抹消中の阪神タイガース・湯浅京己が鳴尾浜球場でブルペン入り
■ブルペンでストレートのみを30球
心地よく鳴るミット音にホッとした。登録抹消後、初めてキャッチャーに座ってもらって、ストレートのみの30球。一歩前進だ。
7月2日の立ち投げに続いて、同5日、鳴尾浜球場のブルペンでピッチングを行った湯浅京己投手。その表情は明るく、輝いていた。
それまでも決して暗かったわけではない。しかし状態のよさからか、同じ笑顔でも弾け方が違った。
「今日はよかった。いいボールもけっこうありました。初めてにしては、自分の中ではよかったと思います。まだまだ上げていける部分はあると思うので、徐々にですけど、もっと感覚よく投げられるように頑張ります」。
感覚よく投げられるようになってきたら、バッターとも対峙する。まずはしっかりとブルペンで投げて、状態を上げていきたいと力を込めた。
■前腕の強い張り
昨季はポストシーズンも含めて61試合に登板し、最優秀中継ぎのタイトルを初受賞した。オフもWBCに向けて強化試合など調整に余念がなかった。
2月はチームの春季キャンプを途中で切り上げて日本代表に合流し、そこからは侍戦士としてハードな日々を送り、WBC優勝にも貢献した。
帰国すると1週間後には開幕で、初戦からフル回転で腕を振った。
疲労やさまざまな要因で右前腕が強く張り、登録を抹消されたのが4月16日。慎重に復帰を目指したつもりだった。「焦るな」とは言われていたが、やはりどこかで「早くチームに戻らなければ」という焦る思いがあったのだろう。
1軍に上がる直前、「不安や怖さはなくなった」とは言っていたが、自分にそう思い込ませたかったのではないかと察する。「大丈夫」という言葉の中には希望的観測もあったに違いない。「投げているうちによくなっていくだろう」。そう信じたかったのだ。
しかし、体は正直だ。思いどおりに動いてくれず、それは結果の出る厳しい勝負の世界では通用しなかった。ただただチームに迷惑をかけたと申し訳なく思った。
■もう絶対に焦らない
結局、6月16日に再び抹消され、鳴尾浜で出直しとなった。鳴尾浜に“出勤”した初日、湯浅投手は報道陣の取材に応じた。
「このままずっと試合に投げていても何も変わらないと思うので、何日間かノースローに。キャッチボールやブルペンで、自分の中での感覚がある程度よくなってきたと思ったら、『試合に投げさせてください』と言う。だましだましやれるかなと思っていた部分もありましたし、自分の中でしっかり整理して、不安もいっさいなくなった状態で次は投げたい」。
同じ轍は踏まない。焦ったことで、逆にチームに迷惑をかけたと省みる。だから、もう絶対に焦らない。急がば回れ、の精神だ。
じっくりやることが復活へのもっとも近道であることを、経験して学んだのだ。
■完全な状態で復帰する
当初はボールを握る姿は見られなかったが、同20日にキャッチボールを再開し、それから徐々に距離を伸ばし、強度も上げていった。
「キャッチボールもよくなってきているし、遠投も投げられるようになってきているので。昨日(7月4日)もサードからファーストに感覚よく送球できたし。(ブルペンも)初めてにしては、自分の中ではよかったと思います」。
指にしっかりかかり、抜けるボールもなくなってきた。今後さらにブルペンでの投球を重ねることで上昇していくだろう、そんな手応えを感じているようだ。
言葉で多くは語らずとも、そのイキイキとした表情は雄弁だ。明らかに前回とは違う。心の底からの喜びがあふれているのだ。
ピッチングのあと、ダッシュ中にはルーキー・茨木秀俊投手に何やらアドバイスをする姿も見られ、最後は雨の中でのアメリカンノックに汗を流した。ボールを追いながら上げる声も弾んでいる。
もう少しだ。だが、今度こそ焦らず、1ミリの不安もない完全な状態に仕上げてから、戻ってほしい。そして次に上がったときは、堂々とした姿で「虎の守護神」として君臨してほしいと願う。
(撮影は筆者)