大雨予報から奇跡の試合開催!雷鳥たちが虎に食らいついた《日本海リーグ・富山GRNサンダーバーズ》
■奇跡的な試合開催
最終回、雷鳥打線がジワジワと虎を追いつめ、1点をもぎ取った。4-6と2点差で敗れはしたが、意地は見せることができた。
6月28日、阪神タイガースを本拠地に迎えた富山GRNサンダーバーズ。しかし天気予報は絶望的だった。誰もが中止だと予想しただろう。前夜の雨はとてつもなく激しく、水はけがいいとはいえないボールパーク高岡のグラウンドの土は、たっぷりと水を含んでいた。
さらにそこへ正午ごろ、瞬間的に豪雨が落ちてきた。追い打ちをかけるように雨雲レーダーは、そのあとも大量の雨が襲ってくることを告げている。
しかし予報は裏切られ、上空は明るくなってきた。サンダーバーズファン、タイガースファンの思いが届いたのだろうか。打撃練習こそ室内で行い、練習見学会は中止にせざるを得なかったが、無事、試合開始にこぎつけた。
スタンドには佐藤輝明選手や近本光司選手、そしてなんといっても“おらが町のヒーロー”である湯浅京己投手のユニフォームを着たファンが大勢訪れていた。開始直前のメンバー紹介時には、スタンドにサイン入りボールが投げ入れられ、激しい争奪戦が繰り広げられた。
タイガースの和田豊監督のサインボールをキャッチした男性は「もともとタイガースファンで、転勤で富山に来てるんです。試合があることを知って、すぐにチケットをとりました。まさかこんな近くで見ることができるなんて…」と、“戦利品”を披露してくれた。
「佐藤輝明選手のファンなんで、ちょっと複雑です。富山で見られるのは嬉しいけど、やはりここじゃなくて1軍で活躍してほしいので」。
そんな胸中を明かしつつ、佐藤選手には胸のすくような一発を期待していた。
さて、前夜は石川ミリオンスターズが虎戦士の前に1-9で敗れた。同じ日本海リーグとして、サンダーバーズには虎退治の期待がかかっていた。
はたして雷鳥軍団はどう立ち向かうのだろうか。
■試合経過
初回は三者凡退で立ち上がった先発の林悠太だが、二回にタイガース打線に掴まった。2死から4安打、3四球、1死球で5失点。
しかし四回、サンダーバーズが反撃に出る。タイガースのルーキー・門別啓人から、先頭の墳下大輔がレフトへソロホームランを叩き込み、チームのムードを上げる。さらにこの回、右中間二塁打の武部拓海を、試合復帰した石橋航太が中前タイムリーで迎え入れて2得点。
三回、四回は高校卒ルーキーコンビ、石灰一晴と小笠原天汰が0点に抑えたが、五回に日渡柊太が押し出し四球で1点を献上。
五回裏が終わったところで雨が激しく降り、32分間の中断をはさんで再開した。点差は4点と開いていたが、雷鳥打線は諦めない。
八回は途中出場の源氏と2番・松重恒輝の2塁打で1点を返し、最終回は1死一、二塁から代打・加賀美祐太が四球を選んで満塁とし、源氏の押し出し四球で1点を追加した。
だが反撃はそこまでで、4-6でサンダーバーズは涙を吞んだ。
◆ランニングスコアとバッテリー
阪神|050 010 000=6
富山|000 200 011=4
阪神…門別(4)・佐藤蓮(1)・○茨木(4)―藤田・片山
富山…●林(2)・石灰(1)・小笠原(1)・日渡(1)・大谷(1)・快(1)・大島(1)・山川(1)―大上
■試合後の吉岡雄二監督
最終回の追い上げに、吉岡雄二監督も「粘り強く最後まで、中断もあったけど諦めずにできたことは次につながると思います」と笑顔を見せた。
「日ハム戦(5月17日)と比べて、2度目の地元でのNPBとの試合というところを考えた場合、少し違う形は出せたんじゃないかと思う。そこはこれからつないでいきたいし、選手たちにいい意味の変化が出ればなと思います」。
たとえば「簡単にアウトになっていたのが少し粘れて四球が取れるようになった」ことや「簡単なミスが出なかった」ことを挙げ、ファイターズ戦で見えた精神的な弱さから一歩踏み出せたと表現し、試合中にも教え子たちの成長を頼もしく感じていたようだ。
先発の林投手は失点はしたが「今までやってきたものは出しながら全力でいっていた。でも公式戦とは違って、相手はミスをしてくれない。力の差というところは受け止めて、もう一つ(上のレベルで)抑えるという力をつけないといけない」と順調に成長してきたからこそ、次なる課題が見えたのだとうなずく。
いつものように投げっぷりのよさを見せた高校卒ルーキーズについては、こう語る。
「経験ですね。やれることをやれたと思います。無事にこの試合に登板できたということが重要であって、もちろん抑えるに越したことはないんですけど、このNPBとの試合に投げる意義というか、そのほうが大事」。
ともに自身がやろうとしていることが見え、さらに「0」という結果もついてきた。「これを自信につなげてもらいたい」と今後に期待を寄せていた。
一方、攻撃だ。
墳下選手のホームランには「チームに勢いというか、明るくはなりましたね。初回に…と思いましたけどね(笑)」と目を細め、最終回の代打・加賀美祐太選手の姿勢を讃えた。
「できることを必死でやったと思います。シーズンでもなかなか打席に立てない中で、いきなり変化球をハーフスイングというところから始まって、2ストライク目のカーブは予測して振っているように見えた。ああいうところの思いきりが、そのあとのフォアボールにつながったと見えたので、非常にいいフォアボールだった」。
公式戦ではここまで2打席の加賀美選手だが、意思ある四球でつないで満塁にするという大きな仕事を果たした。
ただ吉岡監督は、1点を返してなおも1死満塁での2つの空振り三振を残念がる。「最後、非常に盛り上がったんですけど、あと1本がね。最後の満塁での1、2番にはもう一つ、形を見たかったなというところはありますね」と、期待する二人だからこそ苦言を呈した。
「あの状況で簡単にまっすぐは来ないという考え方にならないから、そういう勝負の仕方ができなかった。一つレベルを上げた考え方にならないと。そこはちょっと話したいなと思います」。
来た球を打つだけでは、とらえられる確率は低い。いかに冷静に状況を読んで、配球を考えられるか。その“考え方”が重要で、それができないと上の舞台には行けないのだ。
この打席が、今後に向けての貴重な教材となったのは間違いない。
■各選手のコメント
◆墳下大輔
《4打数1安打(1本塁打)》
「公式戦とやっていることは変えていなくて、NPBだからっていうことではないですけど、やってきたことがたまたまこのNPBの試合で出たっていう感覚ですね。
速いストレートが苦手で、ストレートを弾き返していこうっていうのをテーマにずっと練習しています。そのストレートが打ててよかったです。
リーグ戦でホームランを打ったことがないんですけど、『いい角度で上がったな』という感覚はありました。でも、いくとは思わなかったです。
こういう舞台で結果を出せたこと、ストレートを打ったということ、この2つは自分でも評価したいなと思います」。
◆石橋航太
*先月21日の中日ドラゴンズ戦で頭部死球により退場しており、それ以来のゲーム出場
《2打数1安打、1打点》
「今日の昼に集合したとき、スタメンを言われました。出ると思ってなかったので、ウエイトを追い込んでやってしまいました(笑)。
自分の中ではいつも以上に気合いが入っていたんですけど、そんな気合いだけ入っていても空回りするだけなので、落ち着いてというのは意識してやりました。
2アウトでランナー二塁だったんで、とにかくヒット1本と。前の日ハム戦で初球のストライクをいっぱい見逃してたんで、ストライクゾーンは振っていくぞっていう感じでいきました。
いい感じで打てたので、次の試合でもこういう感じでいきたい」。
◆石灰一晴
《1回 1四球 無失点》
「テンポよく自分の球をどんどん投げ込めました。自分的には公式戦よりも緊張しなかったし、楽しみながら投げられました。
NPBは自分が目指す場所ですし、そういう環境にいる選手たちに気持ちで負けたら勝てるものも勝てないので、向かっていく感じは出していくというか、自分のボールを全力で投げるというのは意識しました。
その中で、課題がたくさん見えました。球数がちょっと多い点や無駄なフォアボール、そういう納得いかなかった部分のほうが自分の中では目立っています。
NPBのピッチャーに比べて自分に足りないものも見えたので、そこを潰していきながら、あっちの舞台に、次はあっちのチームにいられるようにやっていきたい」。
◆小笠原天汰
《1回 1安打 1四球 無失点》
「NPBが相手だからって、普通に、石川相手に投げるときと変わりはなくて、特別緊張したとかもなかったです。(スタンドの雰囲気も)あんまり気にならなかったですね。
(タイガースのルーキー2人は同い年だが)強く意識とかはしてないですけど、情報を落として持っているくらいで…。年齢とか関係なく勝負していこうと思っていました。
自分の持ち味というのを前に出さないといけないので、まずまっすぐでちゃんと押そうと。それはできたんですけど、自分の武器であるスライダーをうまく使っていくことはできなかったんで、そこは課題です。いいところと悪いところのどっちも見つかったので、よかったと思います。
今日は自分のせいで点を取られなかったので、チームの足を引っ張らなくてよかったんですけど、今後イニングが増えてきたときには失点をする可能性もあるので、そこも課題だと思っています」。
■なつかしい再会
練習中、吉岡監督のもとに駆け寄る選手がいた。タイガースの髙濱祐仁選手だ。昨年まで北海道日本ハムファイターズでプレーしており、2018年から2020年まではファーム打撃コーチだった吉岡監督の教えを受けていたのだ。
「吉岡さんは本当に優しくて、いろいろ教わりました。いつも『小さくなるな』『右方向ばかり狙うな』と言われてました。かといって、引っ張りばかりでもダメなんですけど。すごく話をしてもらいました。野球の話はもちろんですけど、野球以外の話も多かったです。ずっといろんな話をしていましたね(笑)」。
恩師の前で成長した姿を見せたかったが、残念ながら快音を響かせることはできなかった。
■エトセトラ
試合中、ボールボーイをしてくれたのは、地元の野球チーム「高岡西部球団」の選手たちだ。中でもタイガース側に就いた小学5年の松木虎真くんは、四球で一塁に向かう佐藤輝選手からバットやバッティンググローブを預かり、「『大丈夫?持てる?』って優しく言ってもらいました」と感激の面持ちだった。
お父さんがタイガースを愛しすぎるあまり名前にも「虎」の文字が入ったそうで、今回の“任務”も志願したという。虎戦士に接することができて大喜びだった。
また、抽選会で湯浅投手のサイン入りユニフォームが当たった富山市の高校生、篠原杏さんも興奮気味にユニフォームを掲げていた。球場に来たのは初めてだそうだが、これを機にサンダーバーズ、タイガース、そして湯浅投手を「応援していきます!!」と満面の笑みで力を込めていた。
■さらなる交流の活性化を
富山を大いに盛り上げた一戦だったが、こういったNPBとの交流試合は独立リーグの選手にとっても大きなプラスになる。目指す場所にいる選手がどんなプレーをするのか間近で見ることができるし、自身の“現在地”を知ることもできる。また、相手の首脳陣ら球団関係者にも見られている。ここで光るプレーをすれば、必ず報告が上がるわけで、最高のアピールの場なのだ。
また、この試合をきっかけにそれぞれのファンも相手のチームを知り、どちらも応援するようになると双方にとってファン拡大になる。今後もさらなる交流の活性化を期待する。
(表記のない写真の撮影は筆者)