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「少子化ではなく少母化」婚姻減が生み出す少子化加速の負のスパイラル

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:イメージマート)

今の問題は少子化ではない

子育て支援では、少子化は解決されない。

これは、当連載でも何度も書いていることであり、そもそも「日本に起きているのは少子化ではなく、少母化である」ことを言い続けてきた。

もちろん、出生数が減少していることは事実であるが、それは当たり前の話で、日本では本来1990年代後半から2000年代前半に来るはずだった第三次ベビーブームがなかった。それは、今後子どもを生む女性の絶対人口が減ることを意味する。出生数が減っているのは文字通り母体としての母親の数が減っているためである。

2022年に1.26まで下がった合計特殊出生率ばかり取り沙汰されるが、これは未婚も含めてすべての15-49歳の女性を分母として計算した指標である。よって、昨今のように未婚率及び結婚しても無子の割合が上昇すればそれだけ自動的に減ることになる。

1人の母親が産む子どもの数は減ってない

事実、一人以上出産をした母親が産む子供の数は、1980年代と比較してもほぼ大差ない。結婚した女性は、大体2人の子どもを産んでいる

参照→出生数が増えない問題は「少子化」ではなく「少母化」問題であり、解決不可能なワケ

ただでさえ女性の絶対人口が減っている上に、未婚化が進み、母親になる以前の結婚する女性人口が減っていることが、現在の低出生・少子化の根本原因である。つまり、「少母化とは婚姻減」によるのであり、婚姻数が増えなければ出生数は増えないことを意味する。

ちなみに、わかりやすく単純化すれば、39歳までに一人以上産んだ母親の数は1985年を100とすると2020年には40にまで減っている。なんと6割も減っている。1985年時点で一人の母親が2人出産したとすれば、子どもの数は200人だが、6割減った40人の母親で200人にするためには、一人当たり最低5人という戦前並みの多子出産をしないといけないことになる。これは到底無理というものだ。

子育て支援偏重の政府の「異次元の少子化対策」が的外れなのはまさにそこであり、必要なのは「子育て支援」以前の「結婚に至るまでの若者の環境作り」が先なのである。

諸外国も同じ

日本に限らず、韓国でも台湾でも、シンガポールでも少子化対策として子育て支援に多額の予算を投じているが、子育て関連予算を増やせば増やすほど出生数は減り続けるという皮肉な結果となっている。

東アジアだけではなく、欧州でも同様で、フィンランドの出生率もいつのまにか日本と同レベルの水準まで低下している。

いわゆる「児童手当」などの家族関係政府支出GDP比をあげたところで、それが直接的に出生増にならないことは、世界各国で証明されている。

参照→「出生インセンティブ政策では出生率はあがらなかった」シンガポール出生率0.97

参照→「フィンランドの出生率1.26へ激減」子育て支援では子どもは生まれなくなった大きな潮目の変化

実質婚姻数・出生数推移

20-39歳を対象として、1990年から2022年までの女性の総人口と初婚数、出生数の推移をまとめたグラフを見ていただきたい。初婚数と出生数に関しては、人口の増減による影響を加味した実質初婚数、実質出生数を算出して比較した。1990年を基準としている。20-39歳の年齢帯に限定したのは、出生の9割以上がこの年齢帯で長期的に占められているからである。

これによれば、総人口は2000年頃をピークに減少しているが、注目していただきたいのは、その総人口の減少推移と初婚・出生の推移との違いである。

1990年代は、世の中的にはバブルが崩壊後といわれているが、若者においてまだバブルの余韻は続いていて、バブルの象徴として映像が使われる「ジュリアナ東京」がオープンしたのは1991年である。この時期の初婚数は増えているのだ。

1990年代は、若者がまだ結婚をしていた時期であるが、「結婚はしても子どもは持たない」というDINKSなどという流行もあり、出生数は減っている。

それが2002年頃を境に、急激に婚姻数が減る。当然、出生数も連動して引き続き減る。この時期は、いわゆる就職氷河期の最後の時期でもある。婚姻のもっとも多いはずの20代の婚姻数が激減した。

その後、婚姻数は継続して減り続けるが、出生数は2006年以降反転し、婚姻数を上回る出生数となった。これは結婚した女性が2人以上の子どもを産んだことの証拠でもあり、婚姻絶対数は減っても結婚した夫婦はそれ以前より子どもを産んでいるということになる。

マクロ的に見れば、2000年あたりに最大となった女性人口の20代前半あたりの層が2010~2014年あたりにかけて35-39歳となり、晩婚ながら結婚し出産をしたという時期ズレである。ある意味で、これは「遅れてきた小さな第三次ベビーブーム」であり、「最後のベビーブーム」だった。ちなみに、この時期に出生数を大きく増やしたのは唯一東京だけである。

写真:アフロ

これから訪れる負のスパイラル

2015年以降は、婚姻数も出生数も減少基調に変わり、2020年からの3年間のコロナ禍で大きく婚姻数も出生数も減った。そして、現在の出生数が減るということは、20年後の出産対象年齢の女性人口が減ることを意味する。そうして出生減→未来の人口減→未来の出生減→さらなる人口減という負のスパイラルに陥っていくのは確実で、二度と年間100万人出生などという時代に戻ることはないだろう。

抜本的に出生数を改善することは基本的に不可能で、唯一その減少のスピードを緩めることができるのは、特に20代の若者の婚姻減を食い止めるしか他に方法はない。少なくとも、ただでさえ少ない子育て世帯において、2人目、3人目を産めば解決するなどという問題ではない。

問題はなぜこんなに若者の結婚が減ったのか(1990年対比40%減)という点だが、実は政府も官僚もわかっている。少子化対策大綱でも岸田首相の異次元対策の発表でも、いの一番の課題として「若者の雇用と所得の増加」を掲げていた。

課題の抽出は間違っていないが、その最優先課題解決の具体策は何もない。それどころか、反対に「子育て支援金」なる新たな若者の実質可処分所得を減らせる方向に舵を切っている。

これは、婚姻減と少子化をさらに加速することになるだろう。

誤解のないように、子育て支援を否定するものではない。それは少子化であろうとなかろうとやるべきことであり、特に地方自治体においては住民の暮らしやすさのために必要なことでもある。しかし、自治体単位で有効なことが国全体の最適化をもたらすものではない。

少子化対策について、NewsPicksにて元明石市市長の泉房穂氏と対談させていただいた動画があがっている。お時間があればぜひご覧いただきたい。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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