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「教員に残業代支給」の正体が判明。ますます学校をブラック化させる財務省のプラン

前屋毅フリージャーナリスト
財務省は子どもたちを育てる学校にしたいのか?(写真:イメージマート)

「教員に残業代支給」と、一部のメディアで飛び交っていた情報の大本が明らかになった。財務省の諮問機関である財政制度等審議会の財政制度分科会歳出改革部会が11月11日に開かれ、そこに財務省からの資料が配布されている。それは「財務省の見解」であり、それこそが問題の大本でもある。

|浮かれてなんていられない

 多くの教員が、過労死ラインを超える残業を強いられている。しかし、残業代は支払われていない。残業代に代わって一律に支払われているのが教職調整額である。

 文科省は8月29日に2025年度予算の概算要求を発表し、教職調整額を現行の「給与の4%」から13%に引き上げる案を盛り込んでいる。これを11日に財務省は、「否定」している。

 否定しながらも、「10%」という数字を示してもいる。13%ではなく10%なら認める、というわけではない。10%には条件がつけられている。

 一定の集中改革期間を設けて、その期間に教員の勤務時間を所定内(週38時間45分)に収めていくことができれば、実績に応じて「段階的」に引き上げていくというのだ。その最大値が10%としている。そして10%に達したら、もしも例外的に所定外勤務時間、つまり残業時間が生じることがあれば、それについては労働基本法(労基法)の原則どおりの残業代を支払うという。

 念押ししておけば、教職調整額の段階的な引き上げ、残業代の支払いは決まったわけではない。あくまでも財務省が示した案でしかない。13%はダメだったが10%に引き上げられる、残業代が支払われる、と浮かれてはいられないのだ。

|エサをぶらさげれば教員は釣れると考えているのか

 しかも、財務省の案には問題が多い。所定内勤務時間に収めた実績に応じて教職調整額を引き上げていくということは、残業を減らせば教職調整額は上がるが、減らすことができなければ上がらない。教職調整額が10%になるのも、残業がゼロになったときでしかない。教職調整額のアップをエサにして、残業ゼロを釣ろうとしているわけだ。

 教員は好きで残業しているわけではない。増えるばかりの業務量をこなしていくには、残業するしかないのが現状だ。にもかかわらず、エサを目の前にぶらさげれば教員は残業をしなくなるという発想そのものが、大きな間違いでしかない。

 もしも財務省の案が実現すれば、文科省は教員の勤務を所定内に収めさせることに必死になるだろう。それが自分たちの評価にもつながってくるから、必死にならざるをえない。

 ただし、残業ゼロのために効果的な策を、文科省が打ち出せるとはおもえない。残業ゼロにするには業務量を減らすしかないのだが、文科省がやってきたことは逆ばかりである。そして、「減らせ」と上から命じるだけのことだ。文科省は教育委員会にハッパをかけ、教育委員会は学校の管理職にハッパをかける。そして管理職は、「残業を減らせ、残業するな」と教員に圧力をかけることしかできない。まさに、パワーハラスメント(パワハラ)でしかない。財務省の案が実現すれば、間違いなく学校でパワハラは強まる。

 そして教員は、終わらない仕事を持ち帰ったり、タイムレコーダーを押してから仕事を続けたり、朝早くに出勤して終わらなかった仕事をやらなければならなくなる。それは現在でも行われていることだが、財務省案によって、ますます酷くなる可能性は高い。学校のブラック化は深刻化するばかりとなる。そういう環境が、はたして子どもたちが成長していく場としてふさわしいものだろうか。

 結果をださなければカネはださない発想では、子どもたちが育つ環境をつくるどころか、破壊していくことにしかならない。それは、現状をみればわかる。環境をつくれば結果もついてくる、そういう発想にならないものだろうか。

 

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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