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「トランプ氏の認知機能の低下は加速している」識者 奇妙な言動にインタビューのキャンセルも 米大統領選

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
ペンシルベニア州オークスで行われた対話集会で踊り始めたトランプ氏。(写真:ロイター/アフロ)

 11月5日の米大統領選の投票日まで、残すところあと約2週間。

 バイデン氏をオバマ氏と混同するという失言を何度も重ねたり、意味不明瞭な発言をしたりして認知能力が懸念されていたトランプ氏だが、選挙戦終盤の今、再び、トランプ氏のメンタル問題が浮上している。

トランプ氏の奇妙な行動

 10月14日、ペンシルベニア州フィラデルフィアの郊外オークスで行われた対話集会で、2人の聴衆が医師の治療を受けることになったため集会が中断された後、トランプ氏は突然行っていた質疑応答を取りやめ、音楽を流すように指示して、踊り始めるという奇妙な行動に出たのだ。ハリス氏はトランプ氏のこの行動について「大丈夫だといいなと思う」と同氏のメンタルを疑問視する発言をした。

 10月17日には、トランプ氏がニューヨーク市ブロンクスにあるノックアウト理髪店を訪れた際に不規則な足取りで歩いた動画がSNSで拡散され、「不安定な歩き方は認知症の場合に見られる」という声もあがった。

 トランプ氏は疲労のため、予定されていたいくつかのインタビューをキャンセルしたとも報じられているが、その背後には認知能力の衰えがあるのではないかと指摘する見方がある。トランプ政権下のホワイトハウスで働き、トランプ氏が司会を務めたリアリティー番組「アプレンティス」にも出演したオマロサ・マニゴールト氏はCNNでこう話している。

「トランプがインタビューをキャンセルしているのは、彼はつまずき始めると方向転換してしまうからです。彼は政策問題について話さず、その代わりに攻撃し始めるのです。なぜなら、彼は政策問題が何なのか思い出せないからです。彼は重要な問題についての自分の立ち位置を矛盾なく繰り返して言うことができないのです…そんな彼の衰えが今見えています」

的外れな回答に論理を欠く発言

 9月6日に、ニューヨーク経済クラブで、保育に関してあるジャーナリストがした質問に対し、的外れな回答をしたことも問題視された。そのジャーナリストは「11月に勝利したら、保育を手頃な価格にする法案を成立させることを約束できますか? もし約束できるなら、具体的にどんな法案を推進しますか?」とトランプ氏に質問したのだが、それに対し、トランプ氏はなぜか関税政策へと話を大きく方向転換し、「保育は高額だとよく言われるが、相対的に言えば、私たちが(関税で)受け入れることになる数字に比べれば、それほど高額ではない」と保育の問題に無頓着とも取れる回答した。このジャーナリストは、「法案を一つ挙げれば、それですんだはずだ。児童税控除を拡大させたり、昨年期限切れとなった保育所へのパンデミック時代の資金援助を復活させたりすると言うこともできたはずだ」とトランプ氏の回答を批判している。

 10月11日にデトロイト経済クラブで行ったトランプ氏の演説も、人々の頭を傾げさせるものだった。トランプ氏は、米国の製造業が他国の関税によってどのような影響を受けるかについて語っていたのだが、話はイーロン・マスク氏のロケットやバイデン氏が持っているという円形へと、どんどん逸れて行ったのだ。

「多くの国がそうしているが、突然ミルウォーキーから、あるいはどこにいようとも去っていると聞いている。それを見るのはとても悲しい。とても単純なことだ。それはイーロンのロケットが着陸しようとしていた月面の12インチ以内に着陸するのとは違う。エンジンを取り戻せるわけでもない。エンジンを見たのは3、4年前だ。シリンダーだけで、翼も何もなく、非常にゆっくりと降りてきて、どこかの海の真ん中に円形のいかだに乗って着地する。ドカン。バイデンが以前持っていた円形を思い出した。彼は8つの円形を持っていたが、それを埋めることはできなかった。しかし、その後、彼は一般投票で私たちに勝ったと聞いた。わからない、わからない。彼は8つの円形を埋めることはできなかった。私はいつもあの円形が大好きだった。とても美しかった。見ていてとても美しかった。でも彼らは人を集められなかったから、その円の中に報道陣を立たせていたんだ。人を集められなかったから。それから私たちは負けたと聞いた、ああ、負けたって。もう2度とそうならないようにする。でも私たちは他国に虐待されてきたんだ。他国以上に私たち自身の政治家に虐待されてきた。彼らを責めることはできない。私たちはこの国で私たちを代表する人たちに虐待されてきた。率直に言って、彼らの中には愚かな人もいれば、世間知らずの人もいれば、ひねくれている人もいる」

 まとまりのないこの発言をどう解釈すればいいのか? そもそも、バイデン氏が持っていた8つの円形って何ぞや?と聴衆は思ったはずだ。米ニュースサイト「デイリービースト」は「トランプ氏は、4年前の新型コロナウイルス感染拡大の最中、バイデン大統領の選挙活動で社会的距離を保つ手段として地面に描かれた円形の絵に言及しているようだ。トランプ氏は、スペースXの再利用可能なロケットブースターがドローン船に描かれた円形のターゲットに着陸することから、バイデン氏が持っていた円形の絵を思い出したようだ。これらが関税とどう関係するのかは誰にも分からない」とトランプ氏の発言は論理を欠いているとする見方を示している。アメリカの製造業の課題がトランプ氏にマスク氏のロケットブースターの凄さを思い出させ、それが、なぜかバイデン氏の持っている円形を思い出させ、円形を人で埋めることができなかったバイデン氏が2020年の大統領選で勝ち、関税を課す他国以上に自分達を虐待してきたことを思い出させたという思考回路が働いたのだろうか? 何のことを話しているのか理解できた聴衆はどれだけいただろう。

認知機能低下が加速

 コーネル大学心理学部およびウェイル・コーネル医科大学精神科の上級講師ハリー・シーガル氏は、トランプ氏の発言や振る舞いは明らかに精神が衰えている兆候だと述べている。

「トランプ氏の奇妙な発言や政治的決断が増えていることは憂慮すべきだ。ニューヨーク経済クラブでの育児に関する回答は支離滅裂で、支持者ですら懸念していた。先週、トランプ氏は集会で認知的に混乱し、バイデン氏が8つの円形をジャーナリストで埋め尽くした件について話し始めた。同氏のスタッフの誰もこの言及を説明できていない」

「トランプ氏は過去1年間、奇妙な歩き方、音韻錯語(言葉を言い始めても最後まで言えないこと)、言葉や概念の複雑さの低下など認知症の兆候を示してきた。能力の限界は討論会での彼のパフォーマンスの悪さを説明しているが、彼の衰えを示す不穏な兆候がもう2つある。まず、彼は矛盾のない応答を自発的にしなければならないイベントを避けている。彼は大統領選の第2回討論会を拒否し、CBSテレビの“60 Minutes”のインタビューも突然キャンセルした。次に、彼はより衝動的になっている。これも認知症の初期段階の兆候だ。そのため、彼はフィラデルフィアで奇妙な行動を見せたのだ。DJをするという突然の決断は、彼の認知機能の低下が加速しているもう1つの兆候だ」

 認知機能の衰えが懸念されるトランプ氏に対して、20日、還暦を迎えたハリス氏は若さを武器にトランプ攻勢を強めている。ハリス陣営は、18日にミシガン州で行われた選挙イベントで居眠りをしているように見えるトランプ氏を映したと思われる動画を“X”に投稿し、「疲れ果てたトランプ氏は選挙イベント中に居眠りしているようだ」(上の画像)と攻撃した。

 様々な世論調査サイトの結果をもとに総合的に支持率を割り出している「リアル・クリア・ポリティクス」によると、米国時間10月20日時点では、7つの激戦州全てでトランプ氏の支持率がハリス氏の支持率を上回っており、ハリス氏47.4%vsトランプ氏48.4%とトランプ氏がハリス氏を1ポイントリードしている状況だ。ハリス氏はその若さで認知機能の低下や疲労が指摘されているトランプ氏を打ち負かすことができるのか?

(飯塚真紀子・著 米大統領選関連記事:Yahoo!ニュース エキスパート )

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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