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「29歳までに結婚したい」という若者の希望が半分しか叶えられない「不本意未婚」問題

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:アフロ)

少子化とは婚姻減

日本の少子化は、「20代が20代のうちに結婚できない問題」である。

基本的に、出生数は婚姻数と完全に比例する。つまり、出生数が減るのは、その原因としての婚姻数が減っているからに他ならない。

いまだに誤解している人も多いが、1組の夫婦が産む子供の数は、1990年代からの推移を見てもたいして変わってはいない。第一子を産んだ夫婦は、同じ割合で第二子、第三子を産んでいる。「少子化は、第二子以降が産まれない問題ではない」と繰り返しお伝えしている通りである。

参照→「今は一人っ子は増えていない」むしろ深刻なのは「子沢山と無子・未婚の格差」

つまり、昨今の少子化とは、「結婚した夫婦が子どもを産まない」のではなく、その前提である「若者の婚姻数が減っている」からであり、より正確に言えば、「20代の初婚が激減している」からである。

20代の初婚だけ激減

人口動態調査から、2000年と最新の2023年の男女年齢別初婚率(人口千対)を比較したものが以下のグラフである。

男女とも初婚率が大きく減少しているのは20代であり、これがすなわち、20代女性の出生率の低下に直結し、全体の出生率を引き下げていることになる。

フランスの出生率との対比がよく取りざたされるが、日本とフランスの出生率の違いはほとんど20代の出生率の差で説明できる。加えて、日本以外でも中国、韓国、台湾など低出生率の東アジア諸国に共通するのも、この20代の出生率低下であり、つまりは20代の婚姻の減少である。

参照→フランスと日本の出生率の差~日本の20代が結婚できない問題

また、グラフからもわかる通り「晩婚化などは起きていない」。20代で結婚しなかった若者が30代以降で後ろ倒しで結婚するのではなく、「20代で結婚しなければ未婚のままとなっている」のが正しい見方だ。

結婚したいという若者

20代若者の婚姻減については、若者の価値観の変化という理屈をつけたがる識者もいるが、それも正確性を欠く。

それでも「最近の若者は非婚化意識が高くなっている」という意見もあろうが、文科省「21世紀出生児縦断調査」より、2001年に生まれた子どもが22歳になった時の「結婚への考え方」を調査しているものを見ると、「結婚したくない」という明確な意思を持つ割合は、男5.9%、女7.8%程度に過ぎない

むしろ、「29歳までには結婚したい」という累積割合は、男43%、女59%であり、男女とも半分程度は20代での結婚をイメージしている。

しかし、問題はその達成率である。

2022年の就業構造基本調査から、有業男女だけに限って、29歳までの既婚率を計算すると、男25%、女30%にとどまる。つまり、「29歳までには結婚したい」と若者が思っていたとしても、その半分程度しかそれを実現できていないということになる。

これが「若者の不本意未婚」問題である。

明確な意思をもって「自分は結婚しない」という選択をするならいいし、それは尊重されるべきだ。しかし、「本当は20代のうちに結婚したかったのにできなかった」という若者が増えていることも事実だ。それが結果として、20代だけが初婚率減少というものにつながる。

若者の手取り減少

なぜ、20代の若者が20代のうちに結婚できなくなったのか?

その重大な要因として、若者が置かれた経済環境の問題があることは否定できないだろう。「失われた30年」の間、特に20代は、実質可処分所得がまったく増えていない状況にある。なぜならば、賃上げ云々以前に、税金や社会保険料が増えているからである。

写真:イメージマート

その事実の説明については、以下の参照記事をご覧いただきたいが、簡単に言えば、婚姻減は、かつては結婚できていた中間層年収帯の若者が結婚できなくなったことによる。具体的には、20代男性のボリューム層である年収300万円台の未婚化が顕著なのである。

逆にいえば、2000年頃は、年収300万円台でも結婚することができるくらいの手取りがあったことになる。わかりやすい例でいえば、2002年まではボーナスから社会保険料は引かれていなかった。

参照→「結婚なんて無理」20代後半の若者の半分が年収300万円に達しない国・令和のニッポン

参照→給料があがっても可処分所得が減り続ける「バラまかなくていいから取らないでほしい」という切実

しかし、なんだかんだで、がんばって仕事しているのに給料もあがらない上に、引かれる金額だけはチマチマとあげられ、途中消費増税もありつつ、賃上げのニュースだけは聞くものの、物価も高騰しているため、「なんだか以前より生活が苦しいぞ」と思う人も多いだろう。

加えて、上の世代の先輩や上司を見ても、40代氷河期世代も同じように「手取りが増えない」と愚痴をこぼしているのを目の当たりにし、ますます自分の将来の経済的不安が増すばかりだ。

それらの不安は無意識に行動の抑制に向かい、楽観的な思考を遮断し、結婚どころか恋愛する意欲すら失われてしまうだろう(空気を吸うように恋愛する3割の恋愛強者以外は)。

国民民主党躍進のワケ

しかし、政府もマスコミもあまりこの20代が置かれた厳しい環境を正しく認識しようとしない。

もちろん、苦しいのは20代だけではない。現役世代全体がそうであるが、繰り返すが、まずこの20代の若者が行動する気力を失ってしまえば、将来の子どもも労働人口も産まれてこない。

10/27に衆院選の総選挙が行われた。自公連立の過半数割れやその後の政局などが話題となっているが、国民民主党が大きく議席を伸ばした。しかも、比例投票において、20-30代の若者が他党よりも圧倒的に国民民主党を支持した。20代で26%、30代でも22%とトップの支持を集めた。

参照→【速報・出口調査】比例投票先 20代と30代は国民民主党がトップ

それは、同党が「手取りを増やす」というわかりやすい具体的な政策を打ち出していたからだろう。

さらに、国民民主党の榛葉幹事長は、開票速報の番組の中で、以下のようなコメントを出している。

『「野党躍進」とか「国民民主党が伸びた」とか、色々言われてるけど、一番のポイントは国民の悲鳴。野党が議席を伸ばして喜んでいる場合ではなくて、一刻も早く今困っている国民の具体的な救済策を実現させていく。その事に全力を傾けていきたい』

若者の、そして、現役世代の「心からの悲鳴」を聞き取ってくれる政治こそが今求められているのではないだろうか。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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