Yahoo!ニュース

湯浅京己の古巣、富山GRNサンダーバーズから阪神タイガースに仲間入り!「旬の男」松原快が育成1指名

土井麻由実フリーアナウンサー、フリーライター
左から髙野光海、大谷輝龍、松原快(写真提供:富山GRNサンダーバーズ)

■やってきたことが報われた

 夢がかなった瞬間だった。

 「頭が真っ白になるって、ああいうことをいうんだなって知りました(笑)。初めてですよ」。

 2023年NPBドラフト会議。育成1位で阪神タイガースから指名された富山GRNサンダーバーズ松原快(登録名は快)投手だ。頭が真っ白になったその直後、涙があふれてきた。そのあとのことは、思い出せないという。

 昨年の指名漏れの悔しさを噛みしめ、並々ならぬ思いで今年に懸けてきた。練習内容、ストレッチ法、マインド、姿勢…いいと思えばすぐに取り入れて、実践してきた。生半可な努力ではなかった。(快投手の1年間の取り組みについて⇒関連記事

 それらがすべて報われた。いろいろな思いが詰まった涙だった。

さまざまな思いが去来する(写真提供:富山GRNサンダーバーズ)
さまざまな思いが去来する(写真提供:富山GRNサンダーバーズ)

■吉岡雄二監督の言葉が落ち着かせてくれた

 今年ともに戦ってきた盟友、大谷輝龍投手が千葉ロッテマリーンズから2位指名を受け、「すごい!」と驚いた。だが、そこから自身の名前が呼ばれるまでの間、「自分の心臓のドキドキ音が聞こえてましたもん。まじでやばかったです」と尋常でない精神状態であったと明かす。

 本指名が終了したところで「あぁ…」と肩を落とすと、吉岡雄二監督から声をかけられた。「いや、まだあるぞ」。吉岡監督の言葉は安心感を与えてくれ、指名があるはずだと信じて待てた。

 そして育成ドラフトの1位でその名をコールされた。地元の富山県出身選手の指名は球団史上初。さらに大谷投手の支配下2位も球団史上最高位、髙野光海選手(マリーンズ育成3位)と合わせて計3人の指名も、サンダーバーズでは最多という快挙だ。

指名後の会見に応じる松原快 左は大谷輝龍(写真提供:富山GRNサンダーバーズ)
指名後の会見に応じる松原快 左は大谷輝龍(写真提供:富山GRNサンダーバーズ)

■タイガースについて

 タイガースのファームとは今年、2度対戦した。ホームの高岡では2四球は出しながらも3三振で1回を無失点、ビジターの鳴尾浜では2回をパーフェクト(3奪三振)に抑え、アピールに成功した。

 「(タイガースは)強いチームだし、ピッチャーもバッターもいい。危機感をもって臨まないと」と語り、「同い年の選手が多いので頑張るモチベーションになります。負けられない」と負けん気の強さを見せる。

 同い年の中でも、湯浅京己投手はサンダーバーズの出身だ。ずっと気になる存在で意識もしてきた。活躍も見てきた。自主トレをともにした読売ジャイアンツ大勢投手と仲がいいことも知っている。

 7月の鳴尾浜での練習試合のあと、初めて言葉を交わした。内容は大勢投手との自主トレのこと、富山での行きつけの店(麺家やす)のこと、選手寮「大滝宿舎」のことなど、“サンダーバーズあるある”を交えたたわいない話だったが、しっかりと刺激をもらえた。

 その湯浅投手とまさかチームメイトになるとは…。「湯浅がいるのは安心だけど、ライバルにもなるわけだから。負けないように頑張りたい」と、意気込みを新たにしていた。

7月23日の練習試合後、鳴尾浜球場にて(左)松原快、(右)湯浅京己(撮影:筆者)
7月23日の練習試合後、鳴尾浜球場にて(左)松原快、(右)湯浅京己(撮影:筆者)

■担当は筒井和也スカウト

 さて、同じチームからの虎入りということは担当スカウトも同じ、筒井和也氏だ。筒井氏は中野拓夢選手や富田蓮投手も担当している。

 「一言で言うと“旬”。今が旬なピッチャーですよ」。

 快投手について、筒井氏はそう表現する。

 社会人チーム・ロキテクノでのルーキーイヤーからからずっと見てきた。元タイガースの藤田太陽監督からも「おもしろいですよ」と紹介されたが、一発勝負の社会人野球では制球力がないと登板機会は少なく、その当時は指名の対象としては見られなかった。

 「昨年も安定感っていう意味ではまだ社会人時代の脆さみたいなものが見えていた。でも今年は表情も違うし、ピッチングに“根拠”をつけてきているなと思った」。

 明らかな違いを見てとり、今年、脂が乗ってきたことを感じていた。

緊張の面持ちで指名会見に臨む(写真提供:富山GRNサンダーバーズ)
緊張の面持ちで指名会見に臨む(写真提供:富山GRNサンダーバーズ)

■「縁」があった

 スカウティングは「縁」だと、筒井氏は語る。

 「快の試合は何試合も見た。行く予定ではなかったのに会社の都合で行くことになったりと、なんか見ることになるんですよね」と、期せずしてタイミングが合うことが多かったと振り返る。

 また、独立リーグ日本一を決定するグランドチャンピオンシップ(坊っちゃんスタジアム)で今季最多の5失点したことに触れ、「ドラフト直前の印象って、けっこう順位に反映される。あれでほかの球団は指名を控えたのかもしれない。だから、ウェーバーで指名順が遅いウチに回ってくるまで残っていたんでしょうね」と述懐する。

 さらにウェーバーの順番がらみでもう一つ。次のオリックス・バファローズも快投手を狙っているとの情報を得ていた。この育成1位で指名しなければ、そのあとのバファローズには1位、折り返しての2位と、2度の指名チャンスがある。

 そこで筒井氏は「なんとしても先に指名を」と進言して、育成1位での指名が実現した。

 「いろいろ重なって、縁があったって感じですね」。

 その縁に感謝している。

和田豊ファーム監督(右)と話し込む筒井和也スカウト(撮影:筆者)
和田豊ファーム監督(右)と話し込む筒井和也スカウト(撮影:筆者)

■応援したくなる選手

 惚れ込んだのはピッチングはもちろんだが、そのプロ意識と人間性、そしてプラス思考の性格だ。

 「1週間くらい前に富山に行ったとき、快が一生懸命練習してるんですよ。『1月から合同自主トレですよね』って。『そこで投げられないんじゃ話にならないから、もう今、仕上げてます。ちゃんと逆算してやってますよ』って言うんです」。

 指名されるかどうかもわからないのに、だ。しかし快投手は「かからなかったらどうしよう」と考えるのはやめ、指名があると信じて自身を追い込んでいたのだ。

 「そういう考えって、すごく大事」と、そのプロ意識に筒井氏は感嘆したという。

 そんな一生懸命さだから、周りの人々も「なんとしてもNPBに行かせてやりたい」と願う。

 「太陽さんには今も『快を応援したいんで、獲ってやってほしい』と言われるんです。昔の指導者にそんなふうに言われるって、なかなかないと思う。吉岡監督からも『一番信頼がおけるから』ってお願いされる。そういう人柄なんでしょうね。大事なことだと思います」。

 誰もが応援したくなるのだ。

 そして先述したグランドチャンピオンシップでの失敗についても、快投手が「経験はなにものにも代えられないって、ポジティブに考えるようにしました」と言うのを聞いて、「なにくそと思うことがエネルギーになる。こんなにプラスに考えられるのはすごい」とうなずく。

 さまざま勘案し、「タイガースに合うんじゃないか。こいつならやるかもな」と思うようになってきた。「指名するかどうかを決めるのは僕じゃないけど、強く推すことはできる」と、球団に猛プッシュした。

左から吉岡雄二監督、髙野光海、大谷輝龍、松原快、永森茂球団社長、瀬戸和栄リーグ代表(写真提供:富山GRNサンダーバーズ)
左から吉岡雄二監督、髙野光海、大谷輝龍、松原快、永森茂球団社長、瀬戸和栄リーグ代表(写真提供:富山GRNサンダーバーズ)

■崖っぷちから這い上がる

 そんな筒井氏に応えるためにも、大事なのはここからだ。快投手もそれは重々承知している。

 「指名されたといっても、崖っぷちなんで。しっかり練習して、1月の新人合同自主トレからインパクトを残さないといけない。即支配下っていうのを目標にしてやっていきます」。 

 そう決意を述べた。

 と、そのとき電話が鳴った。「あ!大勢からだ!」と声を弾ませる快投手。当然、話はここで強制終了となった。

 快投手、湯浅投手、大勢投手ら1999年世代が切磋琢磨しながら、これからの野球界を盛り上げてくれそうだ。

鳴尾浜で次に投げるときはタテジマをまとう(撮影:筆者)
鳴尾浜で次に投げるときはタテジマをまとう(撮影:筆者)

【松原快(まつばら かい)】

1999年8月24日/富山県黒部市

180cm・82kg/右・右

高朋高校―ロキテクノ

最速156キロ

2種類のスライダー、シンカー

【松原快*関連記事】

指名漏れの悔しさから進化!NPB戦で無類の強さを誇る156キロ右腕

日本海オセアンリーグ『イケメン名鑑』投手編

150キロのスリークォーター・松原快は元阪神・藤田太陽の愛弟子

【大谷輝龍*関連記事】

最速157キロ!独立リーグのオオタニサーンこと大谷輝龍(日本海・富山)

 注)現在は最速159キロ

フリーアナウンサー、フリーライター

CS放送「GAORA」「スカイA」の阪神タイガース野球中継番組「Tigersーai」で、ベンチリポーターとして携わったゲームは1000試合近く。2005年の阪神優勝時にはビールかけインタビューも!イベントやパーティーでのプロ野球選手、OBとのトークショーは数100本。サンケイスポーツで阪神タイガース関連のコラム「SMILE♡TIGERS」を連載中。かつては阪神タイガースの公式ホームページや公式携帯サイト、阪神電鉄の機関紙でも執筆。マイクでペンで、硬軟織り交ぜた熱い熱い情報を伝えています!!

土井麻由実の最近の記事