Yahoo!ニュース

私たちを真っ白なキャンバスでいさせてくれて本当にありがとうございましたーー白キャン解散ライヴレポート

宗像明将音楽評論家
真っ白なキャンバス(株式会社PLAYYTE提供)

真っ白なキャンバス(通称:白キャン)のメンバー7人は、涙は見せても葛藤を見せることはなく笑顔でステージを下り、そして解散した。会場に終演のアナウンスが流れ、客電が点いても、アンコールを求めるファンの声がやむことはない。2024年11月4日、真っ白なキャンバスの解散ライヴ「真っ白なキャンバス ラストライブ『明日も変わらない1日を』」でのことだった。結成から7年。解散の場所は、かねてから白キャンが目標に掲げてきた幕張メッセ幕張イベントホールだった。

解散発表は2024年5月22日のYouTube生配信。そこから半年など一瞬だ。最後の夏フェス、最後の東名阪ツアーなどを経て、解散の日の幕張メッセ幕張イベントホールの上には青空が広がっていた。

開演直前の真っ白なキャンバスとプロデューサーの青木勇斗(株式会社PLAYYTE提供)
開演直前の真っ白なキャンバスとプロデューサーの青木勇斗(株式会社PLAYYTE提供)

開演時間になると、会場が暗転。白キャンの代表曲群のサビが流れ、その波形がステージのスクリーンに映しだされた。この7年間を振り返るように。そして、メンバーひとりひとりの表情が映しだされ、これまでの足どりを振り返るナレーションが会場に響く。そして、「わたしたち、真っ白なキャンバスです」とメンバーの声が揃った瞬間、ライヴで7年間流れてきたSEが始まった。スクリーンには「明日も変わらない1日を」という文字だけ浮かび、そこに7人のシルエットが浮かびあがる。ステージに真っ白な新衣装の白キャンが立ち、「アイデンティティ」が始まった。三浦菜々子は、この楽曲の「僕がやりたいことはなに?」という歌詞を聴いて、白キャンへ加入したという。その歌詞をこの日、三浦菜々子が歌っていた。

三浦菜々子(株式会社PLAYYTE提供)
三浦菜々子(株式会社PLAYYTE提供)

「闘う門には幸来たる」では、ステージ前に白いスモークが噴きあがる。西野千明がイントロで「幕張まわせ!」と煽ったのは、手を回転させる振付がある「白祭」だ。「Heroism」の間奏では、麦田ひかるがダイナミックなソロダンスを見せる。「Heroism」の終盤では、メンバーひとりひとりが自己紹介とファンへのメッセージを語った。

西野千明(株式会社PLAYYTE提供)
西野千明(株式会社PLAYYTE提供)

メンバーが一旦ステージを去った後に、スクリーンに映されたのは、真っ白な空間の真っ白な椅子に、真っ白な服を着たメンバーが座っていく映像。それはメンバーの加入順を表しており、現在の白キャンのメンバー構成ができあがっていく過程を描いていた。

そして、メンバーが再びステージに登場するのかと思いきや、鈴木えまの「今からトロッコに乗ってみんなのところ行っちゃうよ!」という声が響くと、メンバーはトロッコに乗って登場。アリーナを走り、落ちサビでは7人のトロッコが集合する趣向だった。

小野寺梓(株式会社PLAYYTE提供)
小野寺梓(株式会社PLAYYTE提供)

続いて、ステージから左右2本の花道でつながれたフロア中央のセンターステージには、まず麦田ひかるがひとりで現れてダンスを披露。そのまま「Whatever happens, happens.」へと流れ込んだ。ダンスパートで流れたトラックは、2022年7月9日に河口湖ステラシアターで開催された「真っ白なキャンバス フリーライブ2022夏」と同一だったが、異なったのは、2022年は麦田ひかるがひとりで踊ったものの、解散ライヴはメンバーが徐々に参加して最後は7人で踊る演出だったことだ。

ピアノがサルサを刻む「レイ」に続いて披露されたのは、「モノクローム」だった。「生きててごめんね」と歌われるこの楽曲は深い葛藤を描き、白キャンが白キャンである所以であると言ってもいい楽曲だ。ライヴで歌われる回数が多かった楽曲ではないが、解散ライヴで歌われたのは必然であろう。

橋本美桜(株式会社PLAYYTE提供)
橋本美桜(株式会社PLAYYTE提供)

そこに続いたのは「世界犯」。2022年11月18日にTOKYO DOME CITY HALLで開催された「真っ白なキャンバス 5周年ワンマンライブ 『希望、挫折、驚嘆、絶望、感謝 それが、私。』」で初披露された楽曲だ。「楽しくて幸せで / 笑い声絶えない日々 / 噛み締めて生きている / 当たり前じゃないこと」という歌詞を、解散ライヴで聴く日を当時は想像していなかった。最後の「そんなのどうでもいい」という小野寺梓の絶唱の後、彼女の荒い息遣いが会場に響いた。

再びステージからメンバーが去る。流れた映像は、思い出の写真が貼られているキャンバスと、それを支えるスタンドをメンバーが破壊していく映像を逆再生したものだった。絶望から希望へと反転させるかのように。そして、メンバーはカゴにボールを入れて登場。2階や花道を歩きながら、ファンにボールを投げた。さらにバズーカでも勢いよくボールをファンに投げつける。そこから「ダンスインザライン」、さらに「オーバーセンシティブ」へ。「オーバーセンシティブ」のイントロでの表情とダンスは浜辺ゆりなの見せ場だ。「今日も見上げては触れる劣等感」というフレーズでは、三浦菜々子の渾身の絶唱が響く。

鈴木えま(株式会社PLAYYTE提供)
鈴木えま(株式会社PLAYYTE提供)

ダンサー5人を迎えて披露されたのは「わたしとばけもの」。2021年11月20日にかつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホールで開催された「4周年ワンマンライブ『わたしとばけもの』」で初披露された楽曲だ。コロナ禍において、「目に見えない感染症 次はわたしの番かな」と歌う新曲を発表したのも白キャンらしかった。

みたびメンバーがステージを去った後、過去の活動の映像が流れ、その最後に7人それぞれの笑顔の映像ととも「いつか」という声が響き、最後に7人の声が「同じ夢見よう」という言葉で重なった。これは「PART-TIME-DREAMER」の歌詞である。それが終わると、白キャンが2着目の新衣装で登場。これも真っ白な衣装だ。そして、新曲「今日がとけたら」を披露した。この日が初披露にして最後である。プロデューサーの青木勇斗が自ら作詞を手がけ、その歌詞には「終わりがあるから美しいなんて綺麗事ばかりで」というフレーズが出てくる。まるで痛みをこらえる生傷のようだ。しかし、「また会おうね」と最後に淡い救いを残すのも、7年の活動を経てこその境地なのだろう。演出振付家のゲッツによる振付は、過去の白キャンの振付を細かく配した構成だった。

麦田ひかる(株式会社PLAYYTE提供)
麦田ひかる(株式会社PLAYYTE提供)

「空色パズルピース」では、7人が一列に並びながら美しいフォーメーションを展開していくが、それを見るのも最後。「キャンディタフト」ではメンバーが花道へ歩んでいった。間奏で小野寺梓は「私たちを真っ白なキャンバスでいさせてくれて、私たちに居場所をくれてありがとう」とファンに感謝した。

そして、白キャンの代表曲「SHOUT」のイントロが鳴った瞬間、フロアの温度が一気に上がるのがわかった。この日に用意された強固な鉄柵は、「SHOUT」での騒乱への対策だと言っていい。小野寺梓が「みなさんの本気を見せてください!」と叫んだとき、鉄柵がガシャガシャと軋む音がした。ステージ上では火が噴き上がる。ここまで涙をこらえていた小野寺梓が遂に涙声になった。橋本美桜は、自身が歌うパートでイヤモニを外して会場のファンのコールを聴く。三浦菜々子が「全部叫んで諦めたの…」と歌いあげたとき、マイクのグリップはほぼ真上を向いていた。

浜辺ゆりな(株式会社PLAYYTE提供)
浜辺ゆりな(株式会社PLAYYTE提供)

ここでようやく、この日初めてのMC。そしてファンとともに記念撮影を行った。その後の「Heroine hour」は、2023年12月2日に日比谷野外大音楽堂で開催された「真っ白なキャンバス 6周年ワンマンライブ 『一輪咲いても僕は僕』」で初披露された楽曲だ。解散ライヴは、節目で作られてきた楽曲群が披露されていくライヴでもあった。「共に描く」では、再びトロッコでアリーナを走り、「ほらもう 1 人じゃないんだよ」という歌詞の部分で7人のトロッコが横一列になる演出だった。

そこからトロッコがセンターステージに集まり、メンバーがセンターステージから花道、ステージへと移動しながら「いま踏み出せ夏」を歌った。終盤では、メンバーもファンも肩を組んで歌う楽曲であり、解散ライヴでは幕張メッセ幕張イベントホールでその光景が展開された。そして、本編最後に歌われたのが「桜色カメラロール」。2020年のメジャー・デビュー・シングルにして、出会いと別れを歌う楽曲だ。解散ライヴでは、そんな「桜色カメラロール」が胸にしみこむように響く。かすかな痛みを感じる。ステージ上から花吹雪が舞い散った。

真っ白なキャンバス(株式会社PLAYYTE提供)
真っ白なキャンバス(株式会社PLAYYTE提供)

白キャンが感謝の言葉を述べてステージを去ると、アンコールが湧き起きた。それを受けて「全身全霊」のイントロが鳴りだすと、Tシャツに着替えたメンバーがセンターステージから登場した。続く「自由帳」は、白キャンの重要な節目に歌われてきた楽曲だ。それゆえに、解散ライヴが終わりに近づいていることを予感させる。

そして、メンバーがひとりずつ手紙を読みあげるコーナーへ。ところが、最初に浜辺ゆりなが手紙を読もうとしたときに異変が起きた。手違いで手紙が白紙だったのだ。西野千明が「ここに来て真っ白なキャンバスじゃん!」とファンを笑わせる。そんな西野千明も手紙を読みながら嗚咽する場面があり、その手から落ちた手紙を橋本美桜が拾った。ステージ上でほぼ泣くことがない麦田ひかるが涙を浮かべ、しかし笑顔で語りきる。小野寺梓は、白キャンになってからの変化について「家族ともうまくいくようになって」という箇所で涙ぐんだ。

真っ白なキャンバス(株式会社PLAYYTE提供)
真っ白なキャンバス(株式会社PLAYYTE提供)

アンコール最後の楽曲は「PART-TIME-DREAMER」。「この世界で勝ちたい ひとりでは無理だな 誰かと手を取り合う勇気があればな」と歌うこの楽曲は、白キャンの精神性そのものだった。7人が涙を浮かべつつも歌い、銀テープが噴射される。アウトロで小野寺梓が言う。「最初、私たちはなんにもなかったけど、今こうしてすごい素敵な景色を見ています。私たちを真っ白なキャンバスでいさせてくれて、私たちと出会ってくれて、本当にありがとうございました、みんな大好きです」。そして7人が挨拶をすると、スクリーンに真っ白なキャンバスが広がるなか、メンバーはステージ中央の階段を下りて去っていった。

真っ白なキャンバス(株式会社PLAYYTE提供)
真っ白なキャンバス(株式会社PLAYYTE提供)

ステージ上のスクリーンに「また会おうね。」という文字だけが映しだされる。会場に終演アナウンスが流れ、客電が点く。しかし、激しいアンコールが起き、やむことがない。この日は当初からセットリストにダブルアンコールの予定はなかった。潔い終わり方であり、ファンはそんな白キャンとの別れを最後まで惜しんだ。

私は2018年6月に取材の場で白キャンと出会った。よくライヴを見るようになったのは2019年3月以降である。白キャンを足しげく見るほど魅了された理由は、メンバーたちから滲みだす揺らぎのようなものだった。内向的、という一言では言い表せない。簡単に心を開いてくれるような人種ではないのだ。それは普通のアイドルからは感じられない類のものだった。一方で、ライヴの現場には異様なまでのファンの熱気が渦巻く。

そうした白キャンの個々のメンバーはもちろんのこと、メンバー同士の関係性、メンバーとプロデューサーの青木勇斗との関係性、そして楽曲群、振付、衣装、アートワークなどの総体は、日本のアイドル史のなかでも白キャンを極めて特異な存在にしていた。だからこそ、コロナ禍を経て5年以上の歳月を私は白キャンを見て過ごした。

白キャンから過剰なほどに溢れる複雑な人間味、あるいはステージ、あるいはフロアに私は刺激を受け続けてきた。しかし、若者たちの未来は誰にも縛れない。「だから さよなら 笑顔で言うよ」とは、「桜色カメラロール」の歌詞である。白キャンに出会ってから、ずっと楽しかった。それだけを最後に書き残したい。

開演前の真っ白なキャンバス(株式会社PLAYYTE提供)
開演前の真っ白なキャンバス(株式会社PLAYYTE提供)

セットリスト

01 アイデンティティ

02 闘う門には幸来たる

03 白祭

04 Heroism

05 HAPPY HAPPY TOMORROW

06 Whatever happens, happens.

07 レイ

08 モノクローム

09 世界犯

10 ポイポイパッ

11 ダンスインザライン

12 オーバーセンシティブ

13 わたしとばけもの

14 今日がとけたら

15 空色パズルピース

16 キャンディタフト

17 SHOUT

18 Heroine hour

19 共に描く

20 いま踏み出せ夏

21 桜色カメラロール

EN1 全身全霊

EN2 自由帳

EN3 PART-TIME-DREAMER

音楽評論家

1972年、神奈川県生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。著書に『大森靖子ライブクロニクル』(2024年)、『72年間のTOKYO、鈴木慶一の記憶』(2023年)、『渡辺淳之介 アイドルをクリエイトする』(2016年)。稲葉浩志氏の著書『シアン』(2023年)では、15時間の取材による10万字インタビューを担当。

宗像明将の最近の記事