福岡の屋台の常識を変える! 人気ラーメン店主が生み出した「ネオ屋台」とは?
何度も危機を乗り越えてきた福岡の屋台文化
福岡の街を歩けば必ず目にする「屋台」。戦後の闇市から始まったとされる福岡の屋台は、これまで何度となく廃止の危機を乗り越えてきた。
福岡の屋台の数はピーク時の1960年代には400軒以上あったが、2000年に福岡市が「福岡市屋台指導要綱」を制定してからは減少の一途をたどり、2000年には190軒、2010年には155軒、2020年代に入ってからは100軒を割るまでに減少していた。
近年、全国各地で屋台がほぼ消滅しつつある中で、観光資源やシンボルとしての屋台の価値が再評価されてきた。そこで福岡市は、2013年には全国唯一となる屋台の条例「屋台基本条例」を制定して、屋台の存続へ方針を転換。さらに出店者の公募制をスタートさせたことによって、福岡の屋台の数は再び増え始めている。
2016年に第1回の公募が行われ、第3回までの公募によって37軒の屋台が新たに誕生。さらに2022年8月には4回目の公募が行われ、競争倍率5倍の難関を乗り越えた13軒が新たに加わった。
そして、条例施行から10年を迎えた2023年7月には、長浜の屋台街も復活して、合計で105軒の屋台が出揃うこととなった。現在では屋台の約4割が新規の公募屋台になっており、福岡の屋台街に新しい風が吹き始めている。
人気ラーメン店『博多一双』店主が屋台に挑戦
8月2日、天神南駅からほど近い渡辺通沿いに1軒の屋台がオープンした。『炉端屋台 正(まさ)』(福岡県福岡市中央区渡辺通4-6-2 パーキング303前)。その名の通り、客の目の前で炭火を使って焼き上げる「炉端焼き」を提供する屋台だ。
屋台を運営するのは人気ラーメン店『博多一双』店主の山田晶仁(まさひと)さん。福岡の食文化である屋台に挑戦したかったと語る山田さんは、第4回目の屋台公募に見事合格。これまでラーメン店の『博多一双』と『福はこび』を展開して来たが、屋台を運営するのは今回が初めての経験となる。
「博多一双を創業して10年が経ち、これからの10年を考えた時に『自分の可能性にチャレンジしていく10年』として、僕自身が美味しいと思う物を提供することが自分のすべき仕事だと思い、今回屋台の経営に挑戦することを決めました。
屋台は福岡の食文化としても観光資源としても非常に注目されています。これまで博多ラーメンを通して福岡の魅力をお伝えしてきましたが、今回は屋台で福岡の食文化に貢献していこうと考えています」(山田晶仁さん)。
全てのメニューが500円均一で楽しめる
『炉端屋台 正』のコンセプトは、地元福岡の人が普段遣いが出来て、県外の人たちにも胸を張って勧めることが出来る屋台。地元の人も観光客の人も誰もが行きたくなる屋台を目指して、「安心価格」「清潔感」を重視した新たな屋台のスタイルを提案する。
近年、屋台に限らず飲食業界では価格の高騰が著しい中で、料理もドリンクも全て500円(税別)均一という価格に挑戦。福岡の銘柄鶏『華味鳥』をはじめ、野菜や魚介類、乾物などを炭火を使い目の前で焼き上げて提供する。
炭焼きの野菜を使った「炭焼きバーニャカウダ」や、パン粉をまぶして香ばしく焼き上げた「つくね」など、炉端焼きの新たな表現にもチャレンジ。酒類も生ビールやハイボールのほか、地元福岡の樽熟成させた麦焼酎『朝倉』などを揃えた。
炉端焼きの締めには博多ラーメンを用意。『博多一双』のラーメンは熟成させた豚骨臭漂うパンチの効いたスープだが、『炉端屋台 正』ではスープは敢えて熟成させずにフレッシュな骨味を感じさせるまろやかなスープに仕上げている。老若男女万人が好む味わいのスープだ。
麺も地元の人気製麺所『製麺屋 慶史』に屋台専用のオリジナル麺をオーダー。歯切れの良い低加水細麺を硬めに茹で上げる。チャーシューは提供直前に炭火で香ばしく炙る炉端屋台ならではのスタイル。一杯500円とは思えないクオリティに驚かされる。
「『博多一双』のラーメンは僕自身が好きなラーメンを作ったものですが、今回のラーメンは福岡の屋台ラーメンのイメージを大切にして、自分なりに再構築したものです。頭骨だけを使って熟成はさせず、フレッシュな骨の旨味と香りはしっかりと出しながらも、飲んだ締めにサッパリと食べられるように作りました」(山田晶仁さん)。
屋台の素材にはアルミニウムを採用
衛生面の確保については、屋台の素材に木材ではなくアルミニウムを採用。軽く取り回しが出来ることや、営業終了後に厨房部分などを水洗い出来る利点を活かした。またドリンクもグラスではなく使い捨てのプラカップを使うことで、常に清潔なカップでドリンクを提供出来るようにした。
料理もドリンクも全品500円という均一価格。水洗い出来る屋台と使い捨てのプラコップ。多くの人が屋台に持つ「値段の高さ」や「衛生面の悪さ」のイメージを払拭することで、地元の人も観光客の人も誰もが行きたくなる新しい屋台のスタイル「ネオ屋台」を生み出した。
オープン初日から行列が出来る人気
オープン初日となる8月2日、真新しい屋台の前には噂を聞きつけた人たちが集まり、19時のオープン時間前から閉店時間まで、行列は途切れることがなかった。地元客はもちろん観光客や外国人客も多数訪れて、自慢の炉端焼きやラーメンに舌鼓を打った。
満席の場合は一時間までというルールはあるが、料理の提供もスムーズで回転も早い。この時期は真夏の炉端ということでいささか暑さは気になるが、日が落ちてからは風も出て来て、屋外ならではの雰囲気を満喫出来るだろう。
「多くのお客様に来て頂いて美味しかったとお褒めの言葉を頂けたので、とりあえずホッとしました。お昼に『博多一双』に来て下さって、夜に屋台にも来て下さった観光客の方たちもいて嬉しかったです。
屋台の魅力はお客様との距離が近いこと。お客様と一緒になって一つの空間を作っていくような楽しさがありますね。福岡の屋台文化がさらに盛り上がっていくように、これから頑張っていこうと思います」(山田晶仁さん)。
福岡県福岡市中央区渡辺通4-6-2 パーキング303前
19:00〜25:00頃 ※材料切れで終了
日曜定休(ほか休業日は公式SNSを参照)
※写真は筆者によるものです。
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