飲食店ITの賢人たちが語る「ノーショーやドタキャンはなくせるのか?」
宴会シーズン
12月に入ってクリスマスを迎えるまでの間は忘年会の時期となります。特に金曜日の1日、8日、15日、22日には、たくさんの忘年会が開催されることでしょう。
この時期は予約を取るのも一苦労で、人気店や人気日では、2~3週間前でなければ予約できません。しかし、前もって予約されていたとしても、ノーショー(No Show=無断キャンセル)やドタキャンは起こります。
飲食店にとってノーショーやドタキャンは非常に大きな課題なので、これまでにも以下の記事を書いてきました。
食品ロスの問題とも関係が深く、何としても撲滅したいと考えています。
飲食店の予約サービスでもノーショーやドタキャンの対策を進めており、日本でも少しずつ変化が起きていますが、その動きはまだ大きなものとはなっていません。
当記事では、インターネットにおいて飲食店の予約サービスやメディアに携わっている方など、飲食店をよく知る方たちに集まっていただいて座談会を実施し、ノーショーやドタキャンについて議論しました。
座談会での議論を通して、多くのみなさんにノーショーやドタキャンに関心をもっていただきたいと考えています。
座談会の参加者
座談会は12月初旬にホテルニューオータニの「タワー・カフェ」で行われました。
「タワー・カフェ」は、40階という高層階から見える都心の美しい夜景や、カクテルコンペで優勝したスタッフやモナンのカクテルコンクールで優勝した支配人など、実力派バーテンダーがいることで有名な都内屈指のバーです。
座談会に参加した方は、次に紹介する通り。
(以下、名前の五十音順)
井上聡氏
広報部/広告企画部 部長。2012年にダイナースクラブ(Citi Card Japan)入社。2012年のダイナースクラブ銀座ラウンジ立ち上げやダイニングイベントを始めとした各種体験型会員向けイベント等に携わり、対外的ブランドコミュニケーション、広報活動を通じたPR活動に従事。
三井住友トラストクラブ株式会社/ダイナースクラブ ごひいき予約
直前キャンセルで発生した有名店を含む優良飲食店の空席をダイナースクラブが買い取り、LINEを通してダイナースクラブ会員に配信・再販する会員サービス。2017年8月にサービスを開始し、現在の参加店は東京・大阪・京都で37店舗。
高梨巧氏
2001年8月創業、2002年より株式会社アイレップに参画しSEM/SEO事業の立ち上げに従事、2003年に再独立し、SEM関連広告商品の日本上陸初期からデジタルマーケティングの専門家として1000社以上のプロジェクトを担当。2015年7月1日に株式会社favyを設立。
株式会社favy/favy
デジタルマーケティングの専門家と食の専門家が集まり、"飲食店が簡単に潰れない世界を創る"をミッションとして、飲食市場に特化したマーケティング支援や、グルメメディア「favy」の運営を行ってる。
高橋恭文氏
飲食支援本部 パートナー開発グループマネージャー 。98年にメキシコ料理店のキッチンリーダーとして年商2.8億円を達成。01年求人広告会社に入社し社内ベンチャーで外食向け人材支援事業を立ち上げ。2010年カカクコムに入社し「食べログ」草創期より事業を拡大。2014年Rettyに参画し「次世代集客支援サービス」の立ち上げから従事。
Retty株式会社/Retty
実名グルメサービス「Retty」は、「信頼できる人からお店探しができる」グルメサービスとして、2011年6月にサービスを開始。実際に行ったお店の「オススメ」情報を投稿する形で運営し、2017年5月に月間利用者数が3,000万人を突破。
谷口優氏
神奈川県生まれシンガポール育ち。20以上の職種を経験したのち、2011年、27歳でベスパーを設立。TableSolutionを通じて「最高のレストラン体験」の実現を目指す。自称:三ツ星自炊シェフ。
株式会社VESPER(ベスパー)/TableSolution
レストラン・飲食店の予約管理システム「TableSolution」を開発・提供。グローバル展開する大手ホテルチェーンや星付きレストランなど世界11ヵ国の人気店・有名店を中心に利用されている。
戸門慶氏
高等学校卒業後、和食の料理人として約7年間経験を積む。その後、飲食店のコ ンサルを行い、その際に集客等でITを活用することになり、ITを活用することでお客様とお店が感じる課題を解決できると思い株式会社ポケットメニューを起業。
株式会社ポケットメニュー/ポケットコンシェルジュ
厳選したレストランの予約決済サービス、特徴は追加注文含めオンラインで決済が可能な為、Uberの様なスマートな体験ができる、お店に取ってもドタキャンやノーショウの解決策になる機能を2014年から開始。
成内英介氏
株式会社USEN Media代表取締役社長。2000年にUSENに入社し、人事や商品企画室長などを経て2010年、ヒトサラの前身ともいえるグルメGyaO(現ヒトサラ)の営業責任者に着任し2012年事業部長になったタイミングでサイト名を料理人の顔が見えるグルメサイト「ヒトサラ」に変更。
株式会社USEN Media/ヒトサラ
「料理人の顔が見える」をコンセプトに、つくり手の思いにフォーカスをあてたグルメサイト。全国で10,000人を超える料理人情報を掲載し、食に関心の高いユーザーを意識した、オリジナルコンテンツも多く発信中。今ではひと月に2000万以上のユーザーが利用する人気サイトに。
座談会
有名な飲食店のインターネットサービスに携わっている6名が、約90分もの間、ノーショーやドタキャンに関して、現状や問題点、解決方法について議論しました。
現状はどうなっているのか
高梨氏:調査したことがあるが、ノーショーやドタキャンを悪いと思っていない人が多かった。本来は予約した人数が減るだけでも、飲食店は損害を被るが、ノーショーやドタキャンが飲食店にダメージを与えていることを認識している人は少ない。
戸門氏:食品ロスなどによる不必要な支出の結果、最終的には他の客に負担がかかる。
谷口氏:マナーが悪い客をマナーがよい客が埋め合わせている。ノーショーやドタキャンが気軽になっているのではないか。キャンセル料が課されると伝えると、やはりキャンセルせずに行くと言う客もいる。
高橋氏:複数の飲食店を予約して保険をかけるなど、キャンセルに抵抗がない人はいる。複数の予約を受け付けない仕組みも構築できるが、抜け穴がないわけではないので、根本的な解決にはならない。
成内氏:どんなに人気の飲食店でもノーショーやドタキャンの話を耳にする。ヨーロッパであれば契約不履行だが、日本では信頼関係で成り立っているので曖昧になっている。
井上氏:体調が悪いなどの不可抗力では仕方ないが、キャンセルしないことが前提となっていないのではないか。
戸門氏:予約を受けるスタッフによって、ノーショーやドタキャンの確率が異なるというデータもある。席数が多い飲食店では、キャンセルも多い。
谷口氏:インターネットからの予約では電話からの予約に比べると、2倍もキャンセルされている。客単価が下がると、キャンセル率も上がるというデータもある。
まとめ
多くの飲食店でノーショーやドタキャンは起きており、傾向は分析されてきている。客の認識の甘さへの指摘が多い。
原因は何か
井上氏:飲食店と客との関係性が重要となるのではないか。例えば美容院でキャンセルが少ないのは、客との関係性が強いから。
高梨氏:飲食店が多言語化できていないことも原因となっている。海外からの客が遅刻する際に連絡できず、ノーショーになる場合もある。
高橋氏:EC(ネットショッピング)と同じような感覚を持っていることが問題ではないか。飲食店に訪れる前は、商品が届く前と同じだからと、気軽にキャンセルしている。
戸門氏:構造的な問題もあって対策が進みにくい。ホテルではドタキャンがあった際に安く売り出せるが、飲食店では難しい。ホテルは固定費が多くて変動費は小さく、飲食店はその反対。
成内氏:確かに飲食店で当日対応するのは難しい。信頼関係で予約は成り立っている。
まとめ
客の認識を問う意見がほとんどであるが、外食産業の構造的な問題も指摘された。
客を変えることはできるのか
高橋氏:お客様は神様という考え方がいきすぎるとよくない。客と飲食店は対等な関係であり、適度な緊張感があるべき。
成内氏:日本の飲食店が持つサービス精神は残しつつ、対等な関係にしていければよい。それには、しっかりとした情報発信が重要。
戸門氏:キッチンスタッフとホールスタッフが共に歩み寄る必要があるのと同じように、客と飲食店の両者が共に歩み寄ることが必要ではないか。
井上氏:即効性をもって広めていくのは難しいが、物語を伝えていくことで、飲食店をリスペクトし、客も変わっていく。
谷口氏:周知している時間がないのではないか。100%インターネット予約になれば状況は変わる。マナーが悪い人にペナルティを課し、マナーがよい人を優遇していかなければならない。
高梨氏:テレビCMを打つことで解決するような簡単な問題ではない。
まとめ
客の意識を変えることは簡単ではないという意見が多数。しかし、どこまで変えていけるかについては、考えが分かれた。
ITを利用せずに解決できるか
高梨氏:既存の方法でも、電話を頻繁にかけて確認するなどしていけば、それなりに対応できる。しかし、飲食店が料理やサービスに注力できるのがあるべき姿ではないか。
戸門氏:ノーショーやドタキャンの対策は、飲食店が本来するべき仕事ではない。
谷口氏:大衆的な居酒屋のような業態で、電話をかけ続けるのは人的コストに見合わない。電話対応がなくなったら楽になるかと尋ねると、多くの飲食店が賛同する。
成内氏:電話のような対人的な仕事を、工数とみるかサービスとみるかで捉え方も違ってくる。
高橋氏:学生時代に宴会を予約した時、おいしい魚を仕入れて料理を作るので、先にお金を入れてくださいと言われたら、気持ちよくデポジットを支払えた。物語や背景を伝えることで、客も変わるのではないか。
井上氏:飲食店によって、考え方や思いの深さが違う。中長期的に鑑みると、それが物語や背景に影響を与えているように感じる。
高梨氏:物語や背景を伝えられる飲食店は強いが、みんなができることではない。ノーショーやドタキャンのコストを考慮して、値段をもっと上げていくのが現実的ではないか。
まとめ
電話で確認することは大きなコストであるという認識が多い。しかし、それも含めて飲食店のサービスであるという考え方もある。
ITで解決できるのか、そしてこれからの食
成内氏:客と飲食店は信頼関係が大切なので、Uberのように飲食店が客を評価する仕組みが必要になってくる。事前決済もますます増えてくるので、解決の糸口になるのではないか。
谷口氏:あるホテルで試験したことがある。割引がある事前決済と割引のない事後決済の2つを提示したら、事前決済の方が利用された。実際には事前決済に抵抗がない人が多いのかも知れない。
井上氏:キャンセル料が支払われることは重要だが、せっかく料理を用意したのだから、他の客を紹介できる解決策が最も望ましい。
谷口氏:飲食店や客の側に立つのであれば、予約サービスがAPIでつながるなどし、全ての在庫を一元化して管理し、無駄をなくすことが理想。
高梨氏:インターネット予約が増えることは自明だが、ラーメン屋などは予約なしでふらりと訪れたいので、どこまで導入されていくかは気になるところ。
高橋氏:インターネットの飲食店情報サービスが始まってから20年が経ち、自分に適した飲食店にますます出会えるので、ノーショーやドタキャンが減っていくことも期待したい。
井上氏:テクノロジーで解決すると同時に、飲食店はよりオリジナリティをだしたりして付加価値を高めていく必要がある。
戸門氏:東京五輪の後も訪日旅行者を増やしていくには、食の力が不可欠。海外の旅行客に訴求できるインターネットがこれまで以上に重要となる。
成内氏:日本には多くの飲食店メディアがあり、様々な情報が得られる。こういった情報と共に、年に何度訪れても違う魅力を体験できる日本の四季も伝えていきたい。
まとめ
事前決済や客の評価を含めたインターネット予約によってノーショーやドタキャンは解決できそうだが、予約サービスが個々に行うのでは不足しているという意見もある。
座談会でのポイント
座談会の参加者からは、飲食店と密接に関わっている立場ならではの濃厚な意見が聞かれましたが、私は特に以下の点に着目しています。
- 導入や利用のコスト
- 客と飲食店のつながり
- 一丸となることの重要性
ここからは、座談会を通して感じた私個人の考えを述べます。
導入や利用のコスト
予約に関する手間を考えると、飲食店のインターネット予約は間違いなく浸透していき、それに加えて、インターネット予約と相性のよい事前決済も増えていくことでしょう。座談会での議論を聞いていると、間違いなく事前決済がより身近となる世界が訪れるように思います。
インターネット予約と事前決済が普及すれば、ノーショーやドタキャンの割合は今より減ることは確実なので期待したいです。
ただ、インターネット予約やクレジットカード決済を導入したり利用したりするのは、コストがかかります。確実にノーショーやドタキャンに効果があると分かっていても、目先のコスト負担を嫌がる飲食店オーナーも少なくありません。
より多くの飲食店をノーショーやドタキャンから救うために、どのようにしてアプローチしていくかも鍵になってくると思います。
客と飲食店のつながり
飲食店で事前決済やデポジットを推進していき、消費者には問答無用に利用しなければならないようにすれば、ノーショーやドタキャンは削減できることでしょう。
事前決済に納得した人だけが予約して飲食店に行けばよい、嫌なら利用しなければよい、というのは当然のことです。
ただ、日本ではまだ現金支払いが多く、飲食店では事前決済が一般的ではないだけに、ノーショーやドタキャンをせず、しかし、クレジットカードを入力したり、事前に支払いを済ませたりすることは好まない人は少なくないでしょう。
こういった善良かつ保守的な人々が、飲食店から距離を置くようになってしまうのは、外食産業にとってよくないことなので避けたいところです。
それには、事前決済がどうして必要であるかを説明し、納得してもらう必要があると考えています。
飲食店は、無駄な支出が減ってより利益が出るようになれば、これまでよりもよい食材を使ったり、手間暇かけた料理を作ったりしたいと思うはずです。
現在流行しつつある会員制のサブスクリプションモデルはまさに、客と飲食店とのつながりを前提とした仕組みであり、双方にとって利益があります。
ノーショーやドタキャンを撲滅することは飲食店だけではなく、客にとっても利益があることだと伝えていく必要があると考えています。
一丸となることの重要性
ノーショーやドタキャンが起きた場合に、飲食店がとても落ち込むのは、損害を受けたことに加えて、心を込めて用意した食材や料理が無駄になるからです。
事前決済でキャンセル料を取ることはできたとしても、料理人にとっては誰にも料理を届けられなかった無念な気持ちは残るでしょう。もちろん、食品ロスにもつながります。
こういった観点からすれば、ノーショーやドタキャンによって生じた空席は埋められることが好ましいです。
そうするには、予約サービスが共通で在庫を持つようにし、効率よく空席を埋めていくしかないのではないでしょうか。
在庫を共有することはハードルが高いので実現は難しいかも知れませんが、ノーショーやドタキャンは単独サービスが解決できるほど、簡単な問題ではありません。せめて、知見を共有したり、足並みを揃えたりするなど、共にノーショーやドタキャンに立ち向かっていくという姿勢が重要であると考えています。
外食産業のあり方を刷新する
ノーショーやドタキャンは、1店の飲食店だけの問題でも、1社の予約サービスだけの問題でも、1人の客だけの問題でもありません。飲食店に関わる全ての産業の問題なのです。
だからこそ、今回の座談会に参加し、議論に加わってくださった方には大変感謝しています。
ノーショーやドタキャンを撲滅していくには、飲食店と飲食店予約に関係するサービスが力を合わせて仕組みを変革していくと同時に、飲食店に携わるジャーナリストやメディアは人々に絶えず訴えていき、日本における外食産業のあり方を刷新していくべきではないかと私は考えています。