「食品ロスを減らすと経済が縮む」は本当か
2018年10月24日、テンプル大学で開催された2018年度 港区民大学 テンプル大学ジャパンキャンパス公開講座に登壇した。
2018年7月以降に全世界で配信されたNHK Worldの食品ロス特集番組(28分間)に出演した。
その番組を担当して下さった、テンプル大学准教授のイレーネ・エレーラ氏と共に登壇し、番組を視聴した後、英語でのディスカッションに入るという流れだった。
会場で、リアルタイムアンケートシステム、respon(レスポン)を使って、「買い物のとき、賞味期限日付の新しいものを棚の奥から取ったことがありますか?」と聞いたところ、アンケートに協力して下さった24名中、83%に当たる20名が「ある」と回答した。
食品ロスを減らすと経済は縮むのか?
会場からは、食品ロスと経済との関係性に関する質問など、多くの質問が参加者から活発に出された。2018年10月20日に長野県飯田市で開催された「くらしの学習交流会」でも、筆者が食品ロスに関して講演した後、背広姿の男性から、「ロスを減らすと必ず経済が縮小する」「食品ロス削減は理想論のように聞こえる」といった趣旨の質問が出された。
食品ロスを減らそうとすると、売り上げは必ず減るのだろうか。具体的な事例を見てみたい。
事例(1)コンビニでは見切り販売で食品ロスを減らすと年間400万円の収益アップ
コンビニは、食品ロス問題を語ると必ず出てくる組織だ。全国55,000店舗あるうちで見切り(値引き)販売している店舗は、映画「コンビニの秘密」によれば1%に過ぎない。
大手コンビニ加盟店の11店舗の損益計算書を税理士に分析してもらったところ、同じ店舗で、見切り販売をしていない一年間としている一年間とを比較すると、対象店舗では利益率に2%差があることが判明した。売り上げが2億単位なので、年間400万円程度、収益がアップしていることになる。日本のサラリーマンの平均年収に相当する。
「見切り販売はしたほうが儲かる」 コンビニ11店の損益計算書を分析
事例(2)数回転で全部廃棄する回転寿司を「回さない」形態にして売上高1.5倍アップ
回転寿司店では、数回転した寿司は、全部廃棄する。どの大学の学生に聞いても、回転寿司店でアルバイトしている学生が必ずいる。彼らに聞くと、それは明白だ。
しかし、回転寿司チェーンの元気寿司は、そのような「回す」形態の店舗を「回さない」で、顧客の注文を受けてから出す形式に変えたところ、該当店舗の売上高が1.5倍アップした。
事例(3)2015年夏からパンを1個も捨てていないパン屋
もともとたくさんパンを捨てていた、広島市のブーランジェリー・ドリアンの田村陽至(ようじ)さん。あるきっかけで、パンの作り方から働き方まで変えていった。捨てていた時と比べて、売上げは落ちていない。
事例(4)京都のイズミヤと平和堂で賞味期限ギリギリまで販売した結果、売上高は対前年比で5.7%増
われわれ一般消費者は、食品を買う時、賞味期限や消費期限しか見ない。だが、食品業界ではそのずっと手前に「販売期限」があり、それを過ぎると棚から撤去される。さらにその手前には「納品期限」もあり、この商慣習「3分の1ルール」が年間1,200億円以上のロスを生み出しており(流通経済研究所調べ)、農林水産省はじめ、業界全体でこれを緩和し、ロスを減らす取り組みが2012年10月から進められている。
では、「販売期限」で撤去せず、賞味期限ギリギリまで販売したらどうなるか。そんな実証実験を、京都市が、市内のスーパー、平和堂とイズミヤの協力のもとに行なった。結果は、ロスが10%減り、売上高は対前年比で5.7%増加した。
「食品ロスを減らすと経済が縮む」は本当か スーパーで食品ロス10%削減、売り上げは対前年比5.7%増
この記事を書いたあと、「売上高アップは他の要因も絡むのでは」との意見があった。が、売上げに関与するのが単独要因に絞れないのは、どの組織も同じだろう。
今後も引き続き議論されるべき問題
以上、4つの事例を挙げてみた。たった4つの限られた事例ではあるが、食品ロスを減らしたことで、いずれも売上高は下がっていない。キープしているか、もしくは、増加させている。だから、「食品ロスを減らすと必ず売上高が落ちる(経済が収縮する)」とは断定できないのでは、と筆者は考えている。
食品ロス問題の講演や執筆を続けていると、必ず、「食品ロスを減らすと経済が縮むのでは?」という疑問を提示する人に出会う。「もったいない」という感情論や主観に基づくものではなく、客観的なデータやエビデンスを示しながら、今後も議論を続けていきたい。