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日本の結婚は30年前にはすでに詰んでいた。失われた社会的システム

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:アフロ)

未婚化・非婚化の要因は「お金」だけではない

「未婚化・非婚化の要因はなにか?」という話で、取り上げられるのが多いのは経済問題である。特に、若者の年収の停滞や非正規雇用などによる将来への不安など、いわゆる「金がないから結婚できない問題」としてフォーカスされることが多い。それは決して間違いではないが、未婚化・非婚化要因のすべてではない。

また、一部には「若者の草食化」を要因としてあげる人もいるが、それに至っては、昔も今も恋愛力のある割合に変化はなく、若者の価値観の変化が婚姻の減少を招いたという理屈はピントがずれている。

「若者の恋愛離れ」と言いたい一部の大人の偏見に満ちた戯言あるいは恣意的な虚構に過ぎない。こちらの記事にも書いたが、「恋愛強者3割の法則」通り、いつの時代も恋愛する者はするし、しない者・できない者の割合は不思議と一定である。

加えて、前々回の記事結婚は女のビジネス。男にまかせていたらいつまでも結婚できない理由で、「男も女も結婚に対しては受け身である」という話をした。これも時代によって変わるものでもないし、最近の若者が急に受け身になったわけでもない。

婚姻減少を招いた社会的システムの崩壊

婚姻減少の要因として、経済問題と同様に無視できないのが、社会的システムの問題である。日本は、1980年代まで、95%以上が結婚していた皆婚時代を実現していた。しかし、それは決してその当時の若者が経済的に豊かで、全員が裕福だったからではないことは言うまでもない。

1920年からの長期生涯未婚率推移グラフはこちら

未婚化の原因を「イマドキの若者の草食化」のせいにするおじさんへのブーメラン

そして、忘れがちな視点だが、皆婚を実現するには「離婚が少ない」という前提条件も必要になる。一見、順序が逆だ、と思いがちだが、離婚が多ければ多いほど、実は再婚は増えるものの、初婚が減り、かえって未婚率は上昇するのだ。

なぜ日本が皆婚できるようになったのか、については後日また記事化することにするが、今回は、経済問題とは別の要因、しかも、婚姻減に経済問題以上の影響力を及ぼした社会的システムについてお話ししたい。

20代女性と結婚したがる「40代以上婚活おじさん」は永久に仏滅ですという記事にも書いたように、初婚数の激減はほぼ夫年上婚の減少と一致する。つまり、年上の男が結婚できなくなっているのだ。

なぜ、そういうことが起きるのか。要因はふたつある。

社会的システムとしてのお見合い

ひとつはお見合いの衰退である。戦前戦後時期は、お見合い結婚は全体の7割を占めていたが、今では5.5%程度しかない。しかもこれは結婚相談所などの結婚(約2%)を含むので、伝統的なお見合い結婚はたった3%程度しか存在しないことになる。そのかわり恋愛結婚が87.7%にまで伸長している。

恋愛結婚がお見合い結婚を上回ったのは1965年頃だった。

生涯未婚率が上昇し始めたのは1990年代以降であり、それよりも30年も前にお見合いが衰退したのであれば、お見合い結婚減は未婚化には無関係だと思ってはいけない。1965年に25歳だった適齢期の未婚男性が、生涯未婚の判断基準となる50歳になった時が1990年である。つまり、お見合い結婚比率が恋愛結婚比率を下回った第1世代は、そのまま生涯未婚率上昇の第1世代となったと言える。

ここで思い出してほしいのは、「男女とも結婚には受け身である」という元々の気質である。受け身な男女を結婚に結びづけていたものが、この「大きなお節介」ともいうべき社会的マッチングシステムなのである。

社会的システムとしての職場縁

もうひとつの社会的システムが職場結婚である。

これは分類上恋愛結婚とされているが、当時の職場結婚もまた社会的なマッチングシステムのひとつだった。お見合いよりも自由度はあっただろうが、出会いのきっかけとしてお膳立てされていたことは間違いない。

当時は、企業自身も女性社員雇用は自社の男性社員の花嫁候補として採用をしていた。「腰掛けOL」「寿退社」という言葉もあった。部下の結婚式の仲人を上司が行うのが通例でもあった。

しかし、今ではこの職場結婚、いや、その前段階となる職場恋愛自体が、セクハラ問題と表裏一体とされており、職場での出会いによる結婚数は近年激減している。

こちらが、出生動向基本調査に基づき、結婚した夫婦の出会いのきっかけの推移を表したものである。

一目瞭然、大きく減少しているのは、お見合いと職場であることがわかる。

お見合いと職場結婚が減った分だけ婚姻数は減った

もっとも婚姻数が多かった1972年と直近の国勢調査2015年とを比較すると、お見合いと職場結婚を合算した婚姻数のマイナス分は約46万組となり、婚姻総数のマイナス分とほぼ一致する。

つまり婚姻数の減少はこれら2つの社会的システム(社会的なお膳立て)によるマッチングが減ったことと言えるわけである。逆にいえば、社会的マッチングシステムがあろうがなかろうが、恋愛強者の3割は勝手に恋愛して、勝手に結婚していく。

政府の少子化対策がずっと的外れだったのは、それが子育て支援にばかり注力していたからだ。子育て支援自体は重要で、それはそれでやるべきことだが、それでは婚姻数の増加には全く寄与しない。

最近、ようやく少子化の本当の問題は婚姻数の減少であることが官僚の資料やマスコミの報道でも取り上げられるようになってきた。自治体でも婚姻増に向けての官製婚活の動きも活発化している。

しかし、だからといって、昔のお見合いを社会的システムとして復活させることは不可能である。同時に、今後婚姻のうち初婚の絶対数が増えることは未来永劫ないと断言できる。

なぜなら初婚対象である年齢の若者の人口が減り続けているからである。身も蓋もない現実を言えば、本来1990年代に到来するはずだった第3次ベビーブームが来なかった時点で、日本の結婚はすでに詰んでいたのである。

写真:アフロ

この記事を読んで「自分は結婚できるんだろうか?」と不安になった方は、ぜひこちらの過去記事「結婚に向いてないかもしれない診断」をお試しください。

結婚に向いてないかもしれない診断テスト

婚姻や出生の大きな人口動態の推移についてはこちらにまとめてあります。

明治期からの出生数、戦後の婚姻・離婚推移グラフ

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※記事内のグラフの無断転載は固くお断りします。

独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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