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これからは私が一番近くで応援しています――nuance、みお脱退ライヴレポート

宗像明将音楽評論家
nuance(撮影:risa kubota)

すべてが儚い夢のようだった。踊るメンバーの衣装のすそが花弁のように開き、ステージの照明がその軌跡を淡く彩る。その光景がただ美しかった。

2021年12月15日、渋谷Spotify O-WESTでnuance(ヌュアンス)のワンマンライヴ「『tohit ed』tour final」が開催された。開演と同時に、「home」と題されたSEの汽笛が会場に響く。この日の汽笛は、別れの汽笛であった。メンバーのみおの脱退ライヴだったためだ。

nuance。左からわか、みお、misaki、珠理(撮影:risa kubota)
nuance。左からわか、みお、misaki、珠理(撮影:risa kubota)

nuanceは、2017年に結成された横浜のアイドル・グループ。この4年半、misaki、珠理、わか、みおの4人で活動してきた。しかも、メンバー、プロデューサーのフジサキケンタロウ、サウンド・プロデューサーの佐藤嘉風の全員が横浜在住だ。商店街ツアーを開催するなど、地元に密着した活動をする一方、2018年には「SUMMER SONIC 2018」に出演、いきなりJUNGLE STAGEのトリを飾って人々の度肝を抜いた。2020年と2021年にはKT Zepp Yokohamaでワンマンライヴを開催している。

nuance(撮影:risa kubota)
nuance(撮影:risa kubota)

ただ、2021年6月26日にKT Zepp Yokohamaに開催されたワンマンライヴで、misakiが、これからもnuanceのメンバーとして頑張っていこうと他のメンバーに呼びかけた際、ひとりだけ曖昧な表情でやりすごしたメンバーがいた。みおだった。

2021年10月に開催された「TOKYO IDOL FESTIVAL2021」にnuanceは初出演。いつものようにはしゃぐ4人の姿に、私は別れの予感を忘れようとした。が、2021年11月2日、みおの脱退が発表された。東名阪でのツアー「tohit ed」が2021年12月10日から開催され、2021年12月15日の渋谷Spotify O-WESTはその最終公演だった。15歳で加入し、20歳になるまでの4年半をnuanceとして過ごしたみおの、nuanceとしての最後のステージだ。チケットはソールドアウト。冷静に考えればKT Zepp Yokohamaでやっていい興行だが、別れはいつだって急なものだ。

みお(左)と珠理(右)(撮影:risa kubota)
みお(左)と珠理(右)(撮影:risa kubota)

「last a way」でライヴは始まった。商店街イベントのために制作されたnuance始動の1曲である「love chocolate?」、恋情が渦巻く「ai-oi」も、みおがいるnuanceとしては最後。「初恋ペダル」では、メンバーがお互いに「こぐよ!」とダル絡みのように呼びかけあって始まった。

nuance(撮影:risa kubota)
nuance(撮影:risa kubota)

そして、失われた恋を歌う「8月のネイビー」は、みお脱退ライヴに驚くほど共鳴していた。そこから続く「雨粒」「sanzan」といった楽曲も、横浜のメランコリーに満ちている。

MCでは、みおが手紙に書いてきたメッセージを読みあげた。

4年半nuanceをやってきて、もう今じゃ思い出せなくなっちゃったことも含めて、本当にたくさんのことを経験してきて、たくさんの時間を過ごしてきたなかで、やっぱり伝えたいことはひとつしかなくて、私がここで伝えたいことは感謝です。nuanceを4年半やってもうびっくりするぐらい、たくさんライヴをしてきたこととか、みんなが会いに来てくれたこととか、この4人でnuanceをやってこれたこととか、nuanceっていうグループが一回も歩みを止めないで続けてこれたこととか、言い出したらきりがないけど、これは全部私の日常であって、全部当たり前のことで。でも、それってよくよく考えたら、すごい小さなひとつの出来事もそうだし、こうやってずっと流れてる時間の中で、すごいたくさんの奇跡が重なってできたことで、全部そのひとつひとつはありがとうでできていて。私がそれを日常だと思える、当たり前だと思えることもありがとうで。私の日常とか当たり前は、全部感謝でできてたんだなって改めて思いました。そんな私の日常を作ってくれてありがとうございます。私は明日からnuanceのみおではなくなって新しい道に挑戦するけど、何かに挑戦するってことはすごい難しいことに見えるんですけど、それよりも何かをずっと続けることって、もっともっと難しくて。だから3人が今までもこれからもnuanceでいてくれることを本当に尊敬しているし、これからは私が一番近くで応援してます。ありがとう。nuanceに出会ってくれて、本当にありがとうございました

みお、いつの間にそんなに大人になっていたのだ――私は心の中でそうつぶやいた。ところが、またライヴに戻ろうとすると、「喉カラカラ!」と全員で水を飲みはじめるところがnuanceなのだ。

nuance(撮影:risa kubota)
nuance(撮影:risa kubota)

「sekisyo」という楽曲は関所、つまり横浜の関内を舞台としており、「馬車道」「汽笛が鳴り響く街」といった歌詞が歌われる。misakiが歌いながら他の3人を背後から抱きしめると、4人の笑顔でぱっとステージが明るくなるかのようだった。

nuance(撮影:risa kubota)
nuance(撮影:risa kubota)

アンコールの「シャララシャララ」では、みおの歌う落ちサビで、ファン有志により黄色いサイリウムが一斉に点灯された。

「シャララシャララ」が終わるとすぐにメンバーはステージを去り、「dreams」というSEが流れた。みおがひとりでステージに戻り、ファンに向かって深く深く頭を下げた。会場が拍手で包まれる。

みお(撮影:risa kubota)
みお(撮影:risa kubota)

そして、スポットライトが椅子を照らした。nuanceは椅子を使った演出が特徴だが、みおの椅子が照らされ、それを彼女が手に持ち、ステージを去っていった。それまでメンバーが去っていったステージ下手ではなく、ステージ上手へと。別の道へと。

ダブルアンコールはmisaki、珠理、わかの3人で行われた。ステージに戻った3人は新衣装。1曲目に披露された「last a way」が最後に再び披露された。nuanceを続けるという確固たる意志とともに。

考えてみれば、あまり私はみおと話したことがない。インタビューやトークイベントなど、仕事の場はかなりあったのに。今は、みおの恥ずかしげな笑顔、インターネット上の一人称が「僕」であったこと、Instagramのフィルム写真などばかりを思いだす。

みおは新たな道を行き、misaki、珠理、わかはnuanceとして歩を進める。またいつか道が交わることもあるだろう。

nuance(撮影:risa kubota)
nuance(撮影:risa kubota)

そんな物わかりのいいことを書きながら、今はまだ、ほのかに、しかしたしかに狂おしい感覚にまだ囚われているのだ。

<セットリスト>

SE home

M1 last a way

M2セツナシンドローム

M3 cosmo

M4 love chocolate?

M5 ルカルカ

M6 ai-oi

M7 テキーラサンライズ

M8 KaMoMe

M9 サーカスの来ない街

(MC)

M10 初恋ペダル

M11 ヒューマナイズド・ヒューマノイド

M12 ハルシオン

M13 ミライサーカス

M14 8月のネイビー

M15 雨粒

M16 sanzan

(MC)

M17 sekisyo

M18 タイムマジックロンリー

M19 ピオニー

M20 wish

M21 白昼ブランコ

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EN シャララシャララ

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epilogue SE dreams

epilogue last a way

nuance(撮影:risa kubota)
nuance(撮影:risa kubota)

音楽評論家

1972年生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。著書に『72年間のTOKYO、鈴木慶一の記憶』(2023年)、『渡辺淳之介 アイドルをクリエイトする』(2016年)。稲葉浩志さんの初の著書『シアン』(2023年)では、15時間の取材による10万字インタビューを担当。

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