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「子育て予算を増やしたからといって出生率はあがらない」日本だけではなく世界各国みな同じ

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:アフロ)

お金をかければ少子化解決?

「子育て支援にかける予算を欧州並みにあげれば少子化は改善する」

こんなことを未だに言い続けている大学教授などがいるのだが、結論からいえば、これには何の因果もなければ相関すらもない

子育て支援にかける予算とは、具体的に社会保障費における家族関係政府支出のGDP比を指す。ここには、児童手当や出産などに対する一時金、育休手当などの現金支給ものの他、保育支援サービスの充実などが含まれる。

よく持ち出されるのが、スウェーデンやフランスと比較して日本はこの予算が少ないから少子化なのだという言説である。

「2019年のOECD統計では、この家族関係政府支出GDP比が、スウェーデンもフランスも3.4%にも達しているのに、日本は2%にも達していない。だから少子化なのだ(当該数値は、家族に関わる税金控除分も含んだ数字)」というのであるが、比較対象がこの2か国だけというのがそもそも恣意的である。

確かに、スウェーデンの合計特殊出生率は2019年1.71、フランスは1.86に対し、日本は1.3だった。しかし、だからといって、出生率は予算をかけたか、かけなかったかで決定されるものではない。

もし、予算の多寡で自動的に出生率が決定されるというなら、日本の3分の1しか予算をかけていないアメリカが1.71(2019年)の出生率になっている説明がつかない。都合のいい国のデータだけ抽出するのはマヤカシであろう。

予算と出生率は無相関

これについては過去記事においても、2017年のデータにてOECD38ヶ国での予算と出生率の相関については「無相関である」という記事を書いているが(参照→「異次元の少子化対策」を検証する~子育て支援は出生率に影響するのか?、改めて2019年のデータでも相変わらず「無相関」である。

とはいえ、「ずっと無相関で、何も関係ない」という雑な言い方はしない。

予算と出生率の相関係数の推移でみれば、2005-2010年あたりは、相関係数0.2程度で、弱いとはいえ正の相関があったことは確かである。丁度、この頃フランスの出生率は大きく改善されている。

しかし、2019年にかけて多くの国が「予算を増やしても出生率減」となってしまった。日本も韓国もスウェーデンでさえ。フランスは予算も減である。

※相関係数計算には含むが、図表内には出生率3もあるイスラエルは表示を割愛した。

結局は、「子どもに対してお金を支給」ということをやると、やり始めた当初こそ瞬間的な効果をあげるが、その後は、むしろ「支給されたお金は新たな出生意欲に向けられるのではなく、今いる子の投資に向けられる」ことになり、出生増の効果は失われる。

日本に限らず、全世界的にそうなる。OECDではないが、シンガポールでも同様の現象となっている。

参照→「出生インセンティブ政策では出生率はあがらなかった」シンガポール出生率0.97

皮肉な逆転現象

「子どもに対して支給されるお金は今いる子の投資に回される」結果として、「子育てコストのインフレ」が加速することとなる。これは現在子育て中の夫婦も実感していることだろう。

さらに、このインフレ意識が、独身に対しても、かつては「中間層でもお金のことをそれほど心配しなくても子育てはなんとかなると思えた」のに、現代では「子育てにこれだけコストがかかるのだから、産めない、結婚できない、無理ゲー、一人で生活した方がマシ」という状況を生み出してしまったのである。

事実、中間層以下だけが婚姻も出生も激減した。

「予算を増やせば出生率は改善される」どころか「予算を増やせば、中間層の結婚と出生だけが減る」という結果を招くのである。

北欧と比べれば低いが、日本の予算も2000年対比では、3倍増にもなっている。相当増やしている。増やして子どもの数が増えているのならまだしも、予算3倍増にもかかわらず、同期間の婚姻数は25%減、出生数は27%減である。少子化対策どころか少子化促進になっている。

それは出生率世界最下位の韓国とて同様だ。韓国も2000年対比で予算は13倍もかけたのに、出生率は下げ止まらない。

日本も韓国も増やした予算は一体どこに使われているのか。

出生減の原因とは

何も「この予算を増やしたら少子化になる」という逆因果をこじつけるつもりもないし、子育て予算を減らせという意味でもない。

そもそも、「この予算を増やそうが、減らそうが出生率は下がる」だろう。

写真:アフロ

なぜなら、日本に限らず、世界の少子化は事実婚も含む無婚化が原因だからである。より厳密に言えば、20代の無婚化である。

婚姻またはパートナー関係が成立しなければ、そもそも第一子は産まれない。第一子が産まれなければ、第二子も第三子もない。

ちなみに、フランスと日本の出生率の違いはこの20代の出生率の違いだけである。

参照→フランスと日本の出生率の差~日本の20代が結婚できない問題

二人目以前に「一人目の問題」

「子ども二人目は無理」という話がよく話題になる。そういう夫婦もいることは否定しない。が、全体的に言えば、二人目どころか一人目が無理になったのが今の問題である。

かつて、「一人っ子が増えている」という現象は確かにあった。2000-2005年頃の氷河期末期がそれに当たる。この頃は、まだ中間層の若者でも結婚はできたが、第二子を産むのは躊躇するという経済環境だった。

現代は、第一子出生率に対する第二子出生率の割合が増えている。つまり、第二子以降が増えているということだ。

にもかかわらず、全体の出生数が激減しているのは、そもそも「一人目を産むステージ=婚姻」が減っているからに他ならない。そして、減っているのは、経済力中間層の20代の若者だけなのである。

逆に言えば、「一人目のハードル」が下がれば、自動的に二人目以降は増えるのである。

子育て支援は否定しないが、すでに結婚・出産した夫婦だけを対象としてきたがために、皮肉にも謎に「子育てコストだけが高騰」したことは間違いなく、それにより、かつてお金の心配せずに結婚できていた中間層の若者が結婚できなくなった。「自分らには手が届かない」と諦めてしまっているのが、「今起きている現実」だ。

中間層というのは人口のボリューム層である。そのボリューム層が結婚を諦めれば、やがて中間層の家族というものが滅亡するだろう。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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