本日2019年10月1日施行、日本初の食品ロスに関する法律「食品ロス削減推進法」に何を期待するか
2019年5月24日に成立し、5月31日に令和元年法律第19号として公布された、「食品ロス削減推進法(正式名称:食品ロスの削減の推進に関する法律)」。
本日2019年10月1日に施行される。
「この法律はどういうものですか?」といった、マスメディア各社からの取材も増えている。だが、政府の基本方針がこれから検討されるので、具体的に説明しづらいのが実情だ。
個人的な考えで誠に恐縮ではあるが、食品メーカー(14年5ヶ月)勤務およびフードバンク(3年)勤務の両方の経験者として、また、食品ロス問題に関しての国内外の取材を通して、ぜひ検討していただきたい内容のうち、主な3つを挙げてみたい。
1、食品業界のヒエラルキー(上下関係)と既得権益の是正
食品メーカーに14年以上勤務経験のある筆者は、常々、食品業界の中に存在するヒエラルキー(上下関係)が食品ロスの一因だと強調してきた。法案が成立する過程でも感じたことだが、これは、食品業界の中、しかもヒエラルキーのピラミッドの「上」ではなく、「下」に身を置いた人しか理解しづらいのではないだろうか。
欠品ペナルティ
たとえば、食品メーカーは食品小売で欠品をしてはならないというルール。欠品とは、商品棚を空けてしまうこと。販売者にとっては、棚にあれば売れるはずだった販売チャンスや売り上げを失ってしまう。メーカーが欠品を起こすと、悪くすると、小売との取引停止の可能性があるため、どのメーカーに聞いても、口を揃えて「欠品は絶対許されない」と語る。全国5万以上の製造企業がある日本で、全企業が欠品を恐れて必要以上に製造すると、食品ロスが発生するのは必至だ。
よく「なんで企業はこんなに(たくさん)作るの?」という声を消費者から聞く。メーカーだって、作り過ぎて余れば、捨てるコストはメーカー負担なので作り過ぎたくない。でも、作り過ぎなければ小売との商売を続けられない(売り先を失う)事情があるから多く作らざるを得ないのだ。
3分の1ルール
食品業界にある商慣習、3分の1ルール。賞味期間全体を3分の1ずつ均等に分け、最初の3分の1までにメーカーは小売に納品する(納品期限)、次の3分の1までに小売は売り切る(販売期限)というものだ。法律ではなく、商慣習。2012年から政府と食品業界が緩和に動いており、すでに2分の1などに緩和した大企業もあるが、中小企業のメーカーのトップに聞くと、3分の1どころか5分の1など、より短期間での納品を求める、厳しいルールを課している小売もあるという。
日付後退品(日付の逆転)
前日納品したものより、1日たりとも賞味期限の古いものの納品は許されない、日付後退品(日付の逆転)NGというルール。これによるロスを減らすため、先進的な企業では、3ヶ月以上賞味期間があるものの年月日表示を、年月表示に切り替えている。
小売からメーカー・卸への返品
在庫が回転しない場合や、販売期限が切れたものなど、余剰在庫が小売から返品される場合。小売企業によってはメーカー品を買い取りしているが、そうでないケースもある。そのため、経済産業省らが加工食品における返品削減の進め方手引書を作成している。
需要を超えた数をメーカーに発注して売る販売者
2019年1月、農林水産省が、小売業界に対して、恵方巻きは需要に見合った数を売るようにと通知を出した。売り手としては、売り逃がしをしたくない(販売チャンスを逃したくない、売れるだけ売りたい)。前述の通り、メーカーに欠品を許さない。通知を出したことで、結果的には「メディアが騒いだおかげで売り上げが2割減った」とぼやいている大手コンビニもいる。だが、国全体で見れば、恵方巻きの廃棄は10億円以上の損失となっている。
見切り販売より捨てた方が本部が儲かる「コンビニ会計」
スーパーでは常態となっている、期限が迫ったものを見切り(値引き)して売り切る見切り販売。コンビニで進まないのは、見切り販売するより、廃棄した方が、本部の取り分が多くなるコンビニ会計の仕組みがあるからだ。本部は見切りを禁じてはならないが、店側としても、本部の気に入らないことをすると契約解除になることを恐れて、現場ではほとんどされていない。
参考記事:
以上のような、公正取引法で禁じている優越的地位の濫用が、食品業界には存在している。このことは、食品業界の上下関係の中の、上ではなく下に身を置いた者でなければ、なかなか理解しがたいと思われる。
ここではメーカーを下に、小売を上に書いたが、メーカーが上で、メーカーに納品する原材料の納入業者が下、という図式もある。
国(農林水産省や経済産業省など)は、このような状況をただ見ているだけでなく、是正に向けて、2012年から動いてきている。だが、現実には、まだまだこのようなヒエラルキーは存在しており、そのために食品ロスの発生要因となっている。となれば、ある程度の法的強制力が必要と考えられる。
このようなルールを守ることで、日常はもちろん、災害発生時などの非常時にもロスが増えている。
特に、これだけ自然災害が頻発している中、道路が寸断されてもなお、3分の1ルール(販売期限)を守って廃棄されていた現状を見ると、自然災害時のルールの緩和など、臨機応変な対応も求められる。
2、賞味期限表示の改善
日本に少しずつ増えてきている、賞味期限切れ食品を扱うスーパー。あるテレビ局が街の人50人に「あなたは賞味期限切れ食品を買いますか?」と聞いたところ、過半数の26人が「買わない」と答えた。理由はさまざまだったが、「お腹をこわすから」という答えもあった。明らかに消費期限と誤解している。
賞味期限は、日本のみならず、先進諸国でも、食品ロスの要因と認められている。北欧諸国は、賞味期限表示と併記して、「賞味期限が過ぎても食べられる」旨を表示し始めている。
デンマークやスウェーデンなど、北欧諸国で、その事例がある。
日本の食品ロス643万トンの出どころが、家庭(消費者)およそ半分(45%)、事業者およそ55%である現状、両者にとって、賞味期限が足かせとなる場合も多い。
先日、賞味期限切れの水は飲めるので台風など非常時に捨てないで!消費者・行政・メディア みな賞味期限を誤解という記事に大きな反響があった。
ペットボトルの水の賞味期限表示が、実は、飲めなくなる期限ではない、という事実。全国のどれだけの人が知っているだろう。そして、水が最も必要とされる災害時に、飲める水がどれほど捨てられているだろう。世界の29%にあたる22億人が、いまだ、安全に管理された飲み水を飲むことができていない。
3、食品寄付における寄付者の免責制度
今回の法案には、フードバンクへの協力について言及されている。フードバンクとは、まだ食べられるにもかかわらず、商品として流通できない食品を引き取り、食べ物が必要な方へつなぐ活動、もしくはその活動をする団体を指す。米国で1967年に誕生した。
筆者は、日本のフードバンクに3年間勤務した。フードバンクに勤務する前にも、食品メーカーの広報室長として、フードバンク業務を3年半、兼務していた。
米国には、万が一、食品事故が発生しても、寄付者に責任を問わない善き(よき)サマリア人(びと)の法と呼ばれる免責制度がある。だが、今回の法案で、それが盛り込まれるかどうかはまだわからない。
米国のみならず、欧州でも、余剰食品を寄付しやすい仕組みや制度が整っている。
筆者の勤めていたメーカーは、米国に本社があり、米国では30年以上、製品を寄付していたので、日本でも2008年からフードバンクへの寄付を続けてきた。だが、日本の多くのメーカーにとって、免責制度がないのに、やったことのない寄付をするのは、「万が一」を考えると、リスクが大きい。まず「何かあったら」を考える。日本で浸透させるには、法律なり制度なり、何らかの免責制度が必要と考える。
以上、主な3点を述べてみた。
2019年、今年の秋以降に検討されるという政府の基本方針が期待される。
参考情報:
農林水産省:「食品ロスの削減の推進に関する法律」の施行及び本年10月の食品ロス削減月間について
環境省:「食品ロスの削減の推進に関する法律」の施行及び本年10月の食品ロス削減月間の取組について
経済産業省および製・配・販連携協議会:加工食品における返品削減の進め方手引書
2018年6月13日「食品ロスの削減の推進に関する法律案」全文公開 緊急院内集会 於:参議院議員会館
2018年11月28日「食品ロスの削減の推進に関する法律案」緊急院内集会開催(於:参議院議員会館)
2018年12月13日 超党派による「食品ロス削減及びフードバンク支援を推進する議員連盟」が発足
北欧4カ国(デンマーク・フィンランド・ノルウェー・スウェーデン)の食品の期限表示と食品ロスについて