日本初の子牛ブランド八重山郷里牛は和牛の値段高騰を解決できるのか?
和牛の値段が高騰
和牛の値段がここ数年で急騰しています。
ここ5年間で20%も価格が上昇しており、日本経済新聞、NHKやNHK WEBでも取り上げられているくらいです。
しかし、この問題はまだ解決の糸口が見つかっていません。
農林水産省でもこれを課題と考えており、以下のような資料が作成されています。
実は、この問題は以下の記事のように、以前から危惧されていました。
和牛の価格高騰は繁殖農家が減少したことによるというものです。
繁殖農家の減少が引き金
和牛の値段が高騰しているのは、以下のような悪循環からです。
- 繁殖農家が減少
- 子牛の数が減少
- 子牛の価格が高騰
- 和牛の価格が高騰
和牛が流通するまでの期間はおおよそこうなっています。
繁殖農家が出産させた子牛を7~10ヶ月間育て、その子牛を買ってきた肥育農家が20~24ヶ月間肥育してから出荷し、松阪牛や神戸牛といったブランド和牛として流通します。
そのため、和牛のもとになる子牛を繁殖する農家が減少すると、子牛の数が減って、子牛の価格も高騰し、それが和牛にも反映されているのです。
具体的には、YOMIURI ONLINEによると、子牛の価格はここ5年で2倍になっているとあります。
繁殖農家が減少している理由
では、どうして繁殖農家が減っているのでしょうか。
これも冒頭の農林水産省の資料に記載されています。
日本の農業に共通する高齢化の問題が特に深刻です。
では、繁殖農家を増やすためにもどのような施策が行われているのでしょうか。
主に以下3つに大別されます。
- 生産性の向上
- 繁殖農家への補助金
- 新たな担い手の育成
1つ目は、牛は1年に1頭しか繁殖できないので、より確実に繁殖するために、人工授精を含む技術を促進して生産性の向上を図るという施策。
その次は、繁殖農家への補助金を捻出し、新規参入を促したり、現存している繁殖農家を支援したりするというもの。
最後は、新たな担い手、とりわけ、高齢化した繁殖農家に若い人が加わるような対策を行うこと。
また、酪農が盛んな北海道でホルスタインに和牛の仔牛を代理出産させる試みも行われています。繁殖農家が九州から北海道へ移っていき、これまでの枠組みが変わる可能性を秘めています。
日本で初めての子牛ブランド
先に、肥育農家が繁殖農家から子牛を購入し、ブランド和牛に育てると述べました。肥育農家によるブランド和牛はたくさんありますが、つい数年前まで子牛のブランド和牛はありませんでした。
しかし、2013年10月に、八重山の和牛繁殖農家で構成された八重山郷里生産者グループの「八重山郷里牛」が日本で初めてとなる子牛ブランドを創り出したのです。
子牛ブランドを促進することは、繁殖農家になりたい人を増やすことにつながります。繁殖農家が注目されることによって、若い人の目にとまる機会も増えるでしょう。
繁殖農家が少なくなっている現状では、非常に意味がある取り組みなのです。
これらの背景については、食肉コーディネーターである片平梨絵氏の記事にも詳しいです。
八重山郷里牛とは
八重山郷里牛とはどういった牛でしょうか。
公式サイトには以下のように説明されています。
全ての牛に生産履歴カルテを添付していることは特筆するべきところでしょう。自然な育て方をすることにもこだわっています。
また別のページでは繁殖農家ならではの強みとして「美味しい牛肉づくりは素牛から」と謳っています。
八重山郷里牛のフェア
八重山郷里牛は子牛ブランドという新しい試みを行っており、繁殖農家の増加が期待されます。
しかし、残念ながら、この取り組みはまだほとんど知られていません。
そのような状況にあって、子牛ブランドに理解を示し、八重山郷里牛のフェアを行っているホテルがあります。
- 名古屋東急ホテル「鉄板焼ロワール」
2015年7月16日〜8月31日
- ホテルオークラ東京「鉄板焼さざんか」
2016年2月1日〜2月29日、2017年3月1日~31日
最初に行ったのは名古屋東急ホテルで、次に行ったのはホテルオークラでした。そして、ホテルオークラでは昨年に引き続き今年も八重山郷里牛フェアが行われています。
食のオークラ
ホテルオークラは「食のオークラ」と言われており、帝国ホテルの村上信夫氏と並んで、ホテルオークラの小野正吉氏も、フレンチ界の巨匠として語られています(共に故人)。
<本館建て替え間近、ホテルオークラ東京「ラ・ベル・エポック」有終の美を飾るフェア>でも、メインダイニングのフレンチを紹介しました。
食にはこだわりがあるホテルオークラが、どうしてマイナーな子牛ブランドのフェアを行うことになったのでしょうか?
希少牛のフェアを定期的に開催
実を言うと「さざんか」では、様々なおいしい肉について熟知し、舌が肥えた客のために、以前から希少牛のフェアを行っていました。
常に希少牛を探している中で、ヘッドウェイターである水野克歳氏は「米沢牛の生産者の方から八重山郷里牛のことを教えていただいた」として、特に希少であることに加え、食肉業界にとっても意義のある八重山郷里牛フェアを行うことになったと話します。
そして、2016年に八重山郷里牛フェアを行うに至りましたが、客からの反応もよかったので、今年2017年も引き続き行うことになったのです。
八重山郷里牛の肉の特徴
水野氏は、八重山郷里牛の肉の特徴を「自然な育て方をしているので、フィレもサーロインも小振り。フィレはしっとりとしており、サーロインは歯応えがある。熟成させているので、焼いた色も濃い」と淀みなく話します。
加えて「融点が低いので、体に脂肪がつきずらく、太りにくい」と述べ、これまでの和牛よりもヘルシーであると説明します。
本館の改装
「さざんか」はもともと本館にあったレストランなので、本館立て直しに際して、別館へと移ってきました。客室だったエリアを鉄板焼へとリノベーションするにあたり、1ヶ月半工事し、引き渡されたのが営業10日前。これまであった鉄板や全て廃棄され、新しい鉄板が設けられたのです。
環境が変わりゆく中で、営業開始日までの日数もあまりありませんでしたが、何とか再開へとこぎつけた上に、八重山郷里牛のような希少牛フェアも引き続き行っていることは驚きに値します。
料理人がサービスも
ところで、先の水野氏の肩書が「ヘッドウェイター」となっていたことに気付いた方はいるでしょうか。
ヘッドウェイターとなっていますが、実は水野氏は普通に考えるウェイターではありません。
「さざんか」では料理人が基本的に最初から最後まで料理のサーブも行うので、このような肩書になっているのです。いくら料理人もサービスすることが重要であるとは言え、分業化が進んだ今、このようにしているホテルの鉄板焼はほとんど見掛けられません。
こういったこだわりに加えて、香りがよくなるからと肉にブランデーでフランベしたり、ご飯にショウガを添えたりと、昔ながらの変えてはならない伝統によって「食のオークラ」が形成されているのです。
八重山郷里牛の存在
八重山は日本でも希少な南十字星の全貌を捉えられる場所であり、そこでは南十字星は「はいむるぶし 」=「南群星」と呼ばれています。
この南十字星を毎夜見ていたであろう八重山郷里牛は、1等星しか見えない東京で昔から食べられていたにも関わらず、肥育農家のブランドであったために、その存在をほとんど知られていませんでしたが、歴史ある食のホテルオークラの鉄板焼で、新しいブランド和牛として改めて知られるようになるとは、数奇な巡り合わせだと思うのです。