帝京魂?いや雷鳥魂だ!父のように選手を見守る吉岡雄二監督(富山GRNサンダーバーズ)の原石を磨く日々
■通算7年目の吉岡雄二監督(富山GRNサンダーバーズ)
今春、新生・日本海リーグが船出した。日本の独立球界において古豪である富山GRNサンダーバーズと石川ミリオンスターズがこのリーグに属し、40試合の直接対決ほかNPBのファームなどと試合を重ねる。
富山球団の指揮を執るのは吉岡雄二監督。富山では通算7年目のシーズンを迎えている。
1989年のドラフト3位で帝京高校から読売ジャイアンツに入団した吉岡監督は、1997年に近鉄バファローズ(のちに大阪近鉄バファローズ)へトレード移籍、2005年には球界再編による分配ドラフトで東北楽天ゴールデンイーグルスに移り、NPBでは通算19年間プレーした。
メキシコ球界でも活躍した後、2010年に現役引退を表明。愛媛マンダリンパイレーツ(四国アイランドリーグplus)でのコーチを経て、2014年に富山球団の監督に就任した。
その後、北海道日本ハムファイターズのファーム打撃コーチに招聘されて3年間務め、2021年、富山に戻って再び監督に就いた。指導者として11年目のシーズンとなる。
今年のチームや指導論など、吉岡監督自身の考えを聞いた。
■29人の選手をうまく活用
「今年は去年より人数が多いんです。練習生も含めて29人。(故障などで)まだ登録できていない選手たちも、治って普通にできるようになったら非常に楽しみ。いろいろな選手を起用しながらやっていきたいなとは思っています。固定というよりはね」。
もちろん、そこには競争がある。競わせ、切磋琢磨させながら、うまく回していきたいという。同じ相手と40試合戦うということも勘案し、とくに投手に関しては「いつも同じ投手が投げているというより、いろいろな投手が投げられる状況にと考えていきたい」と、対戦相手に慣れられない工夫をしていくと話す。
「高校生のピッチャーも2人も入ってきた。地元(射水市)の石灰(一晴)に関しては2月に合流してから順調に段階を踏んできていて、非常に成長が見えるので、シーズンでも投げる機会を作っていきたいと思っています」。
開幕2戦目に登板し、2失点はしたが若々しい活きのいいピッチングを見せた若武者に、指揮官は「よく投げたな」と讃えた。昨年からのメンバーに加え、新戦力の台頭を楽しみにしている。
■原石を磨く
新生リーグとして、永森茂社長とともに大きな夢を抱く。「基本はチームとして勝つためにということになるけれど、原石を見つけて、ここからNPBやメジャーに送り込めるように育てるっていう、その両方を追いながらやっていきたいと思っています」と、勝利と育成のどちらも求めていくと力を込める。
そのための方針にブレはない。選手には「失敗してもいい。まずトライすることがたいせつ」と説く。
「チームミーティングでも話したんですけど、ここに来ている意味や目的、もう一度そこを頭に入れて、自分自身をしっかり持ってやり続けてほしいと。いろんなことがあるけど、自分の夢を実現するためにも、そこはブレずに。そして、試合では自分の考えを持って、どんどんトライしてほしい。そこを必死にというか、一生懸命やってほしい。失敗を怖れないで、まずやることのほうが大事。保身に走ってはダメ」。
シーズンは長い。最初は意気揚々と臨んでいても、流されることもあればブレることもある。「自分」を持ち続けることは非常に重要である。
■選手の考えを聞くこと
試合前の練習時や試合中、そして試合後など、選手と話し込むシーンをよく見かける。ときには十数分と、長い時間の立ち話になることもある。
「ポイント、ポイントで話をしたり、こちらから聞きにいったりね。たとえばピッチャーだったら『ここはどういうことを考えてマウンドに行ったのか』とか。結果でじゃなく、そこをまず確認しないと。何をしに行ったのかが大事。漠然と行ったとか、気持ちで行ったとか、それではちょっと…と思うので、そういうところは確認するようにしています」。
具体的に自分が何をすべきか、どうしたいのか、どうするつもりなのかなどのプランがないと、抑えても“たまたま”になってしまう。しっかりとした根拠を持つことを重要視している。抑えても、打たれても、だ。
監督からそういう問いかけをされることで、選手の意識も高まるだろう。「答えられない選手もいますけどね」と苦笑はするが、それも積み重ねていくことで訓練されていく。
もちろん投手だけでなく、野手に対しても同じことだ。ヒントや気づきを与えながらアドバイスし、自分で考えさせ見つけさせていく。だから決して頭ごなしには言うことはない。
「選手たちに押し付けるのではなく、感じさせる。『これか!』とか『もしかしたらこうしたらどうかな』とかって自分で気づくことが大事で、そのほうが継続しやすいんですよ。もちろん、『こうしなさい』と言ってやるのが大事なときもあるんですけど」。
そのあたりは選手をよく観察し、加減している。ただ、自ら考える、感じるということは促す。
■自分で考える方向に導く
開幕2戦目は、試合中に源氏選手と話をした。石川球団の先発・村上史晃投手に対してのアプローチが気になったのだ。ストレートに対してずっと同じようなファウルをしていて、2打席凡打してベンチに帰ってきていた。
「あそこで同じ備えをして同じファウルの仕方をしていたら、そういう結果にしかならない。あの球を打つにはどうしたらいいか、自分の中でもう一つ何か備えをして、トライしてこい」。
「こうしなさい」とは言わず、自分で考えて準備をする方向に目を向けさせた。すると、3打席目に兆しが見えたセンターライナー、さらにその次の打席ではセンターへヒットを放った。
「そうやって考えてやっていくことで、対応の仕方も変わってくる。源氏もそういう対応や変化はできていると思う」と、愛弟子の成長に頬を緩めた。
直接的な答えを言うのではなく、自分で考えるように導く。
「しっかり振るとか、それももちろん大事ですけど、それだけではなかなか確率は上がらない。自分自身のことが見えたり自分自身の状態が把握できたりしたら、対応の仕方も考えられる。それをトライしてほしいんですよ。そうなっていくと、自然と意欲的にもなると思います」。
そういった経験を積み重ねながら自分を見つけることで、前を向き、高みを目指すようになるのだと語る。全員がそうなってくれることを願うが、「なかなか難しいです」と頭をかく。ただ「結果だけで見ることはしない」と、重ねて強調する。
■性格の見極め
吉岡監督自身も選手とともに考えている。「みんな難しく考えてしまうので、そこは背中を押せるところは押しながら、進歩しているかをしっかり見て、ちゃんと言ってあげたい」と、向き合っていっているつもりだ。
ただ、さまざまな選手がいる中で、すべての選手に同じやり方が合うとも思っていない。そこは性格などをしっかり見極めることだという。
「小さいころにどういう環境で育ったのかとか、発言の仕方とか、そういうのが性格に出てくる。だから話していると、『あぁ、だからこうなんだな』というのは見えてきますね」。
そのために対話をし、しっかり見る。それが指導する上で重要なことなのだとうなずく。
■ファイターズでの経験
愛媛で指導者の道を歩み始めたときから、「目線は自分じゃなくて選手のほうにと考えていたつもり」と、選手ファーストではあった。「選手にとって、どうするのがいいのかを常に考えてきた。(自分の)クビとかを気にしたり、保身に走ったりするのって、しんどい」。向いている方向はいつだって選手だ。
そして、さらに「ハムでの経験も大きかった」と、ファイターズでの3年間を振り返る。
「ハムの育成の仕方や、どういうことに気をつけなくちゃいけないとか、あらためて感じた部分もあったし、『やっぱこうだよな』と再確認できたこともあった。そういう経験ができたというのは、あの3年間は非常に大きかったと思いますね」。
指導者としての引き出しを増やすとともに、あらためて確信した。選手をしっかり把握しなければと。「どういう子か把握できていないうちに指導しては、絶対に間違います」と、先入観や見た目だけで判断して技術指導することだけはしてはいけないと、その思いを貫いて現在に至る。
■雷鳥軍団の2023年
だから、選手とはできるだけ対話をする。そして汲みとる。懐深く、選手たちを受け止める。体も大きいが、心も広く大きい。
温かいお父さんのような吉岡監督のもとで、雷鳥軍団がどのように成長していくのか。楽しみな2023年シーズンだ。
(表記のない写真の撮影は筆者)