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「クリスマスはカップルで過ごすもの」という文化の起源とその隆盛、そして「クリぼっち」の復権

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:Paylessimages/イメージマート)

元々マジョリティだった「クリぼっち」

「クリぼっち」という言葉も、当初の揶揄的意味合いが薄れ、クリスマスの夜に1人でいることが決して肩身が狭いものではなくなっている。その証拠に、1人用クリスマスケーキやチキンなど、1人で過ごすことを後押しする商品やサービスも増えている。市場が「クリぼっち」を認めているのだ。

それも当然で、そもそもクリスマスに恋人と過ごしていた方がむしろマイノリティだったのである。

こちらの記事(→参照 40年前から「恋愛強者は3割しかいない」のに「若い頃俺はモテた」という武勇伝おじさんが多い理由)にも書いた通り、少なくとも1980年代から独身男女において「恋人がいる率」は大体3割で変わっていない。私が「恋愛強者3割の法則」という所以である。

恋人がいなければ、クリスマスに限らずデートもできないだろう。つまりは、クリスマスデートをしている独身男女の割合はMaxで3割しかいない。残りの7割は「クリぼっち(友達と過ごす者や仕事をする者もいると思うが)」なのである。

「クリぼっち」という言葉がネット上に現れたのは2012年頃からである。雑誌やスポーツ紙が先に取り上げたが、全国紙の新聞で「クリぼっち」という言葉が使用されたのは、私が調べた範囲では、2013年12月24日付の読売新聞で、「クリぼっち・64.5%」という見出しになっている。今から8年前でさえ、ほぼ7割がそうだったのだ。

クリスマスデート文化の起源

にもかかわらず、「クリスマスはカップルで過ごすもの」という固定観念が根強く残っている。そもそも、そうしたクリスマスデート文化の起源とはいつ、だれが仕掛けたものだったのか?

諸説あるが、私は、松任谷由実さんの「恋人がサンタクロース」が最初のきっかけだったろうと考える。

この曲は、1980年12月発売のアルバム『SURF&SNOW』に収録されていたものだが、それまでのクリスマスの過ごし方の意識革命だったといえよう。

この曲の歌詞が画期的だったのは、「クリスマスとは、恋人である男性がプレゼントを持って女性の家に来る」ことを歌っているところである。

写真:アフロ

つまり、親が子どもたちにプレゼントを渡す日だけではなく、男性が女性にプレゼントを渡す日としたこと。「クリスマスは、家族ではなく、カップルが2人きりで過ごす夜なのだ」という新しい提案だったのだ。

とはいえ、アルバム収録曲のひとつであり、それほどすぐに世の中に浸透したわけではない。

バブルが後押しした恋愛至上主義

当時の世相を振り返ってみよう。

翌1981年に、空間プロデューサーの松井雅美氏が西麻布に「レッドシューズ」という店をオープンさせ、その後のカフェバーブームの火付け役となった。同年には、田中康夫氏の『なんとなく、クリスタル』(河出書房新社/新潮文庫)が出版され、本に描かれたカップルのデート方法や場所が話題になった。

バブルへ向かう世の中の好景気と相まって、男女のデートカルチャーがもてはやされ、恋愛至上主義といわれた時代である。

そして、1982年には「恋人がサンタクロース」を松田聖子さんがカバーし、一気に「クリスマスはカップルで過ごすもの」という認知がメジャー化したのだ。

写真:Paylessimages/イメージマート

『anan』と赤プリ伝説と名曲たち

続く1983年、12月23日号の女性誌『anan』「クリスマス特集」が組まれる。「今夜こそ彼の心(ハート)をつかまえる! 」と題して、恋人たちのためのクリスマスの過ごし方をストーリー仕立てで紹介していた。

その内容は、「クリスマスイブは素敵なレストランで過ごして、そのあとシティホテルで泊まり、ルームサービスで朝食を摂りたい」というものだった。

くしくもその年は、今の、東京ガーデンテラス紀尾井町のある場所に、赤坂プリンスホテルがオープンした年でもあった。赤プリと呼ばれ、クリスマスにはカップルの聖地となる。12月25日の朝のチェックアウト時間帯は、いろんな意味で地獄絵図のような混み具合だった。

当時でも、赤プリの宿泊料は高額だ。にもかかわらず、どう見ても20代前半と思しき若いカップルが、イブの夜に限っては、宿泊に加え、夜中にシャンパンをルームサービスで頼むという、そんな時代だった。

赤坂プリンスホテル
赤坂プリンスホテル写真:Natsuki Sakai/アフロ

このように、「クリスマスとは、男が高価なプレゼントを買い、高級レストランで食事をし、高級ホテルで朝を迎えるもの」という一連の流れを確立させたのが、1980年代前半から1990年代前半にかけての時代である。音楽・雑誌・テレビ番組、そして大人たちの商売魂と景気もすべてが後押しして、クリスマスのデート文化を生み出したとも言えるだろう。

クリスマスデート文化は『anan』が作ったという説も有力だが、というより、1980年代の世の中の空気を『anan』が的確に捉え、広めたと考えるのが妥当と思われる。

ちなみに、クリスマスソングといえば、山下達郎さんの「クリスマス・イブ」を代表曲として挙げる人も多いかと思う。この曲がシングルとして発売されたのも実は1983年である。この曲を使用したJR東海のCMが放送されるのは、ずっと後の1988年。第1弾の出演は当時まだ15歳だった深津絵里さん。その後、1989年に第2弾として、牧瀬里穂さんバージョンが公開された。

当時、クリスマスソングの名曲としては、もう1つワム「ラストクリスマス」があるが、この曲は、1984年の発売である。マライヤ・キャリー「All I Want For Christmas is You」は1994年の発売で、フジテレビ系連続ドラマ「29歳のクリスマス」の主題歌に起用され、ミリオンヒットとなった。

今も聞き続けられているクリスマスの名曲のほとんどがこの頃に生まれているというのも、その時代が、いかにクリスマス=恋愛と結びついたかがわかると思う。

プレゼントだけよこせといわれた男たち

ただし、だからといって全員がクリスマスデートを謳歌していたわけではない。派手なイメージに引っ張られてしまうが、何度も言うようにあの時代でさえ大多数は「クリぼっち」だったのである。

勿論、中には、彼女なしの男性でも、クリスマスだけは女性とレストランデートをしたことがあるという人もいるだろう。それは、クリスマスのダブルヘッダーを実施し、プレゼントだけは複数もらうという荒業をこなす猛者女性がいたからである。しかも、プレゼントは「○○ブランドの財布」という指定だ。なぜ指定するかというと、同じモノを複数の男性からもらい、1個を残してほかはすべて質屋に売るためである。

彼女にとってまさに「男はただのプレゼントを提供するだけのサンタクロース」だったのだ。

興味深いのは、まさにこのクリスマスデート文化時代の1980年代に青春真っ盛りの大学生だった男女が、今アラカン世代となっており、最も結婚しない生涯未婚率最高記録を打ち立てたということである(参照→2020年国勢調査確定報より、男女の生涯未婚率は何%になったのか?)。

「クリスマスはカップルで過ごすもの」と洗脳され、恋愛至上主義に浮かれた人たちが、結果生涯未婚で今は「クリぼっち」となっているというのは、なんという「神様の思し召し」だろうか。

写真:アフロ

それでは、未婚も既婚も、パートナーがいる人もいない人も、皆さま、よいクリスマスを!

独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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