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「恋愛とは脳のバグ」だが、バグったままでは若者は結婚できなくなった事情

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:イメージマート)

お見合い→恋愛結婚の分岐点

結婚形態において、いわゆる「恋愛結婚」が「お見合い結婚」を逆転したのは1965年頃である。それまでは過半数が「お見合い」によって結婚していた。

とはいえ、「お見合い結婚」は、親が決めた相手と問答無用で結婚させられたケースばかりではない。政治家や大商人の子の場合は政略結婚的なものはあったろうが、むしろ庶民の場合、「お見合い」を実施して気に入らなければ断ることはできた。

事実、27回お見合いを断り続け、28回目で結婚した1950年代後半の事例もある。27回お見合いを実施する精神力も凄いと思うが、結果28回のお見合いをアテンドできる仲人力というものも凄まじいものである。

1965年に過半数を割った伝統的な「お見合い結婚」は以降大きく減少し、1970年代の第二次ベビーブームにつながる婚姻激増期においては、「職場結婚」がお見合いの代替機能を発揮した。

恋愛至上主義という幻

それが1980年代に入って、世の中が恋愛至上主義に彩られていく。クリスマスにデートしてプレゼントを渡すという文化が生まれたのも子の頃である。

しかし、今に続く婚姻減のスタートはまさにこの恋愛至上主義の80年代から始まっている。

恋愛結婚というと個人が自由に好きな相手と結婚できるものだと思われるが、それが可能なのは3割の恋愛強者だけである。言い方を変えれば、一部のモテる人間だけが享受できる自由であって、結局、恋愛力のない7割の恋愛弱者は「自由に恋愛していいという不自由」に悩むことになるのである。

また、恋愛史上主義は恋愛の先に結婚があるという幻想を流布した。恋愛ドラマの最終回は主人公の「結婚ハッピーエンド」で幕を閉じるのが定番だった。

写真:アフロ

しかし、結婚は始まってからが現実である。「愛情」だけでなんとかなるものではない。脳科学的には「恋愛とは脳のバグ」であるといわれる。しかし、恋愛中はバグっていた方が都合がよいが、結婚後もバグっていたら困るだろう。

出生動向基本調査において、女性が結婚相手に求める条件に「経済力」が常に高いのはそういうことでもある。結婚生活を円滑に運営していくためにはお金が不可欠だからだ。

結婚のメリットの変遷

同調査の1987年代から直近の2021年までの独身者が思う「結婚のメリット」意識の推移を見ると、興味深いことがわかる。

「精神的な安らぎの場が得られる」「自分の子どもや家族をもてる」などは男女とも経年高い割合であるが、「現在愛情を感じている人と暮らせる」ことを結婚のメリットとする割合は男女とも年々減少している。特に、女性において、1987年23%から2021年は14%まで10ポイント近く激減しており、むしろ男性より「愛情」の割合は低くなった。

反面「経済的に余裕がもてる」ことを結婚のメリットとする割合は女性で顕著に上昇しており、1987年のわずか7%から2021年は21%と3倍となった。女性にとって結婚のメリットとは2015年を契機に「愛情<お金」となったのである。

婚姻率自体は2002年の6.0以降は一度もそのレベルに戻ることなく減り続けているが、この2015年という年は、婚姻と出産にとって「経済環境との関連」において重要な分岐点となっている。過去記事でも紹介したが、2015年以降に20代が考える「結婚に必要な年収」意識が急激に上昇し、若者たちの実態年収と乖離しはじめた。

お金ある夫婦だけが子を持てる

また、出産に関しても2014-15年あたりは分岐点となっている。

国民生活基礎調査より「児童のいる世帯」はずっと減り続けているが、減り続ける絶対数の中で、「児童のいる世帯の平均年収」だけはあがり続けている。つまり、「年収の高い層だけが結婚して子どもを産んでいる」となったのだ。そのきっかけが2014年頃である。

これは、20代の「結婚できる年収意識」が上がり始めた時期と独身女性の結婚のメリットで「経済的余裕」があがりはじめた時期とも符合する。

逆に考えれば「経済的メリットにならない結婚はする必要がない」ということでもある。

こういうと「私は違う。愛情だ」と言い出す人もいると思うが、別に億万長者の玉の輿ではなくても、相応の経済力のない相手(もしくは、将来的にも年収があがる見込みのない相手)とは結婚する気にならないだろう。それこそ、脳のバグで結婚してしまったとしても、いざ「夫が返済不可能な借金を抱えたら夫を見捨てる」という合理性が働くと思われる。

それが良い悪いという話ではない。こうした結婚と金の問題が現実として若者にあるからこそ、かつて結婚のボリューム層だった中間層の結婚だけが大きく減少しているのだ。いうなれば「結婚のインフレ」が起きており、所得上位層しかできないものになっている。その事実をいつまでも「見ないフリ」し、婚姻減は若者の価値観のせいだなどと逃げている場合ではない。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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