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「時々バカを言う」ウォルズ氏はバイデン氏みたい? 失言動画表示回数約1500万回 副大統領候補討論会

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
討論を行った副大統領候補のバンス氏(左)とウォルズ氏(右)。(写真:ロイター/アフロ)

 米副大統領候補のティム・ウォルズ氏(民主党)とJ.D.バンス氏(共和党)による討論会が、10月1日、ニューヨークでCBSテレビの主催により行われた。政策論争が中心で、個人攻撃のような特筆すべきこともなく、退屈との声もあがった討論会だった。全体的に、ウォルズ氏はハリス氏の政策を擁護し、バンス氏はトランプ氏の政策を擁護するといった様相を呈していた。CNNの世論調査によると、軍配はわずか2ポイント差でバンス氏に上がったが、この2ポイント差というのはどこから来たのか?

 それは、トランプ氏vsハリス氏の大統領候補討論会で司会を務めたABCニュースのリンジー・デイビス氏がした討論会評の中で示唆されているのかもしれない。デイビス氏は副大統領候補討論会についてこう言及している。

「6月27日に行われた大統領候補討論会について、カマラ・ハリス氏が“ジョー・バイデン氏は『スロースタート』だったが『力強いフィニッシュ』をした”と言ったのを思い出した。今夜のウォルズ氏にも同じようなことを感じた。ウォルズ氏自身の言葉を借りれば、今夜の討論会は変なところが多かった。気まずくて、恥ずかしい瞬間があった」

ウォルズ氏の恥ずかしい失言

 ウォルズ氏にとって気まずい瞬間の一つは、1989年6月に中国で天安門事件が起きた時、実際はアメリカにいたにもかかわらず、なぜ香港にいたと主張したのか?と司会者にきかれた時だ。ウォルズ氏が初めて香港を訪ねたのは1989年8月と天安門事件の数ヶ月後だったが、同氏は天安門事件の最中に中国にいたとポッドキャストなどで主張していたからだ。

 それについて、ウォルズ氏は田舎町で育ったことや中国との教育上のつながりについて長々と説明した後、最後には、自分は完璧な人間ではなく「私は時々バカを言う。言い間違えをした」と失言を認めた。

 これに限らず、ウォルズ氏はいくつかの失言をした。討論会の冒頭、中東問題について議論する際にイランとイスラエルを混同した。

 また、ウォルズ氏が「私は学校銃乱射犯と友達になった」と述べたことも取り沙汰されたが、それは、後に「銃乱射の犠牲者の両親と友達になったこと」を意味していたことがわかった。これについてトランプ氏は「彼は狂っているのか? とても大きな間違いだ」と投稿。トランプ陣営は失言時の動画(下)をXでシェアし、表示回数は現時点で1500万人近くに達している。

 そんなウォルズ氏のパフォーマンスは、前述のデイビス氏に、バイデン氏が6月の大統領候補討論会で見せた支離滅裂な姿を思い出させたのだろう。

 「ウォルズ氏は明らかに準備不足だったと思う」とCNNのアンカー、アビー・フィリップ氏も同氏のパフォーマンスは期待外れとの見方を示している。

バンス氏の気まずい瞬間

 もっとも、バンス氏にも気まずい瞬間があった。

 トランプ氏は2020年の大統領選では自分が勝利したと間違った主張をしているが、ウォルズ氏がバンス氏に「トランプ氏は2020年の大統領選で敗れたのか?」ときくと、バンス氏はその質問に直接答えることなく「ティム、私は未来に焦点を当てている」と矛先を変える回答をしたり、「ハリス氏は人々を検閲したのか?」とウォルズ氏に質問し返して、民主党がソーシャルメディアの投稿を検閲しようとしていることの方が民主主義にとっては脅威だという方向に話題を転じようとした。これに対しウォルズ氏は「全く答えになっていない」と言い返した。

バンス氏は期待を上回り、ウォルズ氏は下回る結果に

 CNNは討論会を試聴した登録有権者に世論調査を行ったが、その結果について政治担当ディレクター、デビッド・チャリアン氏は「期待と現実について言うと、討論会前は45%がバンス氏が勝つと考え、54%がウォルズ氏が勝つと考えていた。最終的には、51%vs49%でバンス氏が勝ち、バンス氏は期待を上回り、ウォルズ氏は期待を下回ったことになる」と述べている。

 また、この世論調査によると、両候補の好感度は、討論会後、バンス氏は-22から-3へ、ウォルズ氏は+14から+37へと両候補ともに大きく上昇したこともわかった。

バンス氏は“トランプ氏の有能なバージョン”

 バンス氏が、先の大統領候補討論会ではトランプ氏が上手く伝えられなかったメッセージを今回の討論会で伝えたことを評価する声もあがっている。USA Today紙は、意見記事「バンス氏について私は間違っていた。副大統領候補討論会は、共和党がバンス氏ゆえに勝つ可能性があることを示している」とのタイトルで、バンス氏は素晴らしい討論をしたと述べ、同氏は、トランプ氏のように性格的に爆発するという欠陥がない、いわば、“トランプ氏の有能なバージョン”との見方をしている。確かに、バンス氏の落ち着いた語り口はトランプ氏にはない説得力と安定感を漂わせていた。その意味では、バンス氏は、大統領候補討論会でハリス氏に敗北したトランプ氏にとっては大きな一助となったのかもしれない。

 もっとも、ほぼ引き分けとなった副大統領候補討論会は、勝敗の鍵を握っていると言われている無党派層をいずれかの大統領候補になびかせる効果はなかったというのが米メディアの大方の見方だ。

 大統領選の投票日まで、残すところ、約1ヶ月。すでに有権者はどちらに投票するか決めていると言われているが、果たして、軍配はどちらに上がるのか?

(飯塚真紀子・著 米大統領選関連記事:Yahoo!ニュース エキスパート )

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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