リーグ初代王者・富山GRNサンダーバーズの吉岡雄二監督が今季を振り返って思うこととは
■日本海リーグの初代チャンピオンに輝く
「世界一小さなミニマムリーグ」として今季船出した日本海リーグ。所属するのは富山GRNサンダーバーズと石川ミリオンスターズの2チームだけ。
シーズン40試合を3つのタームに分け、ターム1は富山が8勝6敗1分、ターム2は石川が9勝5敗1分で、それぞれポイントを奪取した。そしてターム3では富山が独走し、なんと10試合全勝して初のリーグ王者に輝いた。
ポストシーズンには松山坊っちゃんスタジアムで行われた独立リーグ日本一を決めるグランドチャンピオンシップに参戦し、健闘した。惜しくも勝ち上がれなかったが、最後の最後までしぶとく粘り、そのあきらめない姿勢はファンの心を打った。
■NPBドラフト会議で3人が指名された
さらに富山からはNPBドラフト会議で3人の選手が指名を受けた。最速159キロ右腕の大谷輝龍投手が千葉ロッテマリーンズから2位で、不屈の闘志を持つ松原快投手が阪神タイガースの育成1位で、長打力にとてつもないポテンシャルを秘める髙野光海選手はマリーンズ育成3位で、それぞれ指名された。
球団史上最多&最高位、そして地元富山出身者の指名(快は富山県黒部市出身)と、富山球団として初尽くしのドラフトとなった。
■選手の可能性を探り、それが実った
指揮を執る吉岡雄二監督にとっても感慨深い1年となったようだ。ターム3でぶっちぎりで優勝を決めたことについて、その勝因をこう明かす。
「まずピッチャーですね。ピッチャーが個々に、最後いい状態に作ってきてくれた。野手もターム2はエラーとか、記録には出ないけど試合を左右するようなミスもけっこうあったけど、それを細谷(圭)コーチが立て直してくれた。投打が噛み合って勝ちだすと、自然に乗っていけたというところはありますね」。
チーム状態の波を最後に上げていけたのが大きかったと振り返る。
投手に関しては、ターム1でポイントを獲れたことで、ターム2ではいろいろ試すことができた。たとえば先発していた林悠太投手や瀧川優祐投手をブルペンに回したり、若手の小笠原天汰投手、水野琉唯投手、石灰一晴投手らを先発に据えて経験を積ませたりした。
「いろんな可能性を探るということをやっていましたね。先発がやりたいという林もターム1ではうまく試合も作れていたけど、ゆくゆくは先発に戻ったとしても中継ぎの経験はいいだろうと思い、話をしてターム2では中継ぎをさせた」。
先発から中継ぎになると試合への入り方も違い、非常に難しい。林投手が苦労していたのもわかりつつ、それ経験をしたことでターム3の先発ではコンディションのもっていき方が上手になり、内容的に成長したものが見られたとうなずく。
■鉄壁のリリーバー
大きかったのは、“後ろの4枚”の確立だ。シーズン途中から、独立リーグでも類を見ない確固たる「勝利の方程式」が形成された。150キロ投手の4人は速球だけでなく変化球も秀逸で、それぞれタイプがまったく異なる。
「先発も五回までしっかり作ればいい。そこに集中できるので、いい相乗効果が生まれた。独立でここまで揃うなんて、僕自身も初めてですよ」と言って微笑む吉岡監督だが、開幕時からこれを想定していたわけではない。
「春先は、その子の可能性のほうばかり見ていたのでね。どこで、どのくらい成長するとか、こういうふうになったらいいなとか、ね。その中で選手たちが自分でしっかりと投げる場所を確立していった。みんなが刺激し合っていたのが、よかったのかもしれない」。
カットボールの使い手・日渡柊太投手、常時150キロオーバーの大谷投手、スリークォーターからのスライダーが武器の快投手、そしてクローザーは元東京ヤクルトスワローズ(当時は捕手)の山川晃司投手。この4人の鉄壁のリレーが完成し、石川打線を寄せつけなかった。
■ドラフト指名投手について
中でもドラフト指名された二人については、吉岡監督も感じ入ることが少なくないという。
「二人とも社会人ではあまり出場がなく、独立に来た。とくに快は年齢の壁もある中で、NPBへ行くという思いを強くもって、時間をすべてそこに使って行動できていた。その強さと自分の姿を変えていくのとがマッチした。だから、指名されたときは本当に嬉しかったですね」。
これまで吉岡監督のもとからNPBへ巣立った野手は、今年の髙野選手を含めていずれも若く、その素材を買われてのものだった(*本稿末に記載)。育成枠で入団後にNPB球団での開花が期待されての指名だ。
しかし快投手、大谷投手に関しては「来年、1軍で投げてても全然不思議ではない力をつけた中で入るので、非常に楽しみなんですよ」と相好を崩す。
■吉岡監督が語る松原快と大谷輝龍
二人について、吉岡監督はこんなふうに語る。
◆松原快
「昨年、指名漏れしたときには本当にショックを受けていて、何も考えられない状態の姿で解散した。それだけに、その後すぐに自分と向き合って翌年に向けて動き出した、その時間がとても早かったことに驚いた。快ぐらい時間を無駄にしない選手はいないんじゃないですか。
今年一年、本当にしんどかったと思うんですよ。試合で抑えて成績は出していても、本人の中ではすごく苦しさもあって、常に『このままでは…』っていうところで戦っている時期もあった。
でも今後、支配下になって1軍のマウンドで投げるとなったとき、これがすごくいい経験となって生きてくると思うし、そうなってほしい。
あの苦しむ姿を見てきて、しんどさを共有している部分もある。だからこそ、なんとかしてあげたいなっていう思いにさせられる。快が1軍で投げたら泣いちゃうなって、みんなとも話してるんですよ。
快はね、一緒にやった人ならみんな、応援したくなる子。周りがみんなそう。なので、指名は非常に嬉しかったですね。喜んでる人が多いと思う。今、“親戚”も増えちゃってるんじゃないかな(笑)。全然知らない人もいるよ、みたいなね(笑)」。
(松原快・最新記事⇒“令和のJFK”は『SIKY』? タテジマに袖を通した松原快(阪神)が独立リーガーリレーの愛称を求む)
◆大谷輝龍
「シーズン中に顔つきがすごく変わりましたね。最初は故障で出遅れて、試合で投げるまでにいろいろ話していたころの顔と、試合に投げだしてからの顔が全然違った。
試合で投げはじめて、抑えるたびに落ち着いていった。経験を積みながら、自分ですごく勉強しているなというのは見えましたね。
最後の松山でのパフォーマンスで、さらに評価が上がったのは間違いない。スカウトが何十人もいる中で、球速も出て変化球もしっかり投げていた。すべてのストレートが150キロ中盤から後半を出すのがすごい。
大谷がいいのは、クイックになってから球速が上がったりすること。普通は逆ですよね。159キロが出たときもクイックでした。
球速のことばかり言われちゃうけど、球速よりボールの活かし方を覚えて、自分の引き出しを増やしてほしい。大谷に必要なのは経験。いいバッター、力のあるバッターとの対戦は未知数なので、そこで打たれるということを経験して、さらに進化していけば、球速(の話題)は目立たなくなると思う。今はその通過点で、それだけのポテンシャルを持っているということ。
球速に関しては今後160キロも自然に出るだろうし、出ても驚きはしない。普通どおりやっていけばね」。
(大谷輝龍・最新記事⇒「日本海のオオタニサーン」から「幕張のオオタニサーン」 ロッテ2位の大谷輝龍は三振で流れを引き寄せる)
■重要だと再認識した食事面
独立リーグチームの指導者として、来季は通算11年目になる。途中、北海道日本ハムファイターズで3年、ファーム打撃コーチも経験している。そんな吉岡監督だからこそ、考えている問題点がある。
「指導や接し方など選手育成においてのスタンスは変わらないけど、選手たちが伸びる環境というのは、何か考えないといけないなと思っています。とくに食事ですね」。
これは富山球団の永森茂社長もずっと口にしていることだが、とくに今年の大谷投手を見ていて、食事の重要性を痛感したという。
「大谷は親が近くに住んでいたので食事の協力をしてもらえて、体の中身がすごく変わった。その変わったのと球速が比例していったんですよ」。
定期的なインボディ測定によって筋肉量や体脂肪ほか、さまざまな数値を把握し、パフォーマンスと照らし合わせる。そこからさまざまなものが見えたのだ。
「栄養素などの食事の内容だけではなく、大谷は食べる順番など摂り方も勉強していた。そういう部分も大谷の能力を引き出す大きな要因だったんじゃないかと思います」。
自身が求めるフォームが体現できるようになったのも、思ったように使える体に作り上げたからこそで、それはトレーニングはもちろんだが栄養面での充実もなくてはならなかったということだ。
急成長する愛弟子の姿を間近で見てきた吉岡監督は、その体の変わり方を成功例として自身の中にインプットした。となると、“第2の大谷”を生み出すためにも食事は見過ごせない。
「入団時に評価の高くない子がスカウトに見てもらえるようになることもあるだろうし、能力の高い子は、さらに(NPBへの)可能性が上がることにもなるだろう。単に野球の技術を上げるだけではなく、食事によってその可能性を広げる部分は大きいんじゃないかと考えています」。
現実的にすぐに形に整えることは至難だが、少しでもいい方向に向かうよう今後の重要課題として、永森社長とともに頭をひねっていく。
■“本気のなり方”を目の当たりにした選手たちへ
さて、連覇のかかる2024年だが、昨年からの既存選手と新入団選手とでまた新たなチームを作り上げていく。もちろん、引き続きNPBへ輩出するための原石を磨くことは重要任務だと自身に課している。
幸いにも今年、3選手が指名を受けた。まざまざと見せつけられた「NPBへ道」、これを参考にしない手はない。彼らの取り組み方を目の当たりにしてきた選手たちにとっては、大きな生きた教材となったはずなのだから。
「彼らの頑張りは、僕らより選手たちのほうが感じているだろうし、刺激もあったと思う。残る選手たちには、『あのくらいやらないといけないんだ』というところを自覚として持ってもらえたらいい。“本気度”というか、“本気のなり方”みたいなところは自分の中に取り入れて、見習ってほしい」。
限られた時間をどう使うか。後悔なく過ごしてほしいと、吉岡監督は願うばかりだ。自身ももちろん、来年もまた選手たちと本気で向き合う一年になる。
(表記のない写真の撮影は筆者)
*吉岡雄二監督のもとでNPB入りした野手
中村恵吾(2014年・福岡ソフトバンクホークス育成8位)
和田康士朗(2017年・千葉ロッテマリーンズ育成1位)
速水将大(2021年・千葉ロッテマリーンズ育成2位)
髙野光海(2023年・千葉ロッテマリーンズ育成3位)
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