Yahoo!ニュース

トランプ氏とハリス氏が指名受諾演説で主張した“同じこと”とは? 米大統領選 #専門家のまとめ

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
トランプ氏もハリス氏も中間層を取り込むため(写真:ロイター/アフロ)

 米大統領選まで2ヶ月あまり。民主党大統領候補に指名されたカマラ・ハリス氏と共和党大統領候補に指名されたドナルド・トランプ氏は、それぞれの指名受諾演説で、ある共通する主張をしていた。トランプ氏は「すべての米国民のために大統領になるために出馬している」と訴え、ハリス氏も「すべての米国民のための大統領になる」と同様の主張をした。つまり、両候補にとって、すべての米国民の大統領になるには、中間層や労働者階級を取り込むことが大統領選に勝利する鍵になっている。そのため、ハリス陣営もトランプ陣営も、中間層に寄り添う主張を展開しているが、それをまとめてみた。

ココがポイント

▼自身もアメリカで多いシングルマザー世帯で育ったと訴えることで、ハリス氏は中間層の人々の気持ちが理解できるという姿勢を示している。

「誇り高き黒人女性」として社会運動に熱心だったハリス氏、暴れん坊から「不動産王」にのし上がったトランプ氏…対照的な生い立ちや経歴 (読売新聞)

▼トランプ氏は裕福な家庭で育ち親の地盤をベースに不動産王になったが、ハリス氏はバイト経験を訴えることで労働者階級の一員とアピール。

米民主党のシンボルになった「マクドナルド」、大統領候補夫妻がバイト経験を宣伝 (CNN)

▼トランプ氏はバイデン政権がインフレを招いたと批判し、全ての階層に対して大規模減税を行うと訴えて労働者階級を取り込もうとしている。

トランプ氏「インフレが国民を疲弊」 共和党大会演説 1期目上回る「大規模減税」約束 (産経新聞)

▼共和党副大統領候補に指名されたバンス氏は貧困家庭出身だが、エール大学を出て立身出世したと訴えることで、アメリカンドリームの実現が難しくなっている労働者階級にアピールしている。

バンス氏は「労働者階級の男」、妻ウーシャさんが共和大会で登壇 (ロイター)

エキスパートの補足・見解

米大統領選では、歴史的に、候補者たちは中間層にアピールする戦略を取ってきた。バイデン氏も、自身のことを“ミドルクラスジョー”と呼んでアピールした。今回の選挙でトランプ陣営が労働者階級出身のバンス氏を、ハリス陣営が元高校教師のウォルズ氏を副大統領候補に指名した背景には中間層を取り込む狙いがあると考えられている。

しかし、中間層とはいったい何なのかというと、様々な議論がされており、確定的な定義は存在しない。アメリカ人は一般的に階級意識があまり強くないし、中間層を年収で定義した場合、その中央値は州によって大きく異なる。また、自分が所属する階級に対する捉え方は、個人個人でも違いがある。

しかし、アメリカでは超富裕層と貧困層が増大する一方で、中間層は縮小の一途をたどっているものの、自身を中間層と見なしている人の割合は高い。ギャラップのデータによると、2024年には、自分たちを上流階級だと考えるアメリカ人はわずか2%で、下層階級だと考える人はわずか12%である一方、54%が自分はアッパーミドルまたは中流階級、31%が労働者階級だと自覚している。その意味で、大統領候補たちが自称中間層にアピールすることは重要だ。

ハリス氏は乳児がいる世帯への児童税額控除の大幅拡充や労働者世帯への減税など中間層を対象に「1億人以上減税」の経済政策を掲げるボトムアップのアプローチを打ち出している。一方、トランプ氏は法人税引き下げなどの大型減税や関税の引き上げにより国内産業を保護する政策で経済全体を活性化し、中間層や労働者階級に富を還元するトップダウンのアプローチを打ち出している。世論調査によると、経済政策ではトランプ氏の方がバイデン氏より評価されていたが、バイデン氏の経済政策を踏襲しているハリス氏の経済政策が有権者にどれだけアピールするのか注目される。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

飯塚真紀子の最近の記事