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nuance(ヌュアンス)インタビュー――今までの活動を足し算した答えをO-EASTで出したい

宗像明将音楽評論家
nuance(ヌュアンス)(提供:ミニマリングスタジオ)

横浜のアイドル・グループのnuance(ヌュアンス)が、ツアー「osu」の最終公演を2020年3月10日に渋谷TSUTAYA O-EASTで開催する。2017年4月の結成から約3年、彼女たちは1000人の集客を宣言している。サウンド・プロデューサーの佐藤嘉風がAI美空ひばりに作曲した「あれから」が2019年末の「第70回NHK紅白歌合戦」でも歌われるなど、突然のAI追い風にも吹かれるnuance。2019年12月にリリースされたアルバム「botan」も、楽曲によっては「横浜のトーキング・ヘッズ」と呼びたくなる振りきれ方だ。メンバーはどうTSUTAYA O-EAST公演に向きあっているのだろうか。なお取材は、「osu」ツアーのタイ・バンコク公演(!)のためにメンバーが出国する前日に行った。

なんでAI美空ひばりに曲を書いている人が、私たちに曲を書いてるんだろう

――nuanceの最近の一番のトピックって、サウンド・プロデューサーの佐藤嘉風さんが、AI美空ひばりに曲を書いたことだと思うんです。「紅白」を見てどう思いましたか? 

misaki  でも、逆ですね。AI美空ひばりさんに曲を書いたり、乃木坂46さんに曲を書いたり(佐藤嘉風は乃木坂46の『渋谷ブルース』を作曲している)、桑田(佳祐)さんとやったりしてる人が、なんで私たちに曲を書いてるんだろうって。nuanceをやってると、嘉風さんのことに限らず、すごすぎることが多すぎるんで感覚が麻痺してきました。

――楽曲提供の順番で言うと、乃木坂46、nuance、AI美空ひばりですから、AI美空ひばりは後輩ですね。

珠理  後輩か。すごいなと思いました。

――一言で終わりましたね。

珠理  AI美空ひばりさんからのnuanceじゃなくて、今のところnuanceのほうが先だから「すごいな」で終われちゃうのかもしれない。難しい。

みお  舐めてたとかじゃなくて、嘉風さんがそんなすごい人だとは思わなかったです。

わか  もうすごいとしか言いようがないんですよね。私のお母さんも「すごい、なんで?」って言ってました。すごい不思議だったらしくて。

nuanceらしく牛歩で前に進んでる

――2018年12月にシングル「タイムマジックロンリー」のアナログ盤が出て、2019年はそのサブスク解禁から始まり、4月25日には最初のTSUTAYA O-EAST公演があって、12月にアルバム「botan」が出ました。8月には「@JAM EXPO」のようなフェスにも出演して、2019年は大躍進の年だったと思います。

みお  どうなんだろう? そんな目に見える変化はしてないかも。

わか  最初の頃から、レコーディングをして、アルバムを作って、ちょっと大きいワンマンライヴとかして、レコーディングをして、アルバムを出して……みたいに、ずっと同じことを繰り返してきたから、そこは変わってないです。個人的には「@JAM」に出れたのはすごい嬉しかったです。「アイドルなのかな?」って思った。

misaki  はたから見たら大躍進ですよね。でも、自分たち的には、相変わらずnuanceらしく牛歩で前に進んでるのかな、みたいな。「ドカン!」って行っても気づかない4人なのかもしれないけど。

珠理  覚えてないんですよね、あんまり。何がありました?

――珠理さんは、短大を卒業してnuanceに専念したわけじゃないですか。

珠理  そうだ、早起きしなくなったから「超最高!」と思いながら。今考えると、nuanceより学校のほうが嫌だったから、学校がなくなったら「楽しい!」ってなって。日向坂46さんも出た「@JAM」に出れて嬉しかったけど、それに出たから何か変わったかって言われると、あんまりわかんないなって感じです。

misaki(提供:ミニマリングスタジオ)
misaki(提供:ミニマリングスタジオ)

上の人たちは勝負に出てるんだな

――「botan」について聞かせてください。「I know power」のような、「愛のパワー」って歌う力強い楽曲を渡されるようになったのはなぜだと思いましたか? わかさんが好きなWILL-O'ばりに力強い曲じゃないですか。

わか  それとこれとは違う(笑)。

――おっしゃる通りです。

わか  「また変な曲を」と思いました。聴く前に、フジサキさん(フジサキケンタロウ/nuanceプロデューサー)に「『I know power』は『タイムマジックロンリー』みたいな曲」って聞いたから、心づもりはできてたんですよ。でも、実際聴いてら、『タイムマジックロンリー』とも違う感じで意味がわからない曲だったから、「嘉風さんはこんなこともできるんだ」って思って、すごいなって思いました。

みお  上の人たちは勝負に出てるんだなって思いました。グループが進んでく幅をすごい広げてるんだろうなって思いました。

珠理  意外と言ってることがまともだから、何も思わなかったかな。わかんない。楽しい曲か、悲しい曲かしかわかんないから。

misaki  一聴して、「あ、この曲で勝てるかもしれない」って思って。その曲が実質的な1曲目になってて、「このアルバムで勝てるかもしれない」って思いましたね。「botan」の波が来るんだろうなって思って、売れるためにはその波に乗らなきゃなって思って。これから乗ると思います。

珠理(提供:ミニマリングスタジオ)
珠理(提供:ミニマリングスタジオ)

デモを世に出せばいいのに

――(周囲を見て)フジサキさん……あ、いない。「I know power」は、クインシー・ジョーンズの「愛のコリーダ」を踏襲しているんですよね、って言おうとしたらいなかった。気を取り直して、ラップ・ナンバーの「ハーバームーン」になると、「ロイド眼鏡かけた少女 上目遣いで僕をみてる」と歌っていて、つまり主人公は男性です。描く世界がだいぶ変わってきたなと思ったんですよ。

misaki  まだ私、若いので、ピチピチなので、そんなに俯瞰で見れないんで。「ハーバームーン」が来たら「これはめちゃめちゃ良い曲だな」っていうとこまでしか及ばなかったんです。「まじ、やべえ曲が来た」とは思いました。「こんなにデモを聴くのが楽しい曲があるんだ」と思ったし。「やっぱり嘉風さん、デモを世に出せばいいのに」って思いました。

珠理  気づかなかったですね。違いますね、大人で。すごいかっこいい曲だなと思って。

みお  逆に、男の人をイメージして書いてるとは思ってなくて。「僕をみてる」だから、男の人の視点なんだろうけど、歌詞を見たときは、自分は「ロイド眼鏡かけた少女」のほうを強く書いてるんじゃないかなって思いました。

わか  こりゃまたすごい曲だなと思って。今までにない曲だから、歌割りがどういう感じになるんだろうと思って。嘉風さんのデモがすごいいいから、できるだけその感じを取りこめるように練習はいっぱいしました。

「何でもかんでも感情的に散らかして」という歌詞に「あ、私やん」

――最後の「きっといつか」は、内向的な歌詞じゃないですか。「何でもかんでも感情的に散らかして 周りの人を困らせて 結局いつでも悩みは変わらず最終的に 自分のことを責めてしまう」って。佐藤嘉風さんが、なぜああいう歌詞をnuanceに歌わせたと思いますか?

misaki  その部分を見て、「あ、私やん」と思って。これは等身大で歌えそうだなって思いました。

――メンバーの誰を見て、佐藤嘉風さんはあの歌詞を書いたんでしょうね?

misaki  nuanceという偶像をひとり作りあげてるのかもしれないですよ。私は私だと思いました。

珠理  言われてみれば、たしかにAメロがけっこうネガティヴ、暗い。私、ずっとこの曲は明るいと思ってた。

みお  自分は第三者だと思いました。第三者の人がそれを歌うことによって、それより遠い人が、「自分のことだな」とか、逆に「こういう人、いるな」とか思う人がいて、その人たちがマイナスの気持ちになったときに聴きたくなるような歌かなって思いました。

わか  ファンの人に「年を重ねた『シャララ シャララ』(2017年の『gachi choco!』収録曲)みたいだね」って言われて。「シャララ」が無邪気な中学生とかだとしたら、「きっといつか」は強くなった大人みたいなイメージですね。

わか(提供:ミニマリングスタジオ)
わか(提供:ミニマリングスタジオ)

「人に好かれればそれでいい」って思っていた

――nuanceは2017年4月結成です。3年を振り返ってみていかがですか?

misaki  スマホの中にある、3年前の日記的なやつを見たんです。今も幼稚なんですけど、さらに輪を掛けて幼稚だったんですよ、「ああ、恥ずかしい、恥ずかしい」って思いながら見てて。nuanceっていう社会に「バン!」って入れてもらって、それなりに成長させてもらったなっていう気はします。

――何が成長したと思いますか?

misaki  3年前は、「人に好かれればそれでいい」って思ってたんですよ。自分の中身が何でも、他人が好いてくれたら、結果として正解って思ってたんです。でも、今はそう思ってないんです。「周りに好かれればそれでいい」って、自分には何にもないじゃないですか。一生懸命やることによって、ちょっとずつ何かができてきたからこそ、3年前のことを幼稚だと思うのかな。

珠理  昔、ライヴで笑うの嫌いで。でも、今はそれがなくなって。楽しい曲は楽しくできるようになったし、シリアスな「ハーバームーン」はちょっとかっこよくやってみようかなみたいに。前は間違えないようにするしかできなかったのが、今は歌も歌うし、ダンスもまあ頑張るし、表情もできるようになってきたのは、余裕が出たのかもしれない。私生活もそうだし、全部に心のゆとりができました。

――みおさんは、高校時代をほぼnuanceに費やしたと言っても過言ではないですね。

みお  良くも悪くも視野が広がりました。良い捉え方をすれば、ライヴ中にお客さんの表情をたくさん見たり、メンバーを感じたりできるようになったんです。でも、周りが見えてないで、がむしゃらに頑張ってたときの熱量が欠けちゃったんじゃないかなって思ってます。昔は周りが見えなすぎてて、気持ち的にひとりでライヴをやってたんですよ。だから、ライヴが終わった後は、出しきったと思ってたんです。周りが良い意味で見えるようになったときに、今までのものが欠けちゃった、みたいな感覚があります。

――わかさんはどうでしょう?

わか  今学校との両立もしてて、精神的にも体力的にも強くなったなとは思いますね。

――わかさんは、若い子が好きなアイドルが好きじゃないですか。ああいうことをやってみたいなと思うことはありますか?

わか  nuanceとは違うなっていうのはすごい自分でも感じてて。でも、私が好きな推しメンのパフォーマンスをそのままnuanceでやっても、別にいいとは思わないんですよ。でも、私がその子を好きになるみたいに、私もそういう人になれたらなっていう意味では思いますね。

みお(提供:ミニマリングスタジオ)
みお(提供:ミニマリングスタジオ)

興味本位で足を運んでくれた人もいたけど2回目は通用しない

――2020年3月10日には、TSUTAYA O-EASTでツアー・ファイナル公演があります。2019年4月25日にもワンマンライヴをしたTSUTAYA O-EASTでリベンジしたい気持ちはあるでしょうか? 

misaki  前回のEASTはEASTでもう個人的にはやりきったし、あれはあれで自分の中で一番大成功のライヴだったので、会場こそ一緒だけど、全然別物だし、また次は一からやるんだろうなっていう気持ちですね。でも、やっぱり1年経ってるから、目に見える数字で成長はしたいから、前回よりプラス何百人っていうふうにしないとな、とは思ってます。

珠理  リベンジはないかもしれない。あのときは本当にできることをやりきったって思ったし。次の目標は、力まないで頑張る。楽しく終わりたい。伸び伸びやりたい。メンバーも、お客さんも、スタッフさんも楽しく。みんなが楽しかったら、誰も損はしないから。

わか  去年のEASTは本当に一生懸命になりすぎて、ライブ中のことを、もうほぼほぼ覚えてないんですよ、今回は一瞬一瞬を楽しむし、一生懸命やるけど「自分はEASTに立ってるよ」っていうのを感じながらライヴをしたいと思います。

みお   1回目は、私たちがEASTでやるっていう無謀なことに対して、興味本位で足を運んでくれた人も少なからずいたと思うんですけど、それって2回目は通用しないじゃないですか。1回目と比べることは、自分的にはしてなくて。今までの小さいハコでやったライヴとか、1回目のEASTとか、いろいろ足し算した答えが2回目のO-EASTだと思っていて。だから、ゴールじゃないけど、ひとつの区切りみたいなものをライヴで見せなきゃいけないのかなって思います。

nuance(ヌュアンス)(提供:ミニマリングスタジオ)
nuance(ヌュアンス)(提供:ミニマリングスタジオ)

nuance oneman tour ”osu” tour final 東京公演

2020年3月10日(火)

START:19:00~ (OPEN 18:30~)

TSUTAYA O-EAST

https://eplus.jp/sf/detail/3180970001-P0030001P021001

音楽評論家

1972年、神奈川県生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。著書に『大森靖子ライブクロニクル』(2024年)、『72年間のTOKYO、鈴木慶一の記憶』(2023年)、『渡辺淳之介 アイドルをクリエイトする』(2016年)。稲葉浩志氏の著書『シアン』(2023年)では、15時間の取材による10万字インタビューを担当。

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