阪神タイガース・湯浅京己、久々の甲子園で1軍主力選手のシート打撃に登板
■シート打撃の登板で甲子園へ
初秋の甲子園球場に「背番号65」が帰ってきた。
…といっても、試合ではない。10月10日、練習のシート打撃での登板だ。
左脇腹の故障が明けたばかりで、まだシート打撃での登板を2度、公式戦と練習試合に2度、計4度の登板をしただけだ。
まずは現状を1軍首脳陣に見てもらうことが主目的で、さらにクライマックスシリーズを控える1軍主力野手陣の調整のお手伝いという意味合いも含まれる。
「甲子園の空気が気持ちいい」と、いつもどおり外野でアップから始まり、ランニングやキャッチボールなどのメニューをこなし、フリーバッティングが終了するとマウンドに向かった。かつての“戦場”だった聖地のマウンドを久しぶりに踏みしめる。
キャッチャーの後ろ、ネットの向こうからは岡田彰布監督はじめ首脳陣が視線を送っている。
■シート打撃登板の投球結果
力強いボールが見られる一方で、決めたいところで制球が定まらず、四球で“再戦”という場面も何度かあった。計7人の打者に45球要した。
近本光司…オールストレートで、フルカウントからレフトへ運ばれる。
*公式記録員がいないため、主観での判断になる。当たりがよかったので安打性ともとれるが、近本選手本人が「あれはレフトフライやろ」と口にし、チームメイトからも「ノーヒット」と言われていたので、ここでは「左飛」と記録する。
中野拓夢…フォークから入り1ボールからの2球目、ストレートで左飛。
大山悠輔…フォークで空振りも取り、フルカウントから最後もフォークで見逃し三振。
佐藤輝明…四球で仕切り直し、次打席はストレートでファウルを取り、縦スライダーで右飛。
ノイジー…1ボールからストレートで中飛。
坂本誠志郎…ストレート4球で四球のあと、ファウル4球で粘られフォークで四球。3打席目もボールが3球続いたあと、ストレートで空振りやファウルは取れたが、結果は四球。
木浪聖也…1ボールからフォークでバットを折ってセカンドゴロ。
打者7人 45球
(内訳…直球29球 フォーク14球 縦スラ2球 最速151キロ)
■湯浅京己の手応えとは
終了後の第一声は「疲れた…」だった。合計45球は負傷後最多の球数だ。
「やっぱり力みもあったし、多少(当てないように)気を遣いながら投げちゃったなというのはあります」。
坂本誠志郎選手には打席をまたいで6球ボールが続くなど、制球面で安定性を欠いた。「前に飛ばしてほしかった」と笑ったあと、「まっすぐも変化球も、もうちょっと精度を上げたいなって思いました」と振り返った。
ただ、そんな中でも指にかかるボールは増えてきていると、手応えを深めた。
終わってから坂本選手と話し込むシーンがあったが、「誠志郎さんの感じたこととか聞きました。まっスラしてるから、バッターボックスでは嫌だなとか」と、打者の反応を知ることができたのも収穫になった。
「まっすぐの強さも出てたし、力んだ分、ちょっと浮いたりバラついたところもあったけど、そんなには悪くなかった。あとはちょっとしたことで、もうちょっとよくなるかなっていう感覚もあるので、そこはいろいろ試しながらやりたいなと思います」。
ゲームでの感覚やフォームのバランスなど、さまざま試している過程で、それがコントロールのバラつきの要因にもなっている。今後フェニックス・リーグでも投げながら、さらに試行錯誤していきたいと意気込む。
自ら「力んでいた」と明かしたが、「もっと力感なく力強いボールを投げられるように。前腕を痛める前の感覚よりもよくなるようにやりたい」と、自身に求める方向性を示していた。
■打席で19球見た坂本誠志郎
シート打撃終了後、身振り手振りを交えながら熱く言葉を交わしていた坂本選手は、「いいボールと悪いボールのバラつきがあったので、いいボールの数が増えていけば、という話をしました」とその内容を明かし、「僕に粘られるくらいだから、まだまだ(笑)」と冗談めかした。
「怖さなく腕を振って投げているというのがすごいし、それが僕は一番よかったんじゃないかなと思っています」。
そこに注視したのは、自身も過去に脇腹を痛め、「自分では(腕を)振りたくても体が反応して振れない」という経験をしているからだという。それさえできるようになれば、「またボールの質は上がってくるというのは、投げていってわかると思う」と期待を込める。
やはりいいときのボールを知っているだけに、坂本選手にとっては「こんなもんじゃない」という思いが強いようだ。
「いっぱいいろんな経験をして、考えながら、またもっと強くなる。今年も終わったわけじゃないし、来年以降もっともっとレベルアップした強い湯浅で帰ってきてほしいなっていう思いがある。去年抑えてたとか、侍に行った湯浅よりも、もっと」。
そのボールを受けてきたキャッチャーだからこそ、思うところはいろいろあるようだ。
「あいつが抑えてチームが勝つっていうのは、今年みんなも思い描いたことだし、それがまたできる日が来るのが楽しみにもなりました。早くそういう日が来てほしい」。
湯浅投手本来の「ボールの圧力」がさらに出てくることを求めていた。
■久保田智之投手コーチ評
「まぁまぁです。前腕を故障する前よりは(よくなっている)。本人の感覚なので、本人が指にかかっていると言うんで、ここからは上がっていくと思うので。力が入ってシュートしたり、安定感もまだないけど、いいボールもある」。
現時点では及第点は与えなかったが、「復帰してゲームもまだ2試合しか投げてないんで、今後フェニックスで投げていけば徐々に上がってくるんじゃないかなと思います」と今後の上昇を嘱望していた。
■自分にはわかる感覚
この日の朝、岡田監督からは「よかったらベンチに入れる」と告げられていたが、“一発回答”とはならなかった。
だからといって、湯浅投手は悲観などしていない。むしろ前向きである。
「感覚的にも、トラックマンのデータ的にも悪くない。あとはコントロールの微調整をしたらいい」。
そう言えるのは、自分にはわかるたしかな手応えがあるからだ。今取り組んでいる方向性にも光が見えている。シート打撃とはいえ、主力選手との対戦も「楽しかった」と振り返るなど、どこか余裕もある。
今すぐわかりやすい結果に結びつかなくとも、この先、「あのときがあったから、よかったんだ」と思える日がきっとくる。
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(撮影:筆者)