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笑顔でお互い明日からも生きていきましょう――nuance、misaki脱退ライヴレポート

宗像明将音楽評論家
nuance。左から珠理、misaki、わか(提供:ミニマリングスタジオ)

2022年3月30日、代官山UNITで開催されたnuance(ヌュアンス)のワンマンライヴ「nuance misaki last oneman live [f-u]」は、予想外の展開を見せながら終わった。イベント名にもあるように、メンバーのmisakiの脱退ライヴ。2021年12月15日に、メンバーだったみおが脱退したのに続く、わずか4か月後の脱退劇だった。

これからは私が一番近くで応援しています――nuance、みお脱退ライヴレポート(2021/12/16)

nuanceは、2017年に結成された横浜のグループ。メンバー、プロデューサーのフジサキケンタロウ、サウンド・プロデューサーの佐藤嘉風の全員が横浜在住という生粋のローカル・アイドル・グループだ。2020年と2021年にはKT Zepp Yokohamaでワンマンライヴを開催している。ながらくmisaki、珠理、わか、みおの4人で活動してきたが、前述のようにみおが昨年末に脱退。そのわずか4か月後にmisakiが続くとは予想もしていなかった。

misakiはグループの最年長。ラジオ好きをいかしたツイキャス配信も行い、ライヴのMCや取材でもトークの中心となる存在だった。チャキチャキのハマっ子、というイメージに一番合うのがmisakiだ。

脱退発表は2022年3月14日。それからわずか約2週間後の脱退ライヴだったが、会場には多くのファンが詰めかけていた。それは当然だろう。5年にわたって活動してきたオリジナル・メンバーの脱退ライヴなのだから。

nuance(提供:ミニマリングスタジオ)
nuance(提供:ミニマリングスタジオ)

この日、披露されたのは、アンコールも含めて実に22曲。5曲目の「タイムマジックロンリー」でのファンの熱いクラップも忘れがたい。

そしてこの日、もっとも狂おしい瞬間は、14曲目の「sanzan」から15曲目の「白昼ブランコ」への流れだった。それは歌詞や歌声、メロディーのためでもあるのだが、それに加えてmisaki、珠理、わかのヴォーカルの入れかわりの妙がもたらすもののせいだった。

最近、「NHK紅白歌合戦」に何度も出演しているグループのメンバーに取材をする機会があったのだが、グループではヴォーカルが入れかわっていくことに魅力がないといけないという話に思わずうなったものだ。そして、そうしたエピソードを思いださせる魅力がnuanceにはあり、しかし現体制はこの日をもって終わろうとしていた。「白昼ブランコ」では繰り返し歌われる。「Hello Hello Hello and Good bye」(作詞:宮嶋淳子/作曲:yukikomorijiri)と。

それに続くMCでは、misakiからの手紙が読み上げられた。ステージ脇のドリンクを取りにいった珠理とわかを呼び戻し、ふたりの立ち位置を指定し、misakiはこんな手紙を読み上げた。

みなさんこんにちは、nuanceのmisakiです。今日は私のラストライヴに足を運んでいただき、本当にありがとうございました。ライヴも後半戦ですが、みなさん楽しんでますか? 私の目の前に広がる景色が笑顔でいっぱいだったらいいなと思いながら、このお手紙を書いています。私、ミサキサンは、この3月で、nuanceを始めてから丸5年になります。2017年の4月、初めて横浜吉田町Lilyでメンバーと顔合わせをしたときのことをよく覚えています。サウンド・プロデューサーの佐藤嘉風さんに「セツナシンドローム」のデモ音源を聴かせてもらって、「これはもしかしたらすごいことになるかもしれない」、そう思った瞬間を今でも忘れられません。実際は想像していたよりもはるかにすごいことの連続でした。ビッグなステージにもたくさん立たせてもらった、大好きな横浜の街の風の中で何度も歌った、ファンのみんなとカレーを食べたりもしましたよね。なんだかよくわからない無茶ぶりのようなこともたくさんさせられたような気もします(笑)。語り尽くすのは無理だけど、きっとここにいるファンのみんなのそれぞれの心の中に、それぞれの素敵な思い出があるだろうから、それでいいんだと思っています。普通じゃない目まぐるしい5年間は私にとって宝物です。目には見えないけど、大事に大事に、これからも心の中にとっておきます。そして、この5年間で私が見つけたものってなんなんだったんだろう考えました。私が見つけたものって何だったんだろう? そんなことを考えてみました。思い起こせば、nuanceや自分の生活の中で困難が降りかかったとき、今、振り返ると必ず誰かがそばにいて助けてくれました。思いがけないところから助け舟を出してくれる人もたくさんいました。「きっと私って運がいいんだなあ」と、初めはそんな風に思っていたのですが、たぶん、それは少し違うんですね。きっと人はみんなひとりじゃない。そういうことなんだと思います。「人はみんな、ひとりじゃないんだ」という美しい答えに、私は実感としてたどり着くことができました。これがミサキサンが5年間で見つけたものです。だからずっと、この会場にいるあなたも、ひとりじゃない。誰かが必ず必ず見守ってくれています。だから笑顔でお互い明日からも生きていきましょう。

そして、手紙はこう続いたのだ。予想外の展開と冒頭で書いたのは、以下の部分だ。

最後にメンバー3人に向けて。この不思議なバランスの4人は、神様がくれたギフトだと思ってます。それはきっとここにいるヌューメン(nuanceファンの総称)のみんなも知ってることだとは思います。後ろばっかり振り返ってしまう私の手をグングンと引いて頼もしく颯爽と走ってくれるのがみおちゃんでした。そして前しか見えなくなり、手の中の荷物をポロポロと落としてしまったとき、「仕方がないなあ」と言いながら拾ってくれるのがわかたんでした。そして、立ち止まってしゃがみこんでしまったとき、優しく顔を覗きこんで一緒に手をつないで歩いてくれるのが珠理でした。かけがえのない3人は私にとって一生の宝物です。これからは3人と違う道を歩むなんて、やっぱりちょっと信じられないけど、本当に寂しくなったら泣いてわめいて駆けつけてもらうと思います(笑)。明日から私は、ひとりの表現者として一歩を踏みだします。自分の言葉で話し、自分の声で精一杯、歌っていこうと思います。明日からのnuanceはまたひとつたくましく進んでいくと思います。これから私は一ファンになります。一ファンとして、nuanceを作ってきたひとりとして、nuanceのこれからがとっても楽しみです。心の底から応援しています。がんばってね、がんばるね、ありがとう。nuanceにかかわるすべての人が、すべてのファンのみんなが明日からも幸せでいたら、こんなに嬉しいことはありません。それでは、この辺でミサキサンのお手紙はおしまいです。ラストスパートのライヴも楽しみましょう!

misakiは、すでに脱退したみおへも、在籍するメンバーのように語りかけていた。まるでこの日が、2021年12月15日から真っ直ぐな線で結ばれているかのように。そしてこのとき、みおは関係者席でmisakiを見守っていた。私の右斜め前にいた。見てはいけない……と思いつつ、みおの横顔を見た。

17曲目の「sekisyo」では、わかと珠理をmisakiが背後から抱きしめたが、この光景は2021年12月15日にも見たのだ。19曲目の「雨粒」では、「さっきから通じない電話に」(作詞作曲:yukiko)という歌詞にmisakiの情感が詰めこまれる。21曲目にして本編ラストの「ミライサーカス」では、misakiが「出会えて良かった、4人の未来がみんなの未来が……」と叫んだ。それに続く言葉は聞き取れなかったが、想像は難しくない。

アンコールで歌われたのは、nuanceがmisaki、わか、珠理の3人体制になった直後に公開された新曲「sky ballon」。落ちサビでは、ファン有志が用意した白いサイリウムの輝きで会場が満たされ、その光景にmisakiが涙した。

……と、ここで終わるのが美しかったはずだが、nuanceらしい終わり方を見せた。唐突に「セレモニー」が始まったのだ。misakiのポニーテールを珠理が引き継ぐというので、その場でmisakiが珠理を座らせてポニーテールにしはじめた。力士の断髪式のようだ。そして、misakiの赤のリボンをわかがほどいて、珠理の髪に結んだ。そして、3人がステージを去ると、misakiのソロ曲が流された。misakiの「ポラリス」という新曲だという。彼女はもともと自身で作詞作曲をするのだ。

nuanceも続く、misakiの活動も続く、みおの活動も続く。みおは「新田みお」名義となり、バンド・Sprechchorのメンバーとして2022年4月9日にデビュー・ライヴを行う。そしてnuanceも、2022年5月5日にKT Zepp Yokohamaで早くも新体制のワンマンライヴを行う。いきなり大箱でのワンマンライヴに臨む新メンバーはどんな人物なのか、私もまだ知らない。

2020年代はパンデミックと戦争の時代になりつつある。個人的にも、出会いよりも別れのほうが多い日々を送っている。この日もそのひとつのはずだったが、約2週間の怒涛の日々の終わりは、笑いに満ちたものだった。私に泣き言のひとつも言う隙を与えなかった。少し強引すぎるだろ……と苦笑いしつつも、不意に桜が咲き、そして散っていく別れの3月にふさわしいかもしれないとも思ったのだ。

nuance(提供:ミニマリングスタジオ)
nuance(提供:ミニマリングスタジオ)

<セットリスト>

SE a/un

01.セツナシンドローム

02.tomodachi

03.ナナイロナミダ

04.テキーラサンライズ

05.タイムマジックロンリー

06.I know power

07.ai-oi

08.FlatRat

09.サーカスの来ない街

10.yokohama sweetside story

11.たそがれ

12.君待ち商店街

13.青春の疑問符

14.sanzan

15.白昼ブランコ

16.highlight

17.sekisyo

18.ハーバームーン

19.雨粒

20.last a way

21.ミライサーカス

22.sky ballon

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音楽評論家

1972年、神奈川県生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。著書に『大森靖子ライブクロニクル』(2024年)、『72年間のTOKYO、鈴木慶一の記憶』(2023年)、『渡辺淳之介 アイドルをクリエイトする』(2016年)。稲葉浩志氏の著書『シアン』(2023年)では、15時間の取材による10万字インタビューを担当。

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