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真冬の熱中症!?入浴中の溺水を防ぐため、ヒートショックについての正しい認識を持とう!

薬師寺泰匡救急科専門医/薬師寺慈恵病院 院長
(写真:イメージマート)

寒くなってまいりました。この季節になると増えてくるのが入浴関連死です。私も何度か取り上げました。

熱いお風呂は危ない!入浴関連死を防ぎましょう

冬の入浴に注意!!

実際のところ、冬に入浴関連死は増加し、冬(12月から2月)は夏(7月から9月)に比べて入浴中の死亡が6.9倍にもなると報告されています[1]。最近は報道でもヒートショックについての啓発も増えてきています。ただ、様々な情報を見ていて、ヒートショックについての情報が曖昧だなと感じています。今回は、ヒートショックについて少し掘り下げて解説し、改めて入浴関連死を防ぐ方策を考えてみます。

ヒートショックとは

よく耳にする「ヒートショック」という言葉。急激な温度変化によって血圧が大きく変動し、心筋梗塞や脳卒中などの健康被害を引き起こす様を指す言葉として市民権を得ています。ただ気をつけておいて欲しいのですが、ヒートショックという言葉は実のところ医学用語ではありません。学術雑誌などで扱われる言葉ではないですし、ヒートショックに関する文献を探そうと文献検索サイトで「heat shock」と検索したら、ヒートショックタンパクに関する情報が多数出てくるものの、肝心のヒートショックに関する情報は得られません(ちなみにヒートショックタンパクは細胞が熱や化学物質、虚血などのストレスにさらされた際に発現して細胞を保護するタンパク質の一群のことです)。ヒートショックとヒートショックタンパクは全然関係がない話です!なお、ショックと名前がついていますが、循環動態が破綻して末梢循環不全に至る「ショック状態」とも違う言葉です。ヒートショックはとてもインパクトはありますがややこしい言葉です。

私も大学でヒートショックについて学んでいません。今は教える立場ですが、当然そんな言葉は教えません。なんでヒートショックなる概念が生まれたのかを紐解くには歴史を遡る必要があります。

どうして入浴中に亡くなるのか

日本では特に高齢者の間で、冬季に風呂に関連した突然死が比較的多く発生し、他の先進国に比べて溺死による年間死亡率が高くなっていることがわかっていました。

なぜ日本だけでこのようなことになるのかというときに考えられた仮説が、ヒートショックです。入浴中に心電図変化が起こる(つまり心臓の血流が変化する)ことや、高齢者では入浴後に収縮期血圧と心拍数が上昇することが指摘され[2-3]、こうした環境変化で起こる生理変化が血管病変につながるのではないかと考えられたのです。しかし、実際に何が起こっているか大規模な調査を行ったところ、意外なことに脳卒中や心筋梗塞といった血管病変を起こしている頻度は低く、浴槽から救急搬送された救急患者を調査したところ、多くの人が熱中症になっていたことが判明したのです[4-5].

真冬の熱中症

最近、入浴中に動けなくなり救急搬送される方が増えてきました。入浴中に救急搬送される方は、浴槽内で発見された時には高体温になっており、体温が低下すると症状も改善していきます。夏に多く経験する熱中症と同様の病態です。

真夏の病気「熱中症」が冬に起こる!
真夏の病気「熱中症」が冬に起こる!提供:イメージマート

近年は、入浴という暑熱環境で体温が上昇し、熱中症となり、脱力したり失神したりして溺れてしまうというのが入浴関連死の病態と考えられています。42度の風呂で全身浴をした場合、体温は10分で1度上昇します。もともとの体温が37度であれば、30分の入浴で体温は40度になってしまいます。体温40度を超えると意識が朦朧としてきますが、それが入浴中に起こり、そのまま溺水してしまうというわけです。

どうやって防ぐか入浴関連死

ヒートショックを注意喚起する報道も多いのですが、ヒートショックで着目されているのは寒暖差です。脱衣所を暖かくし、なるべく入浴中の体温変化を避けましょうと啓発されます。急激な環境変化から自律神経が影響を受けることを避けられるなら避けたほうがもちろん良いのですが、入浴関連死を防ぐために着目すべきは、お風呂の温度です。

41度のお湯であれば、10分間入っても体温は38度以下に保たれることがわかっています[4]。重要なのは、お風呂を熱くしすぎないこと、長時間の入浴を避けることです。というわけで、今回は次のようにまとめさせていただきます。

入浴関連死を防ぐために

①浴槽の温度は低めにする

温度設定が可能であれば41度までにしましょう

設定が難しければ水温計をおき、浴槽内が高温にならないように注意

②長時間の入浴は避ける

全身浴は10分までにしておきましょう

③様子を見に行く

もし家族が入浴して10-15分以上音沙汰がなければ、 できる限り様子を見に行きましょう

風呂の外からでも良いので、大丈夫かと声掛けをして下さい

どーーーーーしても熱いお湯に長時間浸かりたい!という方は、同居する人などにお願いして、見守ってもらっておいてください。一人で熱いお風呂に長時間入らないでくださいね。ダチョウ倶楽部じゃないですよ。本当にダメですよ。

参考文献

[1] Hideto Suzuki,et al. J Epidemiol. 2015; 25: 126–32.

[2] 五十嵐丈記. 日循予防誌. 2003; 38: 16-25.

[3] Nagasawa Y, et al. Jpn Circ J. 2001 Jul;65(7):587-92.

[4] 堀進悟 他. 入浴関連事故の実態把握及び予防対策に関する研究. 厚生労働省;2014.

[5] Suzuki M, et al. Intern Med. 2019 Jan 1;58(1):53-62.

救急科専門医/薬師寺慈恵病院 院長

やくしじひろまさ/Yakushiji Hiromasa。救急科専門医。空気と水と米と酒と魚がおいしい富山で医学を学び、岸和田徳洲会病院、福岡徳洲会病院で救急医療に従事。2020年から家業の病院に勤務しつつ、岡山大学病院高度救命救急センターで救急医療にのめり込んでいる。ER診療全般、特に敗血症(感染症)、中毒、血管性浮腫の診療が得意。著書に「やっくん先生の そこが知りたかった中毒診療(金芳堂)」、「@ER×ICU めざせギラギラ救急医(日本医事新報社)」など。※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。

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