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名門「帝国ホテル」「ホテルニューオータニ」の海外有名シェフ招聘フェアが、他とは全く違う2つの理由

東龍グルメジャーナリスト

ホテルのフェア

これまでに、<歴史を動かす美味。ホテルのフレンチ、注目コラボレーション><壮大になっていくホテルのフェア>などで、ホテルの注目フェアを紹介してきました。

このようなフェアは通常メニューとは異なり、普段は使わない特別な食材を使ったり、海外から有名な料理人を招聘したりし、期間限定で行われます。

特別なメニューなので常連客も初めての客もどのようなものかと期待が高まりますし、レストランの料理人もサービススタッフもお祭りムードが漂って楽しく行うことがほとんどです。

今だけしか食べられないということもあり、雑誌やインターネットでもよく取り上げられ、テレビでも紹介されることがあります。

他とは違う招聘フェア

最近も興味深いフェアがたくさん行われていますが、その中でも特に注目したいフェアがありました。

それは、ホテル御三家のうちの2つ、帝国ホテル「レ セゾン」とホテルニューオータニ「ベッラヴィスタ」で行われたフェアで、どちらとも海外にいる料理人を招聘したものです。

招聘フェアはよくありますが、この2つは単なる招聘ではありません。何が違うのか、詳しく紹介しましょう。

帝国ホテル「レ セゾン」/「レ クレイエール」

軽くスモークした富士山麓の鱒 甘み豊かなみかん胡椒と鱒の卵を加えたムース
軽くスモークした富士山麓の鱒 甘み豊かなみかん胡椒と鱒の卵を加えたムース

帝国ホテルのミシュラン1つ星を獲得し続けているフランス料理「レ セゾン」で2017年2月22日から24日にかけて、「レ クレイエール 伝統と継承」フェアが行われました。

「レ セゾン」ではこれまでもいくつもの注目フェアが行われましたが、このフェアはまたいつもとは違うものとなっています。

「レ クレイエール 伝統と継承」は、どのようなフェアだったのでしょうか。

「レ クレイエール 伝統と継承」フェアはとは

公式サイトには以下のように紹介されていました。

レ セゾン シェフ ティエリー・ヴォワザンと「レ クレイエール」の歴代シェフ2人の饗宴

ティエリー・ヴォワザンがかつてシェフを務め、2つ星レストランを擁するフランス・シャンパーニュ地方のシャトー「Les Crayeres」より2人の歴代シェフをお迎えし、3人の共作によるスペシャルコースをお届けいたします。

レ セゾンでこそ味わえる夢の共演をこの機会にぜひお楽しみください。

「レ セゾン」シェフであるヴォワザン氏と、ヴォワザン氏がかつてシェフを務めた名門「レ クレイエール」で師匠であったジェラール・ボワイエ氏、さらには「レ クレイエール」の現シェフであるフィリップ・ミル氏の歴代3シェフが集まり、腕を奮ったフェアだったのです。

コース内容

ペアリングしたワインのボトル
ペアリングしたワインのボトル

コース内容は以下の通り。3人がそれぞれ2皿ずつ料理を作り、デザートはヴォワザン氏が作りました。

  • ラングスティーヌのタルタルとジュレ ピスタチオ 海苔 ゆずの香り(ヴォワザン氏)
  • 軽くスモークした富士山麓の鱒 甘み豊かなみかん胡椒と鱒の卵を加えたムース(ヴォワザン氏)
  • 柑橘を香らせてヴァプールした金目鯛 彩りのベットラヴのムースリーヌとキャビア(ミル氏)
  • キャビアとポロネギを飾り付けた ピノノワールのベールを覆った卵(ミル氏)
  • 伝統料理 地鶏のドゥミドゥイユ仕立て(ボワイエ氏)
  • ”ジェラール・ボワイエ”氏 直伝の黒トリュフのパイ包み焼き(ボワイエ氏)
  • シャンパンジュレ(ヴォワザン氏)
  • カフェとショコラ

このコースにはワインのペアリングも付いています。

  • ドゥッツ アムール ドゥ ドゥッツ 2006
  • ポメリー キュヴェ ルイーズ ブリュ ナチュール 2004
  • ローラン ペリエ グラン シエクル
  • エグリ ウーリエ アンボネイ ルージュ 2012
  • テタンジェ コント ドゥ シャンパーニュ 2006
  • ポメリー キュヴェ ルイーズ ロゼ 2000
  • ビルカール サルモン ブリュ ロゼ

7グラスものワインがペアリングされているので、ワインが好きな人にはとても嬉しい内容でしょう。

注目点

キャビアとポロネギを飾り付けた ピノノワールのベールを覆った卵
キャビアとポロネギを飾り付けた ピノノワールのベールを覆った卵

このフェアでは以下の点に注目したいです。

  • 歴代3シェフの競演
  • シャンパーニュのペアリング

歴代3シェフの競演

そのレストランのシェフがかつての修行先のレストランの師匠とコラボレーションするフェアはよくあることです。また同世代の親しい料理人とコラボレーションするフェアも非常に多いでしょう。

しかし、3人の料理人、しかも、同じレストランでシェフを務めた3人が揃ってコラボレーションを行うとなると、それは非常に稀なことです。

シェフともなると、そのレストランにおける全ての料理の責任を負うだけではなく、サービスや経営も考えなければならず、非常に忙しくなります。

それも、ミシュランガイドで星を獲得している「レ セゾン」や「レ クレイエール」であれば、なおさらのことです。

同じレストランでお互いに密接に働いていただけに、期間限定のフェアでもオペレーションがスムーズに行われます。

特別フェアともなると厨房は戦場となるので、ただシェフ同士が気が合うだけでは、とても回りません。しかし、このフェアの場合にはそのようなことはなく、スムーズに料理が出てきました。

シャンパーニュのペアリング

「レ クレイエール」はシャンパーニュ地方にある、宿泊施設も完備されたシャトーレストランです。扱っているシャンパーニュは実に300種類とも言われています。

シャンパーニュが名産品ということで、赤ワイン1種類を除き、他の全てはシャンパーニュがペアリングされているのです。

シャンパーニュのペアリングは、シャンパーニュ地方ではそう珍しいことではありませんし、日本でも行われていないことはありません。

しかし、今回ペアリングされたシャンパーニュの場合には、普通のシャンパーニュのペアリングとは異なっています。というのも、シャンパーニュのほとんどがビンテージとなっているからです。他のレストランではボトルでも置いてあるかどうかというシャンパーニュをグラスで飲めるのは非常に贅沢なことでしょう。

ボワイエ氏、ヴォワザン氏、ミル氏ともにシャンパーニュには非常に詳しいため、どの料理にどのシャンパーニュを合わせるかはソムリエに任せず、自分たちで決めました。

これも他のシャンパーニュのペアリングとは違うところです。

また、シャンパーニュはレーマンのグラスで提供されましたが、レーマンには「レ クレイエール」でシェフソムリエを務めるフィリップ・ジャメス氏がプロデュースしたグラスのシリーズもあります。

「レ クレイエール」とシャンパーニュのつながりの深さを「レ セゾン」で感じられるとは非常に感慨深いものです。

フェアを開催したきっかけ

ところで、この貴重なフェアが行われたきっかけは何だったのでしょうか。

実は「レ クレイエール」フェアは以前に開催されたことがあり、今回は2年振りの開催となりました。

過去にはヴォワザン氏とボワイエ氏、ヴォワザン氏とミル氏のコラボレーションが行われていたのです。

ヴォワザン氏は2017年4月で13年目になることもあり、今回の「レ クレイエール」フェアはこれまでにはないものにしたいと考えました。

そして、「レ クレイエール」のゼネラルマネージャーに相談して、これまでには叶わなかった歴代3シェフが結集するに至ったのです。

料理の振り分け

伝統料理 地鶏のドゥミドゥイユ仕立て
伝統料理 地鶏のドゥミドゥイユ仕立て

偉大なシェフが2人いるだけでも、誰が何を作るのかコース構成は大変になるものです。3人ともなると、どのようにして決めたのでしょうか。

まずヴォワザン氏が師匠であるボワイエ氏に、何を作りたいかと相談しました。その後でミル氏に何を作りたいかと相談し、結果的に3人がそれぞれ最も作りたいと思う料理を担当することになったのです。

問題なくスムーズに決まったのは、お互いによく知った仲であること、それに加えて、ホストであるヴォワザン氏が深慮したことも大きかったでしょう。

次回へ向けて

今後も3人でフェアを行いたいかという質問に対して、3人とも「また3人で集まれると嬉しい」と述べていましたが、実はフィリップ・ミル氏は若干38歳でフランスのM.O.F.(国家最優秀職人賞)を受賞した注目の料理人であり、2017年3月17日に「六本木テラス フィリップ・ミル」を東京ミッドタウンにオープンします。

フィリップ氏は日本とのつながりがますます深くなるだけに、この歴代3シェフのフェアは今後も行われる可能性が高くなるのではないかと、私は今から期待を寄せています。

ホテルニューオータニ「ベッラ・ヴィスタ」/「PASSAGE 53」

イカとカリフラワー
イカとカリフラワー

ホテルニューオータニの西洋料理「ベッラ・ヴィスタ」で2017年3月3日から3月5日に、ホテルニューオータニ大阪のフランス料理「SAKURA」で2017年2月26日と27日に、黒トリュフをテーマとした「PASSAGE 53」フェアが行われました。

ベッラ・ヴィスタは<ホテルニューオータニ「ベッラヴィスタ」料理長にトップシェフが就任した背景とは?>でも紹介したことがあります。

以前はイタリア料理でしたが、今は西洋料理へとリニューアルされました。

ホテルニューオータニの最上階40階にある「ベッラ・ヴィスタ」でどのようなフェアが行われたのでしょうか。

「PASSAGE 53」フェアとは

「PASSAGE 53」フェアは本場フランスのパリにある「PASSAGE 53(パッサージュ サンカント トロワ)」オーナーシェフ佐藤伸一氏を招聘して行われたフェアでした。

「PASSAGE 53」は2009年にパッサージュの一角「パッサージュ・デ・パノラマ」53番地にオープンし、そこから僅か半年でミシュランガイド1つ星、1年後にはミシュランガイド2つ星を獲得し、それ以来ミシュランガイド2つ星を維持しています。

佐藤氏のこだわりで、調理スタッフは日本人だけで構成されており、今パリで最も勢いのあるレストランのうちの一つです。

また佐藤氏自身も2015年に「LE CHEF」で世界の料理人トップ100に選出されるなど、ますます注目されています。

コース内容

オマールブルーとシェリー
オマールブルーとシェリー

「PASSAGE 53」フェアのランチコースは以下の通りです。

  • キャロットキャロット
  • カブとバラ
  • カニと白バルサミコ
  • ホタテとコンブ
  • イカとカリフラワー
  • オマールブルーとシェリー
  • グラニースミスとカルダモン
  • 黒トリュフと玉ねぎ
  • 仔牛とトリュフ
  • レモン
  • パイナップルタルトスとペドロヒメネス
  • 黒トリュフのタルト
  • ショコラとノワゼットとバナナ
  • フラン

ランチが12皿、ディナーが14皿あり、それぞれに佐藤氏の代表的な料理とデザートである「黒トリュフと玉ねぎ」「黒トリュフのタルト」が含まれているコースと含まれていないコースがありました。

つまり、ランチとディナー全てで4種類のコースを用意していたいのです。特別フェアにしては選択肢が多いのは、バリエーションを増やして利用し易くするためでした。

また、先のスペシャリテに加えて、これも佐藤氏の代表的な一皿である「イカとカリフラワー」も含まれていることからも分かるように、佐藤氏は妥協なく全力投球しています。

注目点

黒トリュフと玉ねぎ
黒トリュフと玉ねぎ

このフェアにおける注目点は以下の通りです。

  • 日本人初の2つ星シェフ
  • 逆輸入の招聘

日本人初の2つ星シェフ

佐藤氏は、食の都であるフランスのパリでレストランをオープンし、ミシュランガイドで2つ星を獲得した初めての日本人です。

しかも、一度だけではなく、その後もずっと2つ星を維持しています。

ミシュランガイドの重圧に悩まされる料理人が多い中、日本人でありながらもフランスで評価され続けるのは困難なことでしょう。

「PASSAGE 53」はパリでも予約がとれないレストランとなっているだけに、日本で佐藤氏の料理を食べられるのは、ミシュランガイド2つ星の味を楽しめるということ以上の意味を持ちます。

また、今回のフェアにあたっては、パリ本店を2週間もクローズし、佐藤氏だけではなく、料理人やサービススタッフも合わせてチームで来日しました。

そのためパリ本店と同じ味とサービスを体験できることも非常に魅力的だったのです。

逆輸入の招聘

「PASSAGE 53」フェアは「世界で活躍する日本人シェフフェア第3弾」として行われました。

普通の招聘フェアは海外のレストランとコラボレーションし、そこの外国人シェフを招聘するものですが、このシリーズの場合には日本人シェフを招聘しています。

その意図を問うと、このフェア企画し、自ら折衝にも当たってき広報マネージャーの岩崎州彦氏は「ホテルニューオータニは海外で活躍する日本人シェフを応援しており、海外で通用する味を日本のお客様にも是非味わっていただきたいと考えた」と力を込めます。

第1弾と第2弾は以下の通りでしたが、岩崎氏は「国内外の情報を参考にして、このシェフであればお客様に絶対ご満足いただける方にお声掛けした」と自信を持って話します。

  • 第1弾 2015年5月「PASSAGE 53」
  • 第2弾 2016年8月「RISTORANTE TOKUYOSHI」

これを見て分かるように、「PASSAGE 53」フェアは今回が2度目です。

2度目の開催となった理由について岩崎氏は「佐藤シェフはトリュフを使った料理が非常に魅力的だが、前回はトリュフの時期ではなかった。お客様からも大変好評を得たので、次回はトリュフの時期に行って、もっとお客様にご満足いただきたいと考えていた」と以前からの構想であったとします。

さらに「前回よりも皿数が増えているので、佐藤シェフの料理を余すところなく楽しんでいただける」と2回目のフェアは前回よりもグレードアップしていると述べます。

東京と大阪で開催

ホテルニューオータニの東京と大阪で行っていますが、その理由は何でしょうか?

実は第2弾の「RISTORANTE TOKUYOSHI」フェアも、ホテルニューオータニ大阪の30周年を記念して、東京だけではなく大阪でも行われました。

今回の「PASSAGE 53」フェアは今年度のフィナーレということ、さらには、1回目に東京で開催した時、大阪の客から開催を望む声が多かったので、第2弾に続いて東京だけではなく大阪でも開催することに至ったのです。

客には嬉しいことですが、招聘されたシェフは東京と大阪の移動もあって大変でしょう。しかし、それでも東京と大阪で行うのは、招聘されたシェフが1人でも多くの人に料理を食べてもらいたいと思っているからです。

次回へ向けて

黒トリュフのタルト
黒トリュフのタルト

佐藤氏に次回の開催について話を振ると「いつでも日本に来たい。スタッフにとっては、疲れる慰安旅行だが」と笑顔で答えますが、今回のフェアを行うにあたって、佐藤氏は岩崎氏を含めた相手に全部で300通くらいのメールのやりとりを行っており、万全を期してフェアを行いました。

佐藤氏がホテルニューオータニでフェアを行うことを決心した理由は「岩崎氏の情熱や熱意を感じたことが大きい。チームでの来日を承諾してもらったり、ジャン ルイ コケの皿を用意してもらったりするなど、最高のパフォーマンスを発揮するための条件を全て受け入れてもらえたから」と述懐します。

ホテルニューオータニにとっては、こういった魅力的なフェアを行うことで、集客に加えて、料理人やサービススタッフの育成も行えるので非常に意義がありますが、佐藤氏からの条件を全て受け入れたのは、収益や実益を超えて、これまでにないフェアを行いたいという強い信念があったからではないでしょうか。

フェアを行う理由

帝国ホテルの「レ クレイエール 伝統と継承」フェアは、フランス料理好きであれば憧れのシャトーレストラン「レ クレイエール」の歴代3シェフが創っり出した料理を楽しめる貴重なフェアを開催しました。

ホテルニューオータニの「PASSAGE 53」フェアは、同じ日本人であれば、海外で活躍する日本人について、どういった人物であるのか気になったり、応援したくなったりする気持ちをよく理解し、国内にいる日本人料理人のフェアとは一味もニ味も違う、日本人のためのフェアを開催しました。

この2つのフェアはいずれとも、常連客には普段とは違う魅力を提供し、そうでない客には興味深い取り組みも行っていると分かってもらえるものでしょう。これまでにはなかったことに加えて、日本のレストランで行うことに意味があります。

ますます壮大になっていくホテルのフェアにおいて、「これまでにはない」ことと「そこで行う意味がある」ことは極めて重要となります。今後も、このような招聘シェフがたくさん行われることを期待したいです。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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