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渋谷系の共通言語が若い世代にも伝わっているとしたらやってきて良かったわ――野宮真貴×アマイワナ対談

宗像明将音楽評論家
野宮真貴(左)とアマイワナ(右)(筆者撮影)

2024年10月2日、シンガーソングライターのアマイワナが、EP『新渋谷』『新電波』を2枚同時にリリースした。『新渋谷』は渋谷系から、『新電波』はニュー・ウェイヴからインスパイアされた作品だ。そして、『新渋谷』に収録されている「COVER GIRLS」には、アマイワナが敬愛する元ピチカート・ファイヴの野宮真貴が参加。ふたりによるMVも公開されている。今回は、野宮真貴とアマイワナを迎えて、「COVER GIRLS」でコラボレーションをした経緯、文化としての渋谷系、そして新旧のアメリカ・ツアー事情などを語り合ってもらった。

音楽だけじゃなくてカルチャー全部が渋谷系

――「COVER GIRLS」のMVで一緒に踊ってみていかがでしたか?

アマイワナ 私にとってはもう夢のようって感じです。渋谷系が大好きで、もちろんピチカート・ファイヴも大好きで、本当に野宮さんは憧れの方なんです。何曲か作って、野宮さんにも聴いていただいて、この曲に決まったんですけど、この曲を作っていた段階から、「一緒に踊ったりできたらいいな」とイメージしてたんです。

野宮真貴 まず「曲を一緒に」というお話をいただいて、とても嬉しかったです。他の候補の曲も全部良かったけど、「COVER GIRLS」はチャールストンのダンスが浮かんできて、ライヴで盛り上がるだろうなと思って。歌詞も一緒に共作したいということで、パートごとに作るというのは初めてで楽しかったです。「どっちから先に書きますか?」と聞かれたので、すでにイメージがあるであろうワナちゃんから先に書いてもらいました。なので、基本的には自分が歌詞を書いたところを本人が歌ってるんです。同世代のガールズトークみたいなストーリーだったので、実年齢は親子ほど離れているけれど、私も同世代になったつもりで自分のパートを書きました(笑)。それでMVも撮ることになって、ちょっと「ベイビィ・ポータブル・ロック」の振り付けも忍ばせたので、わかる人にはわかる仕掛けになっています。

――歌詞には「ツイッギー」という言葉も出てきますね。

野宮真貴 そこのパートは私が作ったんですけど、私のデビュー・アルバム(『ピンクの心』1981年)に「ツイッギー・ツイッギー」という曲がありまして、後にピチカート・ファイヴがカヴァーして海外で有名な一曲になるんですけど、ワナちゃんが書いた歌詞を受けて、スウィンギング・ロンドンの顔であるツイッギーを60年代のアイコンとして入れたかったんです。ツイッギーのミニスカートは、60年代の若い女の子たちの革命的なファッションだったので、それはグランマに聞いたという設定で。実はグランマは実年齢の私自身なんだけど、歌の中ではワナちゃんと同世代を演じてます。

――そもそもアマイワナさんは、どういう経緯で野宮さんとコラボしようと思ったんですか?

アマイワナ 渋谷系って、楽曲だけじゃなくてビジュアルやライフスタイルでもあるし、野宮さんに実際にお会いしても、すごくエレガントで、音楽だけじゃなくてカルチャー全部が渋谷系なんだなと思ったんです。野宮さんとカジヒデキさんがやられてる「渋谷のラジオ」に、カジさん経由で呼んでいただいて、ライヴも見に行ったり、見に来ていただいたりして、「何か一緒にやろうね」って言っていただいていたので、「これは冗談でも絶対やってほしいな」って(笑)。これだけ渋谷系に私は影響を受けてるから、渋谷系をコンセプトにして、自分の解釈でEPを作ってみたいなと思いつつ、ニュー・ウェイヴにもやっぱり影響受けてるから、リンクした2作を出すのが面白いかなって思いついた段階だったんです。それで渋谷系をコンセプトにしたほうに野宮さんがフィーチャリングで参加してくださったら、めっちゃいい感じになるんじゃないかなと思って、「ぜひお願いします」って(笑)。

野宮真貴 私は毎年ビルボードでライヴをしてるんですけど、去年ジンジャー・ルートのキャメロン・ルーさんと一緒に来てくれたり、私もワナちゃんのライヴに行ったり。

――アマイワナさんはライヴに野宮さんが来て緊張しませんか?

アマイワナ いやー、もちろん緊張はあります。そもそもラジオに呼んでいただいて初めて野宮さんにお会いして、ひとつ夢が叶った気持ちだったから、その気持ちを何かに残しておきたいと思って、ピチカートの「メッセージ・ソング」を自分でカヴァーしてそれを前作(『SWEET SWEET SWEET』)に入れてるんです。野宮さんが来てくださったライヴで、カジさんとコラボして「メッセージ・ソング」を歌ったのは、緊張しましたけど「夢のようだな」って感じて嬉しかったです。

――野宮さんから見て、渋谷系の音楽だけじゃなくてライフスタイルやカルチャーにも憧れているアマイワナさんはどう見えますか?

野宮真貴 嬉しいですね。渋谷系って、おしゃれでキラキラしたイメージだけど、実は裏にすごいバックボーンがあって、音楽や映画、デザインなど膨大な知識を持つコレクター気質のアーティストが多かったので、埋もれていた昔のいい曲を発掘して自分たちの音楽に再構築したり、音楽だけじゃなくてビジュアルやCDのデザインにもこだわっていたし。ワナちゃんがそういうところまでキャッチしてくれて、影響をうけたとしたら本当に嬉しいし、そこに新しい感覚が加わって表現されていくのが楽しみです。世の中には洗練されたものと、そうじゃないものが存在して、洗練されてるところが渋谷系のアーティストの音楽だったりビジュアルだったりするんだけど、それは説明しづらいんです、センスなのでね。だけど、その共通言語がちゃんと若い世代にも伝わっているとしたら、やってきて良かったっていう気持ちになります。

野宮真貴(左)とアマイワナ(右)(筆者撮影)
野宮真貴(左)とアマイワナ(右)(筆者撮影)

コラボというより一緒にバンドをやってる感じ

――実際に一緒にレコーディングやMV撮影をやることになって、いかがでしたか?

アマイワナ 野宮さんがこの声で一緒に曲を歌ってくださってることが光栄なことだなと思って、ものすごく感動して。楽曲やMVを一緒に作るなかで、野宮さんご本人とLINEでやり取りさせていただいて、野宮さん自身が自分が作るもの、自分が着る服、自分が映る映像、ビジュアルとかを全部考えていて、「やっぱりすごいな」と感動してました。

野宮真貴 ワナちゃんと私の年齢差を知ったらビビりますけど(笑)、今回ご一緒して好きなものが似てたりして、アーティストとして大切にしていることが近い気がしました。だから年齢は飛び越えて、コラボレーションというよりも一緒にバンドをやってるみたいな感じでした。私はデビュー前に、プラスチックスに影響を受けた女の子だけのニュー・ウェイヴのバンドをやっていて、テクニックはないけど、衣装やステージ演出に凝っていて、プロになるためにコンテストを受けたりしてました。ワナちゃんを見ていると、当時の自分を思い出します。若くて怖いものなしで、自信に満ちて輝く未来を見ていた。ワナちゃんは、曲も歌詞もトラックも自分で作って、フロントで歌って、衣装のスタイリングもステージの演出も映像も作っちゃうし、ジャケットのデザインまで全部セルフプロデュースしちゃうのがすごい!

アマイワナ 嬉しい。

野宮真貴 ワナちゃんが昭和のアイドル雑誌「平凡」や「明星」をすごく研究しているけど、私は小学生の頃リアルタイムで見ていて。麻丘めぐみさんが当時の私のファッション・リーダーだったけど、私が影響をうけてきたことをワナちゃんが全部なぞってるから面白いな。

アマイワナ 私、高校に入ったぐらいの頃に、麻丘めぐみさんのヘアスタイルがかわいすぎて姫カットにしたんです(笑)。

――野宮さんは、渋谷系を今も背負っているイメージがあります。

野宮真貴 あえて「渋谷系を歌う」と題してライヴをしてますからね(笑)。そのきっかけはデビュー30周年に、セルフ・カヴァー・アルバム(『30 〜Greatest Self Covers & More!!!〜』)を作って、高橋幸宏さんやコーネリアスなど、錚々たるメンバーにプロデュースしてもらって久しぶりにピチカート・ファイヴの曲を歌ったら、「やっぱりいい曲ばかり!」と改めて思って。その時点でもう渋谷系の楽曲をスタンダード・ナンバーとして捉えてもいいのかなと考えたんです。ピチカート・ファイヴはもちろん、他の渋谷系の曲も、バート・バカラック、ロジャー・ニコルス、筒美京平さんや村井邦彦さん、はっぴいえんどの曲も渋谷系のルーツとして歌い継いでいくという活動をしています。それを「渋谷系スタンダード化計画」って言ってるんです。

アマイワナ 90年代の渋谷系が、60年代や70年代のいいものを自分でピックアップして、それを再構築してどんどん反映していったのがかっこいいじゃないですか。それを野宮さんは今もずっとやられててかっこいいですし、ずっとリアルタイムでやられてるのもすごくかっこいい。すごくおこがましいですけど、私も90年代の渋谷系にインスパイアされて、新しい渋谷系を作っていけたらなっていう感じです。

野宮真貴(左)とアマイワナ(右)(筆者撮影)
野宮真貴(左)とアマイワナ(右)(筆者撮影)

アメリカ・ツアーには日本食

――『新渋谷』『新電波』にジンジャー・ルートさんが関わっているのも今っぽいですよね。

野宮真貴 ジンジャー・ルートとどうやって出会ったのかも聞いたんだけど、向こうが見つけたんだよね?

アマイワナ 私が2020年にリリースした「上海惑星」って曲があって、「面白い」って見つけてくれたんです。カセットテープもリリースしてたんですけど、そのカセットが欲しいっていう連絡がInstagramにあって、そこからやり取りするようになったんです。彼は4歳上なんですけど、同世代で趣味が合う人って全然いなかったのに、「話が合う同世代がアメリカにいたんだ」って感じで仲良くなって。コロナも明けて、どんどん対面でも会えるようになって、一緒に作品を作ったり、ライヴ・ツアーを回ったりして、今週からアメリカ・ツアーに参加するんです、

野宮真貴 その出会い方が今っぽいよね(笑)。

――野宮さんはピチカート・ファイヴでアメリカ・ツアーを経験してますよね。

野宮真貴 SNSもなかったので、行くまで現地の状況がわからなくて。でも、行く先々でソールドアウトでライヴは超盛り上がりましたね。アメリカ14都市、カナダの後、ヨーロッパはフランス、イギリス、ドイツ、スイス、イタリア、スペイン、ロシアも行きました。LA公演に大ファンのディ―ヴォのマーク・マザーズボウが来てくれたときは、「ピチカートで歌っていて良かった」としみじみ思いましたね。私はワールド・ツアーに初めて行く前に、ワールド・ツアーの先輩のプラスチックスの立花ハジメさんに「何かアドバイスありますか?」と聞いたら、「日本食を持っていけ」って(笑)。それでトランクの半分に日本食を詰めて行きました。今はもうアメリカなら日本食はどこにでもあるし、大丈夫だと思いますけどね。

アマイワナ それでも今年の夏にジンジャー・ルートのミュージック・ビデオ撮影で1週間ぐらいLAに滞在してたんですけど、やっぱり団体行動になっちゃうし、ご飯も「ここに行きたい」って言ってられなくて。用意してもらうやつも、大好きなんですけど、すごくジャンキーなものばっかりで、量が多いし油っこいし。私も前に野宮さんにアメリカ・ツアーに持っていったほうがいいものを聞いたら、「日本食」っておっしゃってたんです。1週間でも、やっぱり日本食が恋しくなりました。

野宮真貴 「海外ツアーには日本食を持っていけ」は大先輩の立花ハジメさんから私へ、そして私からワナちゃんへ伝授したということで(笑)。日本食で元気に乗り切ってアメリカ・ツアーを大成功させてください!

――今回も日本食は持ってくんですか?

アマイワナ ジンジャー・ルートがアジア系のアメリカ人で、「炊飯器が家にあるよ」って言ってくれて、しかも2台あるから1台はアマイワナチームに贈呈してもらってるんですよ。1か月弱ぐらい行くんですけど、米さえあれば(笑)。

野宮真貴 あとはフリーズドライのお味噌汁とか梅干しでもあれば大丈夫なんじゃない? 私は携帯用の醤油を常備して、朝食は目玉焼きにかけて食べてました。そうすると一気に和食になる(笑)。

楽しいと思うほうを選べばいい

――アマイワナさんがこの先も活動していくなかで、野宮さんからアドバイスはありますか?

野宮真貴 ワナちゃんは、自分の好きなものが明確だし、自分を信じていけばいいと思う。好きなものが時代によって変わったとしても、それはそれでいいし、考え過ぎずに楽しいと思うほうを選んでいけばいいと思います。

アマイワナ いやー、嬉しいですね。やっぱり楽しいことしかしたくないなと思って。私は「こだわりが強い」って言われることが多くて、でもそのわりに好きなものも変わるし、その度に全力で好きなことをやるみたいな感じでやってるので、このままで間違ってなかったなと今思います。

野宮真貴 いいと思いますよ。私も70年代はグラムロック、80年代はニュー・ウェイヴ、90年代は渋谷系と変わり身が早かったです(笑)。最近は、子供の頃に憧れた昭和歌謡のスタアや、90年代当時は交わることがなかった小室哲哉さんとのコラボが実現したり、若いアーティストとご一緒する機会も増えて楽しいです。何より今回のワナちゃんとのコラボがとても嬉しい。世代を超えて一緒に音楽をクリエイトできるのは幸せなこと。アーティスト、アマイワナのこれからが楽しみです。

アマイワナ 光栄です。

―― また野宮さんとコラボしたい気持ちもあります?

アマイワナ もちろんです。

野宮真貴 こちらこそ、よろしくね! これからも楽しいことをしましょう!

音楽評論家

1972年、神奈川県生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。著書に『大森靖子ライブクロニクル』(2024年)、『72年間のTOKYO、鈴木慶一の記憶』(2023年)、『渡辺淳之介 アイドルをクリエイトする』(2016年)。稲葉浩志氏の著書『シアン』(2023年)では、15時間の取材による10万字インタビューを担当。

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