)

今の社会に満足?

今の生活に不満を持った人達であふれた社会はどうなるだろうか?

飢餓や紛争のない日本ではそんな不満を抱える人は少ないだろうと思っているだろうか?

内閣府が経年で実施している「社会意識に関する世論調査」の推移から紐解いていこう。

調査は2009年から2022年までの推移でみてみる。但し、コロナ禍の影響で2020年は未調査である。調査は18-70歳以上まで幅広い年齢層を対象としているが、今回は特に影響の大きい20代男女について抽出する。比較のために男女計の全年齢の数値も併記する。

これによれば、リーマンショックのあった年近辺の不満度が高く、2019年にかけて徐々に不満度は低くなっているが、2021年以降男女とも急激に不満度が上昇し、リーマンショック時期と同様になっている。2022年においては、20代男性の56%、同女性の67%が不満なのである。これは決して低い数字ではない。

20代男女に比べて、全年齢の平均値(グラフ破線表示)は2022年にそれほど不満度が上昇しているわけではない。実際、60代以上の不満度は高くはない。要は、若い人ほど今の社会に対して満足していないということだ。

さらに、注目したのは、2013-2016年あたりは女性よりも男性の不満度が高かったわけだが、2021年以降は女性の不満度の方が男性を上回ってきている

不満の要因はなに?

同調査では、不満を持っている点について具体的に何かを選択回答させているが、全年代ともに共通してもっとも高いのは「経済的ゆとりと見通しが持てない」というものであるが、年代によってその割合に違いがある。

全体の不満度がもっとも高かったリーマンショック直後の2010年と2022年とを比較したものが以下である。

2010年より2022年の方がまだ全体の不満度は低いのであるが、こと「経済的ゆとりと見通しが持てない」と言っている割合は、2022年の方が圧倒的に上回っている。唯一、下回っているのは40代の男性だけである。

特に、20代男性の割合は男女年代別を通してもっとも高く、女性も20代から60代にかけてほぼ同割合で高い。

2010年は男女とも「経済的ゆとりと見通しが持てない」割合は、いわゆる子育て世帯40代がもっとも高かったのに対して、2022年は20代の若者男女の割合が増加している点が重要である。

今の若者はあのリーマンショック時の40代子育て世代が直面したような経済的危機感を感じていると見た方がいい。それくらい実は、若者の経済環境は悪化しているのだ。

若者のお金の問題を直視しよう

当連載で繰り返し述べている通り、ただでさえ額面給料があがっていない中で、税金や社会保険料負担だけが引き上げられ、ここ最近では急激な物価上昇も加わり、日々の生活だけで精一杯という状況に追い込まれている若者は多い。

写真:イメージマート

東京などの大都市で大企業に勤め、20代の年収中央値をはるかに上回る収入のある一部の恵まれた層は多くて3割程度に過ぎず、2022年の就業構造基本調査によれば、全国の20代未婚男性の年収中央値は300万円にすら達していないのである。

現在の社会に満足できない若者の約7割が「経済的ゆとりがない」と言っているわけで、これをいつまでも放置していいのかという話でもある。

就職氷河期は正規雇用で就職先が見つからなかった若者が多かったゆえの問題だったが、今は仮に正規雇用で就職していたとしても手取りがその時よりも減っているというのが問題なのである。

「結婚できないのは金だけのせいじゃない」論者は相変わらずいるのだが、男性の結婚は年収の高い順から決まっていくというのも事実である。

男の結婚は「年収の高い方から売れていく」が、決して婚活市場には登場しない

出世もお金も子どもも諦めた若者

国の未来を支えていくのは、今10代や20代の若いチカラであることに異論のある人はいないだろう。その若者のうち一部の恵まれた家庭環境のある者を除いた大多数が今や自分の将来にさえ夢や希望が持てなくなっている。

写真:アフロ

以前の記事でも紹介しているが、全国の 13 歳~ 29 歳までの男女を対象とした内閣府の調査で「自分が40歳になったときどのようになっているか」を聞いたものがあるが(令和元年「子供・若者の意識に関する調査」より)、「出世しているだろう」と予測しているのはわずか38%。「お金持ちになっているだろう」と予測しているのはもっと低く、35%にすぎない。

「出世もお金も結婚も子を持つことすら無理だ」という若者たちの未来予想図

加えて、内閣府の別の「2018年我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」によれば(対象は、日本、韓国、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、スウェーデンの計7か国の13-29歳までの若者男女)、「子どもは欲しくない」と回答した割合では、日本と韓国だけが突出して高い。日本の2022年出生率は1.26と低いが、韓国はそれより低く、0.78で世界最下位である。

子どもや若者たち自身に「将来、子どもなんて欲しくない」と思わせてしまう国に未来はあるのか?

将来に希望が持てず、子どもを欲しない若者が増えている現状はもっと深刻に受け止めなければならないが、その要因が若者の経済的問題であるならば。実はいくらでも対処の方法はあるはず。若者の手取りを増やせばいいからだ。賃上げをしなくても手取りを増やすことはできる。

モタモタしていて、中国で起きている「寝そべり族」現象が蔓延してからでは手遅れになる

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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