築100年の木造駅舎が銀の箱に改築 四国で簡易駅舎が増えるワケ
ここ数年、JR四国管内では古い木造駅舎が解体されて「銀の箱」のような簡易駅舎に建て替えられる事例が相次いでいる。平成27(2015)年3月21日に完成した阿波赤石駅(牟岐線、徳島県小松島市)に始まり、徳島県内で9駅、香川県内で2駅、愛媛県内で2駅が簡易駅舎に改築された。建て替え事例を時系列順に並べると以下の通りである。
阿波赤石駅(牟岐線、徳島県小松島市) 平成27(2015)年3月21日
立江(たつえ)駅(牟岐線、徳島県小松島市) 平成27(2015)年12月22日
牛島(うしのしま)駅(徳島線、徳島県吉野川市) 平成28(2016)年3月1日
造田(ぞうだ)駅(高徳線、香川県さぬき市) 平成29(2017)年2月10日
伊予三芳駅(予讃線、愛媛県西条市) 平成30(2018)年3月16日
吉成駅(高徳線、徳島県徳島市) 平成31(2019)年3月1日 ※表題写真
丹生(にぶ)駅(高徳線、香川県東かがわ市) 平成31(2019)年3月1日
山瀬駅(徳島線、徳島県吉野川市) 令和2(2020)年3月10日
阿波中島駅(牟岐線、徳島県阿南市) 令和3(2021)年8月13日
府中(こう)駅(徳島線、徳島県徳島市) 令和3(2021)年9月18日
伊予亀岡駅(愛媛県今治市) 令和3(2021)年12月
阿波半田駅(徳島線、徳島県美馬郡つるぎ町) 令和3(2021)年12月
中田(ちゅうでん)駅(牟岐線、徳島県小松島市) 令和4(2022)年7月
これら13駅のうち伊予三芳駅を除く12駅は「銀の箱」タイプの駅舎だ。阿波赤石駅や造田駅などは待合室部分が締切可能な構造だが、阿波半田駅などはバス停かと見まがうほど簡素な構造になっている。「銀の箱」駅舎としては最新の中田駅も締め切りはできず、雨が激しい日などには吹き込む雨でベンチが濡れてしまう。
いずれの駅も建て替えまでは明治から昭和にかけて建てられた古い木造駅舎があった。建て替え前と比べると駅舎は小さくなっており、近くに高校があって利用者も多い中田駅などでは雨天時に利用者を収容できないという事態も起きているようだ。
「銀の箱」はなぜ四国でその数を増やしているのか。その背景にはJR四国の厳しい経営状況がある。当然、路線維持のためには少しでも経費を削減することが求められるが、その一方で老朽化した設備も更新しなければならない。JR四国では発足直後、保有する木造駅舎のほぼすべてを改装して長寿命化・美装化を図ったが、それから30年以上が経過した今、それらの駅舎が寿命を迎えているのだ。木造駅舎は新しいものでも築70年、古いものでは築100年を超えており、安全に使うには建て替えるか、それと同じかそれ以上の費用をかけて改修しなければならない。そこでJR四国が選んだのが比較的安価に建設できる簡易駅舎への建て替えだった。有人駅時代に建てられた木造駅舎と比べると、駅員の執務スペースを省ける分コンパクトにでき、ただ小さくするだけでなく構造を画一化することでさらに費用を削減することができる。もっとも、こうした簡易駅舎は近年生まれたものではなく、国鉄末期の昭和50年代頃から全国各地に建てられていた。
今後も駅舎の改築は進む見込みで、引田駅(高徳線、香川県東かがわ市)と讃岐財田駅(土讃線、香川県三豊市)、阿波加茂駅(徳島線、徳島県三好郡東みよし町)の建て替えが計画されている。このうち阿波加茂駅では地域住民が建て替え反対の署名を町に提出した。駅の建て替え計画がJRから町に伝えられたのは令和2(2022)年2月頃で、JRからは駅舎を町へ無償譲渡することも提案されたが、町はコスト増を理由に無償譲渡を受けない方針を示した。建て替えについて説明会などは開かれず、これに対し一部の住民は「住民の知らないところで計画が進められている」と反発。町に対し、「住民の意見を聴くこと」「無償譲渡を受けることを前向きに検討すること」「住民の集まる場所として駅舎を活用する方法を検討すること」を求めている。
JRが東みよし町に提案した駅舎の無償譲渡だが、この提案を受け入れて駅舎を活用する方向に舵を切った自治体もある。牧野富太郎博士の出身地として知られる高知県高岡郡佐川町だ。佐川町には土佐加茂、西佐川、襟野々、斗賀野と4つの無人駅があり、このうち襟野々を除く3駅に木造駅舎がある。町は平成28(2016)年10月17日に西佐川駅と斗賀野駅の駅舎を譲り受け、翌年に駅舎の改修を行った。改修に合わせて西佐川駅には「仁淀ブルー観光協会」が入居し、斗賀野駅には地域交流スペースが設けられた。
また、隣の高岡郡日高村も村の玄関口である日下駅の駅舎を譲り受け、改修して交流拠点として活用することを目指している。地域の玄関口である駅をJRまかせにせず自治体で引き受け、住民も参加して駅を活用していく2町村の姿勢は、駅のこれからの在り方を考える上で、モデルケースになるだろう。