夏と鮎と鉄板焼。日本人であれば体験してもらいたい3つの旬味
日本における夏の味覚
日本における夏の味覚と言えば何でしょうか。
鱧、鰻、そうめん、トウモロコシ、スイカ、メロンなどたくさんのものが挙げられ、人によって思い入れも違うと思いますが、私としては日本の夏の味覚として、鮎を挙げたいです。
鮎はスイカのような品のよい匂いを持つことから香魚とも呼ばれ、柔らかい身と繊細な食味を堪能できます。地域によって時期は異なりますが、漁の解禁日を心待ちにする方は多いのではないでしょうか。
古くから日本人が親しんできた鮎
歴史を鑑みると、鮎は古事記や日本書記に登場しており、古くから日本人に親しまれている魚です。中国、台湾、朝鮮、ベトナムにもいますが、日本人だけが特に好んで食べているのも興味深いところでしょう。
平安時代の辞書に「春生じ、夏長じ、秋衰え、冬死す。故に年魚と名づくなり」と記されているように、一年で一生を終える儚さが、日本人の心を打っているのかも知れません。
焼くのがオーソドックス
日本における夏の味覚において、鮎が代表的なものであると分かってもらえたと思いますが、この鮎は最近ではフランス料理にも当然のように使われるようになっています。フレンチの技法を用いて調理してもおいしく食べられますが、最もオーソドックスな食べ方はやはり塩焼きではないでしょうか。
そして、同じく焼いて食べるのでも、焼く技術に特化した鉄板焼の料理人が調理した鮎は格別なものがあります。
ただ、暑い夏には、熱い鉄板焼を食べたいとはあまり思わないものです。
しかし、旬の鮎を魅力的な鉄板焼の料理に仕上げ、暑い夏でも需要に結び付けているホテルの鉄板焼があります。
調理法
そのホテルと鮎の調理法は以下の通りです。
- ANAインターコンチネンタルホテル東京
ムニエル
- グランドニッコー東京 台場
コンフィ
- ヒルトン東京お台場
マリネ
どのような鮎の料理、および、コースが提供されているのでしょうか。
ANAインターコンチネンタルホテル東京
ANAインターコンチネンタルホテル東京「赤坂」では、2017年7月1日から9月30日にかけて「飛騨牛ディナー」が行われています。
飛騨牛の産地は、山紫水明と謳われる岐阜県です。その一方で岐阜県と言えば、全国でも漁業量の上位に入る鮎の産地でもあります。
「飛騨牛ディナー」コース
この飛騨をテーマとしたコースのメニューは以下の通りです。
- 先付
- 鮎のムニエル蓼酢添え
- 季節のグリーンサラダ
- 産地直送焼き野菜盛り合わせ
- 飛騨牛フィレの朴葉味噌焼き 120g
- 飛騨のコシヒカリ、味噌椀、香の物
- フルーツの盛り合わせ
鮎は洋風のムニエルにしてカリッと仕上げていますが、蓼酢と合わせているのは非常にオーソドックスなところでしょう。
料理長の小川忠克氏が「鮎にはやはり蓼酢が最も合う」と力強く述べるように、北大路魯山人は鮎をおいしく食べる方法として「はらわたを抜かず、塩焼きにして、火傷するほど熱いものに蓼酢を絞ってかぶりつくこと」と述べています。
飛騨の魅力が凝縮したコース
鮎の産地である飛騨にこだわったフェアなので、コース全体を通して統一感もあります。飛騨牛フィレ肉は朴葉味噌焼きとなっています。鉄板焼で、牛肉を朴葉に載せて朴葉味噌で食べるというのは他では中々体験することはありません。
お食事のご飯には、魚沼ではなく飛騨のコシヒカリが提供されています。この飛騨のコシヒカリは、日本穀物検定協会「米の食味ランキング」において、昨年2016年度まで3年連続で最高の特Aを獲得した米で、食味は折り紙付きです。
また、ソムリエが高山市内の7つの酒蔵を巡り各酒蔵から選んだ日本酒を利き酒セットやコース料理とのペアリングで用意しているところも興味深いでしょう。
鮎自体はもちろん、その主要な産地である飛騨に焦点を当てたことによって、魅力的なフェアとなっているのです。
グランドニッコー東京 台場
グランドニッコー東京 台場の鉄板焼「浜木綿」では、2017年7月1日から8月31日にかけて鮎が含まれたコース「青海」をディナーで提供しています。
「浜木綿」は台場にあるホテルの中でも最上層階にある鉄板焼店で、レインボーブリッジや東京タワーを一望でき、東京湾を見下ろせます。青海の眺望をいただく「浜木綿」の「青海」コースはどのようなものでしょうか。
「青海」コース
コース内容は以下の通りです。
- 食前の小さなお楽しみ
- 夏野菜のテリーヌ ウニ添え
- 鮎のコンフィ 胡瓜のミントのコンディマンと共に
- 季節の焼き野菜
- 黒毛和牛サーロイン(120g) または フィレ(80g)
- ご飯 または 鰻のガーリックライス
- 椀物・香の物
- フルーツの盛り合わせ
- コーヒー または 紅茶
鮎と同様に夏に旬を迎える鰻も含まれているのは贅沢でしょう。
鮎には、栄養価が高く、近年注目されている和歌山県・紀の川の養殖ものが使われています。
鮎のコンフィの作り方は次の通りです。鮎をニンニク、ローズマリー、オリーブオイルで味付けし、塩を振って一晩寝かせ、90度で8時間じっくりと加熱します。
そして最後は、鮎の身がくっつかないようにするため、鉄板の上に紙を敷き、その上で焼いて皮目をパリッとさせているのです。
ソースは鮎の内臓「苦うるか」とシェリービネガーで作り、キュウリやミントと合わせたコンディメント、グリーントマト、花キュウリを添えて、緑が豊かな夏らしい皿に仕上げています。
コース構成で興味深いのは、夏野菜を使ったテリーヌや鮎のコンフィなど、モダンを指向しているかと思えば、焼いた牛肉の下にパンを敷くクラシックスタイルをとっていたり、トマト、ガーリック、オレガノ、タマネギ、チリペッパーで作ったソースをオープン以来受け継いでいたりと、和と洋、モダンとクラシックが重なっているところです。
鮎を丸ごと食べられるようにする
実は昨年も鮎のコンフィが提供されていましたが、外国人ゲストが骨を気にして、丸ごと最後まで食べられないということがありました。
しかし、2017年3月料理長に就任した川上健朗氏が解決を試み、満を持して提供したのが今年の鮎のコンフィだったのです。
意図的に小振りの鮎を選び、90度4時間加熱していたところを倍の8時間も加熱するようにし、骨が気にならないようにしました。その結果、外国人ゲストも食べ残すことがなくなったのです。
様々な要素を持つコース構成もさることながら、鮎を丸ごと食すという日本の文化を推進することは価値があるでしょう。
ヒルトン東京お台場
近江牛は約400年と日本の和牛の中でも最も歴史があるブランドのひとつです。霜降り部分は多いものの、脂が溶け出す融点が低いために、あまり重たくないと言われています。
神戸牛、松阪牛と共に三大和牛のひとつとしてもよく挙げられ、知名度はとても高いでしょう。
その近江牛は滋賀県の和牛であることが知られていますが、同じく滋賀県の琵琶湖でとれる鮎も有名です。
漁業量は多くないものの、滋賀県のプライドフィッシュとしてコアユが指定されているように、鮎は滋賀県にとって大切な魚となっているのです。
ちなみに、プライドフィッシュは<漁師が選んだ本当においしい魚「プライドフィッシュ」を食べたことがありますか?>で紹介しています。
「近江牛と鮎」コース
こういったつながりから、ヒルトン東京お台場の日本料理「さくら」の鉄板焼カウンターでは、2017年7月3日から8月31日にかけて「近江牛と鮎」をテーマとし、和と洋のスタイルをマリアージュさせたコースを提供しています。
コースは以下の通りです。
- 生ハムとキウイフルーツのカッペリーニ キャビア添え
- 鮎のマリネと夏野菜 ガスパチョソース
- フォアグラと茄子の鉄板焼き フルーツトマトとガリのコンディメント
- 活鮑の鉄板焼き 香り立つ炙り雲丹と共に
- 近江牛A5サーロイン 赤ワインソース トリュフの香り 枝豆のマッシュポテト
- 鰻と九条ねぎのご飯
- 水菓子
キャビア、フォアグラ、アワビ、近江牛と豪華な食材がふんだんに使われており、鮎と同じように夏の味覚のひとつである鰻もコースに含まれています。
フォアグラの底に夏が旬のトウモロコシ入りパンケーキを敷いたり、近江牛はトリュフ風味のソースに枝豆のマッシュポテトを添えたりと、旬のものをさりげなく加えているところが注目です。
新料理長の工夫
鮎のマリネには稚鮎が使われています。タイムやローリエなどのハーブでマリネしてから加熱し、そのままでも食べられるように調理していますが、あえて最後に鉄板で焼くことによって完成させています。
透明のプレートを用いて、鮎の下には十八穀米のタブレを敷き、リムには夏野菜を配し、美しい菜園風に仕上げているのは見ものです。
昨年も鮎が提供されていましたが、鉄板で焼くことはありませんでした。しかし、林一哉氏が料理長に就任した今年からは、鉄板焼である強みを生かして、鉄板で仕上げることになったのです。
これによって、鮎の味わいと香りが深まり、さらにはパフォーマンスも楽しめるようになりました。
旬の鮎に、ブランド和牛と高級食材を合わせてコースの付加価値を高め、一度は食べてみたいと思わせる内容に仕上げています。
様々な調理法で鮎を楽しむ
岐阜県出身であるANAインターコンチネンタルホテル東京の広報である森直美氏は、「実家に帰ると必ず、板取川沿いにあるとれたての鮎尽くしを楽しめる場所で、お刺身、塩焼き、田楽風、お酢がけ、唐揚げ、雑炊など最低6~7匹をいただく。焼き魚は全て自分で焼き、焼き加減も塩加減も好みで調整できるので楽しい」と述べ、鮎の色々な楽しみ方を教えてくれます。
鮎の語源については、産卵の時に川をくだるその様子「落ちる」=「あゆる」から変化したとのではないかと言われますが、他にも諸説あり、定まっていません。
しかし、冒頭でも述べたように、鮎という言葉は奈良時代から使われており、日本人に古くから親しまれている魚であることに違いはありません。
その日本人に馴染み深い鮎を、焼くことに関してプロフェッショル中のプロフェッショナルである鉄板焼の料理人が、様々な調理法を用いて新たな夏の味覚として進化させたのなら、おのずとそれは魅力的な一皿となり、暑い夏でも訪れてみたくなる鉄板焼となるのではないでしょうか。