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東京・銀座のブランド店で「爆買い」する中国人観光客 30年前の日本人との類似点

中島恵ジャーナリスト
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

空前の円安の中、中国もゴールデンウィーク(黄金週、5月1日~5日)の大型連休となり、大勢の観光客が来日した。景気の悪化が懸念されているが、中間層や富裕層の個人客を中心にコロナ禍前よりも旅行する人が増え、今年の海外旅行先で日本は人気ナンバーワンだったという。

とくに目立ったのは都内の銀座などにあるブランドショップの店頭に行列を作り、入場制限をかけられてまで買い物をする姿だ。

ルイ・ヴィトン、エルメス、フェラガモ、グッチ、コーチといった高級ブランドのバッグや洋服、靴、アクセサリーなどの商品を「爆買い」し、その紙袋を両手いっぱいに持つ姿が日本のテレビニュースで報道された。

「日本は安い、安い」といってあらゆるものを買いまくるその姿を見て、私は30年前に日本人がとった行動とそっくりだと感じ、当時のことを思い出した。

30年前に香港で見た光景

今から30年前の1994年、私は香港に住んでいた。当時はすでに日本のバブルは崩壊していたが、まだ80年代後半の好景気の雰囲気が残っており、日本から観光客が大挙してやってきていた。団体客もいたし、個人客もいた。

当時の香港は今の東京のような「ショッピング天国」。旅行客に大人気だった場所の一つが香港で最も有名な老舗のペニンシュラホテルだった。

ペニンシュラホテル内のアーケードには世界中のブランドショップが入っていて、そこにはほぼ毎日、日本人観光客が長い行列を作っており、ときには入場制限をかけられるほどの人だった。

日本人もかつては「爆買い」していた

とくに人気があったのがルイ・ヴィトンやエルメスだ。日本人観光客はバッグやスカーフを大量に買い、その足でホテルのロゴが入った高級チョコレートをお土産用に数十個買い、ロビーでアフタヌーンティーを楽しみ、高級海鮮料理店や夜の街にくり出すというのが定番だった。

ホテル横のネーザンロードという大通りを歩くと、欧米人以外の外国人客は日本人だけ。そこでは大勢のスリが待ち構え、金持ち日本人の財布を狙っていたという時代だった。

同時代、同様のことはハワイやパリ、ロンドン、ニューヨークなど世界各国で起きていた。今の中国人と同じく、日本人が世界中に出かけて「爆買い」をしていたのだ。

なぜなら、今とは真逆で、当時は円高。日本の円が強かった。国内旅行をするよりも海外旅行をするほうが断然お得で、海外ブランド品の一部は日本の3分の1ほどの価格で手に入るものもあった。

そのため、その当時、日本人が海外旅行に求めるものは、観光だけでなくブランド品の購入が大きかった。今の中国と同じなのだ。

日本語メニューがあった時代

もう一つ、当時と非常に似ていると感じるのは、言語だ。香港のブランドショップに限らず、世界各国の空港の免税店、高級料理店に行くと、日本語対応してくれる店員がいたり、日本語メニューが置いてあった。

日本語メニューは料金が割高に設定されているものがあり、「せっかく海外旅行に来たのに」と嫌がる日本人もいたが、日本語ならありがたいといって、日本語で注文したり、どこに行っても日本語しかしゃべらない人がいた。

日本人客がたくさん買い物をしたり、高い料理を注文するので、現地は日本語で対応してくれた。海外にいるのに日本語が通じることに、当時はあまり疑問に思わなかった日本人もいたと思う。

今、それと同じことが中国人にも起きている。

世界中、中国語だけで不自由しない

東京のブランドショップには中国語ができる店員が必ずいる。免税店でも、家電量販店でも、ドラッグストアでも、百貨店でも、ホテルでも、観光地でも同様だ。

日本の場合、漢字があるので、日本語がわからない中国人でも、たいていのことは推測できると思うが、そんなこそさえ必要はない。どこにいっても中国語で対応してくれる人がいるので、彼らはまったく困らないのだ。そして、それを当事者はあまり不思議だと思わないかもしれない。

十数年前、私は何度か続けて韓国に行ったことがあったが、当時、すでにソウルの免税店は日本語対応スタッフは「お払い箱」となり、中国語対応スタッフに入れ替わっていた。商品を見ていると、まず中国語で話しかけられ、「日本人だな」と思うと日本語ではなく、英語になった。

おそらく同じ頃から世界中で同様のことが起き、中国人は世界中どこに行っても不自由しなくなった。

コロナ禍前の2019年、香港のペニンシュラホテルに行くと、30年前に見た日本人の行列はすべて中国人に変わっていた。香港よりも何でも安い日本に中国人が押し寄せる姿を見て、時代の変化をつくづく感じさせられた。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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