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ゴミ箱から魚、床に唐揚げ、商品なめる、口に出し入れ。続出する従業員の炎上事件は、ある3つの欠如が原因

東龍グルメジャーナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

とまらない食の炎上事件

飲食店やコンビニなど食を扱う業態において、従業員による炎上事件が続出しています。

古くは吉野家のテラ豚丼ローソンのアイスケースが世間を驚かせましたが、ここ最近はさらにエスカレートしているように思います。

すき家の股間におたまくら寿司のゴミ箱から魚セブンイレブンのおでん飲食ビッグエコーの床に唐揚げバーミヤンの中華鍋の火でタバコファミリーマートの商品なめ大戸屋のお盆で下半身隠し……など事件の枚挙に暇がありません。

従業員が自ら事件を引き起こした上で、動画や画像に記録してSNSへ投稿しているので、何かの手違いや間違いではなく、確信犯として行っているのでしょう。

Yahoo!ニュース 個人でも話題に

Yahoo!ニュース 個人でも、多くのオーサーがこの問題を取り上げています。

藤田氏はアルバイトの時給の低さから構造的な雇用問題が原因であるとし、徳力氏はバイトテロのような<バカな行為>が行われてしまう理由6つをTwitterなどのSNSという文脈で分析しています。

大元氏はITリテラシーの低い人材を採用しなければならない人手不足について説明しており、井出氏は「命に関わる食べ物への真摯さと敬意の無さ」ひいては「ビジネスを大きくし過ぎたこと」が要因であると述べています。

篠原氏は過去動画の掘り起こしの前には無力なので、不適切動画の騒ぎは収まらないと予見しています。

私は<大反響があった食の炎上事件2018年 ワースト5>などで、食の炎上事件をずっと追ってきました。

従業員がどうしてこのような行為を行ってしまうのかを、考えてみたいと思います。

事件が起きるのはなぜ

これまでの事件はどれも、動画や画像をYouTubeやTwitterに投稿して、それが拡散して大炎上しました。内容を鑑みると、食品を扱うには不衛生であったり、常識的な感覚とかけ離れていて不快であったり、提供側が行うには不適切であったりしたことで、大きな非難を受けています。

什器から直箸で口に出し入れしたり、ゴミ箱からまな板に戻したり、床に触れさせてから調理したり、商品をなめたりすることは非常に不衛生です。おたまを股に当てたり、アイスケースに入ったり、お盆で裸を隠したりすることは不快な行為でしょう、食品を弄んだオリジナルメニューを作成したり、調理器具を用いて喫煙したりするのは不適切です。

広く考えてみると、これらは全て不衛生であり、不快であり、不適切な行為であるともいえます。

こういった行為が行われてしまうのは、以下の点が欠如しているからであると考えています。

  • 食品衛生の意識
  • 食材への敬意
  • 食べ手に対する想像力

過去から掘り起こされた事件であったとしても、その時に事件を起こしてしまったことに変わりないので、その原因はどこかにあるのか、経済的な要素が絡んでいたとしても、どうしてそのようなことを行ってしまう従業員が現れてしまうのかについて、考察しました。

食品衛生の意識

食品の扱いが不適切であるために何かしらの菌が付着したり、管理方法がずさんであるために食品が傷んでしまったりすると、食中毒のリスクが高まります。

そのため飲食店やコンビニなど、食品を扱う施設では、食品を安全に扱うためにも、食品衛生責任者の設置が義務付けられているのです。

食品衛生責任者の資格を得るには、養成講習会を受講する必要がありますが、調理師、栄養士、医師、獣医師などの資格を既に取得していれば、養成講習会を改めて受講する必要はありません。

食品衛生責任者には、適切に食品衛生を管理運営することが求められています。その役割の中には、食品衛生上の危害の発生を防止するための措置が必要な場合に営業者に改善を促したり、従業員に衛生教育を実施したりすることも含まれているのです。

これらの事件では、事件を起こした従業員が食品衛生をしっかり理解しているようには思えません。もちろん本人に問題がありますが、食品衛生の管理運用がしっかりと行われていないという意味では、運営する施設も同様でしょう。

私はおいしいグルメに関する記事もよく書きますが、食品にとって最も大切なことは安全性であり、衛生的であることだと考えています。

問題を起こした従業員に対して、訴訟を起こす企業も現れていますが、食品衛生が非常に重要であると意思表示するという意味ではよいことではないでしょうか。

今の時代は昔よりもずっと安全面が重要視されています。食品を扱う施設は、食品衛生の根幹を揺るがすことがあってはならないと、より意識を高くし、アルバイトも含めた従業員に対して、食品衛生の重要性を教育する必要があると考えています。

食材への敬意

事件を起こした従業員は、食品を扱う施設で働いているわりには、生産者、および、生産者がつくりだした食材に対して敬意の念が欠如しているように感じられます。

食材をゴミ箱に入れて出したり、床にすり付けたりすることが、どうして楽しいのか非常に不思議です。食材そのものや生産者に対して、全くありがたみがないので、このような失礼なことを行えるのではないでしょうか。

什器をふざけて使うことも、食への敬意が払われていないように感じられます。作り手であれば、料理を作るために、自分の手足となって動く調理器具は、食材と同じようにとても大切なものでしょう。まずは道具をしっかりと扱えるようになること、その大前提として、道具を大切にすることが最初に教えられるはずです。

今でこそ、最初の数年間キッチンスタッフは皿洗いだけ、ということはあまりなくなりましたが、だからといって調理器具を粗雑にしてよいわけではありません。

食品ロスの対策として農林水産省は「食べものに、もったいないを、もういちど。」をスローガンとして、食べ物に対する敬虔な気持ちを訴えていますが、今では世界共通語となった「もったいない」という言葉や考え方を生み出したのは日本人です。

ここまで大きな炎上となっているのは、単に衛生的に問題があったからというだけではなく、食材に対する侮辱が行われていたからではないでしょうか。食に対して尊敬の念を持つ常識的な人々が、食材への侮蔑行為を許せないと感じ、批判しているのです。

農林水産省では食育をもっと推進していくために、「食育推進会議・食育推進評価専門委員会」を立ち上げ、2018年10月31日に第1回目、2019年2月6日に第2回目となる食育推進評価専門委員会を開催しました。

こういった炎上事件をなくしていくためにはもちろん、経済的な観点から、黒毛和牛や醤油、イチゴなどを日本の食の素晴らしさを世界へ展開していくためにも、日本にはもっと食材や生産者の重要性を教育する食育が必要であると考えています。

食べ手に対する想像力

これらの事件では、問題の画像や動画を閲覧した人が、これはひどいことだと非難したり通報したりし、それをメディアがやはりけしからんという論調で追従しました。

どの事件でも擁護する声がほとんど上がっていないのが大きな特徴です。つまり、ほとんどの人が、画像や動画の行為を好ましくないと認識しているといえます。

事件を起こした理由は承認欲求があるからではないかという指摘もありますが、どうしてこういった事件が承認欲求になると本人が考えたのかが重要です。

おそらく事件を起こした従業員は、食べ手に対する想像力が欠落していたのではないでしょうか。

食品を弄ぶことが面白いと感じているために、画像や動画を閲覧した食べ手が、不快に感じるなど全く想像できなかったのだと思います。

食に対する意識や常識はや育った環境によって大きく変わります。

戦時中や貧困の中で育てられれば、それこそ、おいしいかどうかは関係なく、食べ物を口に入れられ空腹を満たせるだけで幸せだと感じるので、米粒ひとつ残すことすら、もったいなくてできないでしょう。

現代の日本ではそこまでの環境で育てられた人はあまりいないにせよ、食べ残すことはいけないことであると教わったり、箸の上げ下げからお椀の持ち方、食事中の姿勢について、躾けられた人であれば、食べ物やテーブルウェアを粗末に扱うようなことはしないと思います。

食に関してあまり躾が厳しくない環境で育った人であったとしても、大きくなってから、自分で意識を改める人もいるでしょう。

事件を起こした従業員は、友人と一緒においしいものを食べたり、生産者や作り手が食べ手のことを考えて励む様子を見聞きしたり、作ったものを誰かに食べてもらって嬉しかったりするなど、食を通したコミュニケーションの経験が乏しかったのではないでしょうか。

そのため、自分自身が作り手や担い手になっているにも関わらず、食品をどのように扱ったら相手はどのような気持ちになるのかを理解できず、食べ手に対する想像力が足りなかったのかもしれません。

食文化は人にとって重要

冒頭で紹介した記事では、それぞれのオーサーの専門分野などの観点から、深い分析がなされており、非常に興味深く、納得できるものばかりでした。

私は食の立場だけから鑑みて、これまでの炎上事件を起こした従業員たちは、食品衛生の意識、食材への敬意、食べ手に対する想像力が欠如していたために、このような行為に及び、画像や動画を公に投稿してしまったのではないかと考えています。

食べ物は人間が生きるための栄養を摂取する上で必要ですが、単に栄養を摂取するためのものではありません。そうであるからこそ、家族の団らんに奮発して豪華な食材を購入して鍋料理を作ったり、意中の異性とのデートでファインダイニングへ訪れたり、重要な仕事相手と高級店で同じものを食したりするのではないでしょうか。

一連の炎上事件は、食品衛生に問題があるからだけで批判されているのではなく、人にとって重要な食文化が毀損されているからこそ、これだけ多くの批判にされされているように思えてなりません。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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