庇の一部が崩落 改装された木造駅舎の残る四国山地の無人駅 土讃線 大田口駅(高知県長岡郡大豊町)
香川と高知を結ぶ四国の大動脈・土讃線。特急も走る主要路線だが、徳島と高知の県境越えにかかる阿波池田~土佐山田間では吉野川に沿って険しい山間を縫うように走る。そんな区間にある駅の一つが「大田口(おおたぐち)」駅だ。昨日6月30日に駅舎の庇が崩落したというニュースでこの駅のことを初めて知ったという人も多いだろう。
大田口駅は昭和9(1934)年10月28日、高知線の大杉~豊永間延伸に合わせて開業。駅舎は昭和10(1935)年に建てられたもので、分割民営化後に大幅に改装されている。この改装のおかげで駅舎はそれほど古い建物のようには見えなくなっているが、築89年。改装から30年以上経過していることも考えると老朽化は深刻そうだ。
今回崩落したのは駅舎からホーム側に突き出した庇の一部だ。上写真右上に写っている色の違う木材が今回落ちた部分で、元々の庇の一部ではなく後から補強などの目的で追加されたものと推察される。上写真を撮影したのは昨年の3月で、補修が行われたのは令和4(2022)年12月。崩落の原因については公式による究明が待たれる。
大田口駅があるのは昭和30(1955)年3月31日の合併で大豊町となった旧:長岡郡西豊永村の中心で、駅前には農協支所や大豊町総合ふれあいセンターもあり、決して秘境駅という雰囲気ではない。
大田口の駅名は徒歩30分ほどのところにある大田山豊楽寺という寺院に由来する。別名は「柴折薬師」で、愛知県新城市の峰薬師・鳳来寺、福島県いわき市の閼伽井嶽(あかいだけ)薬師・常福寺と共に「日本三大薬師」に数えられているが、この「三大薬師」には諸説あり、この三つの寺以外にも名乗っているところが複数ある。有名な寺院・大田山への入口ということで駅名が付けられただけあって、かつては参拝客の利用も多かったのだろうが、令和5(2023)年度の一日平均乗車人員はわずか2人だという。
しかしたとえ利用者が2人しかいなかろうと、駅設備の安全性は十全に確保されなければならない。今回、けが人が出なかったのは不幸中の幸いだろう。JR四国は近年、老朽化した駅舎を撤去して簡易駅舎への建て替えを進めているが、それも今回のような事故を防ぐための対策の一環だ。鉄道ファンや旅行者にとっては「銀の箱」よりも木造駅舎の方が風情が感じられることだろうが、やはり安全にはかえられない。今回の事故を受けてJR四国のみならず老朽化した駅舎の建て替えが一層加速すると思われるので、気になる駅舎は記録できるうちに記録しておいた方がよいだろう。
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