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受刑者死亡の池袋暴走 教訓と今後の課題 #専門家のまとめ

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:イメージマート)

池袋暴走事故で禁錮5年の実刑判決を受けて服役中だった受刑者の男性が老衰により死亡しました。93歳でした。ネット上では「高齢者の運転は危険であり、免許返納を促すなど制度改革が必要だ」といった意見が示される一方、「高齢者にも移動手段が必要であり、自動運転などの技術革新や都市計画の見直しで問題解決を図るべきだ」という声も上がっています。教訓と今後の課題について、理解の参考となる記事をまとめました。

ココがポイント

「世界でも例のない高齢化が進む日本」「確実に高齢の受刑者も増えている」「府中刑務所では、平均で月に1人の受刑者が亡くなるという」
出典:NHK 2019/8/21(水)

「社会がすべきことは、彼を非難し続けることではなく、彼の経験から学び、同じような悲劇を繰り返さないための道を共に考えること」
出典:NHK 2024/11/25(月)

「もっと早くに車の運転を止めていれば今回の事故を起こさないで済んだと思います」「免許を早めに返すよう世の中に伝えてください」
出典:NHK 2024/7/11(木)

「免許返納は、高齢になりつつある親にとってデリケートな部分でもあるため話しづらいと感じるかもしれないが、しっかりと家族で話し合うこと」
出典:@DIME 2022/7/15(金)

エキスパートの補足・見解

この事件では、遺族に対する殺害予告や筋違いの誹謗中傷も相次ぎました。高齢の受刑者に高額な賠償金を支払わせるのは不当だといった内容でしたが、メディアの報じ方にも誤解を招く原因がありました。

遺族は賠償金めあてではなく、男性が車両の欠陥を主張していたことから、事故の原因究明と再発防止のために提訴に至っていたからです。しかも、裁判所は保険会社にも支払いを命じていましたし、保険会社が全額支払う契約であり、男性の負担などありませんでした。

しかし、提訴の経緯まで深堀りして報じたメディアは乏しく、あたかも男性だけが支払いを命じられたかのような報道が大半でした。このあたりについては、もう少し丁寧に報じる必要があったと思います。

一方で、事故後の加害者側の対応がいかにその後の展開を大きく左右するかという点も浮き彫りになりました。男性は服役するようになってから率直に過失を認め、遺族に真摯な謝罪の言葉を述べるようになりました。もし男性が初めからこうした態度だったなら、少しは遺族の処罰感情も和らいだことでしょう。男性に対する社会的なバッシングもはるかに少なかったのではないでしょうか。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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