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トレタペイメントはノーショーとドタキャンを撲滅できるのか?

東龍グルメジャーナリスト
トレタペイメント

トレタペイメントをリリース

2016年7月20日に、飲食店向け予約/顧客台帳サービスの大手である株式会社トレタが、以下の通り「トレタペイメント」をリリースしました。

飲食店向け予約/顧客台帳サービスを提供する株式会社トレタ(本社所在地:東京都品川区、代表取締役:中村 仁、以下 トレタ)は、このたび「トレタ」でのクレジットカード決済を可能にする機能「トレタペイメント」の開発に着手し、その第一弾として、予約と同時に前受金(保証金)を預かることができるデポジット機能を2016年7月20日(水)にリリースしました。

出典:トレタのプレスリリース

今回リリースした機能は、前金を払うデポジット機能です。これは、「今日もどこかでノーショーは繰り返される」でも取り上げ、飲食店が頭を悩ませている問題である「ノーショー」「ドタキャン」を解決する一助となります。

ノーショーやドタキャンの問題

飲食店に対して、予約した時間の直前にキャンセルするドタキャン、および、連絡すらもせず現れないノーショーは、飲食店を悩ませる大きな問題となっています。というのも、事前に予約に合わせて材料を仕入れていたり、予約が入っているために他の予約を断っていたりするのに、その肝心の予約が、他の予約を入れられないタイミングでキャンセルされるからです。全ての費用は飲食店が負担することになりますし、予約したかった他の客も機会を奪われてしまいます。

先のトレタのリリースでも同じようなことが言及されています。

予約時のデポジットは、直前でのキャンセルを防止する方策のひとつとして、宿泊施設や航空会社といった旅行業界などで広く活用されています。しかし、同じように予約を扱う飲食業界にはデポジットの仕組みはありません。このため、直前のキャンセルや無断キャンセルによって店舗運営に多大な損失を受けることが多く見られました。とりわけ団体や貸切、また年末年始などの繁忙期での予約の無断キャンセルは、仕入れた食材やスタッフのシフト調整などへの影響が大きく、経営の根幹を揺るがすほどの打撃になりかねません。

出典:トレタのプレスリリース

解決方法

この問題を解決する方法として、デポジット機能をトレタの予約台帳に追加することにし、日本の飲食店では慣習的となっていない前払いを促進しようとしているのです。

今回「トレタ」が搭載する「トレタペイメント」では、クレジットカードでのデポジット決済やキャンセル時の決済を可能にします。このため、上記のような無断キャンセルの防止策としての効果が期待でき、またキャンセル料の徴収を可能にすることで金銭的な損失を補填することもできます。その一方、デポジットを選択したお客さまには特典を設定するなどのインセンティブを提供することも可能ですので、飲食店だけではなく利用者を含めた双方にとってメリットのある仕組みとして運用することができます。

出典:トレタのプレスリリース

柔軟性のある設定

またデポジットの設定は以下のように柔軟に富んでいます。

<例1> 週末やクリスマスなど特定日の予約にだけデポジットを適用する

…(中略)…

<例2> 1ヵ月以上先の予約にだけデポジットを適用する

…(中略)…

<例3> デポジットを預り金ではなく「特典」の事前販売として適用する

…(中略)…

出典:トレタのプレスリリース

では、この試みはうまくいくのでしょうか?

考えるべきポイント

考えるポイントは以下の2点です。

  • 利用料金の負荷
  • インセンティブ設定

1点目についてです。トレタペメインとを利用するにあたって、初期費用1万円、さらには月額料金が必要となります。先に記述したように飲食業界は、宿泊施設や航空会社とは異なり、デポジットの慣習がなかったわけですが、これは基本的に飲食店は利幅が薄い上に、飲食店の多くが小さな店のオーナーであり、支出に厳しいことが挙げられます。

そういった状況下で、これまでの通常の台帳利用料金に加えて、デポジット機能の初期費用や月額料金が必要となった場合に、どれだけのオーナーが進んで利用するかが鍵となっています。

ノーショーやドタキャンが起きると困りますが、デポジット機能は全額保証の保険ではないことを考えると、起こるかどうか分からないことに対する事象への完全ではない保証は、あまり魅力的に映らないかも知れません。

2点目についてです。デポジット機能を導入しても、実際にユーザーにデポジットしてもらわないと意味がありません。そうなると、ユーザーのデポジットを促進するためにインセンティブを設定する必要が生じてきますが、デポジット機能の初期費用と月額料金に加えて、インセンティブによる支出を許容することは、あまり気が進まないことかも知れません。また大前提として、ユーザーにとって、デポジットする手間暇を超えるほど、インセンティブに価値があることは必須です。とってつけたようなインセンティブではなく、魅力的なインセンティブが必要となります。

インセンティブを設けず、しかも、予約時にデポジットを強制できる超人気店はよいですが、そうでないほとんどの飲食店はデポジットしてもらうことに苦労するかも知れません。

今後への期待

以上を考えると、デポジット機能それ自体は素晴らしいですが、現在の慣習を打破するのは簡単ではないように思えます。

ただ、トレタ側でも、飲食店に対して初期費用や数カ月分の月額料金を無料にするキャンペーンを行ったり、ユーザーが喜ぶような特典を与えたりと、デポジット機能の導入と利用を促進することはできるはずです。

また、キャッシュレス&カードレスで退店できたりすることは、ユーザーにとって利便性が高いことなので、現在は未定となっている、会計処理不要のクレジットカード決済機能のリリースが待たれます。ユーザーが喜んでデポジットすれば、ユーザーへの価値を高めるために、デポジット機能を導入する飲食店も自然と増えていき、好循環となるはずです。

ノーショーやドタキャンの問題は根深い問題ですが、何かを少しずつでも変革していかない限り、解決されません。ITの力によってノーショーやドタキャンを撲滅しようとするトレタの果敢な試みを応援したいです。

元記事

レストラン図鑑に元記事があります。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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