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「こんな国のために戦えない」北朝鮮の負傷兵が直面する、残酷な現実

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
北朝鮮の特殊部隊(朝鮮中央通信)

米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は26日、ロシアに派兵された北朝鮮軍の死傷者を米国防総省の当局者が初めて確認したと報じた。

報道によると、この当局者はRFAに対し「北朝鮮軍の死傷者がロシアのクルスク地域で発生した」としながらも、北朝鮮兵力の被害規模には言及しなかった。米当局者がロシアに派兵された北朝鮮軍の死傷者発生を確認したのは今回が初めて。

被害規模は明らかになっていないが、時間とともに多数の死傷者が発生する可能性は高い。北朝鮮は死亡した兵士について、遺族に詳細な事実を知らせず、隠蔽する方針を固めているという。また負傷者は本国に帰還させ、治療するということだ。

しかし、本国でまともな処遇を受けられるかは微妙だ。

北朝鮮では、日本からの解放前に故金日成主席とパルチザン闘争を行ったとされる人々とその子孫が、最も高い階級を占めている。

(参考記事:女性少尉を性上納でボロボロに…金正恩「赤い貴族」のやりたい放題

そして、1950年代の朝鮮戦争で戦った元兵士らは「戦争老兵」と呼ばれ、パルチザン出身者に次いで尊敬の対象とされてきた。様々な福利厚生の恩恵を受け、社会的にも高い地位を持っていた。しかし、1990年代の大飢饉「苦難の行軍」を前後して、福祉システムが機能しなくなり、今では貧困に苦しむ人が少なくない。

咸鏡南道(ハムギョンナムド)の北青(プクチョン)では昨年末、ある戦争老兵が病院で診療拒否に遭い、路上で亡くなる事件が発生したと、現地のデイリーNK内部情報筋が伝えている。

この話は、口コミネットワークを通じて、地域一帯にあっという間に広がった。社会的に支える対象である戦争老兵ですら冷遇される現状に嘆息する人もいれば、国の福祉政策を非難する人もいた。

「国は、戦争老兵の革命精神に学ぼうなどとありとあらゆるプロパガンダに老兵を利用しているが、現実はこの有様だ。戦争が起きたとしても、誰がこんな国のために命がけで戦うだろうか」(地域住民)

北朝鮮当局が公に持ち上げてきた戦争老兵でさえ、この有様だ。派兵自体が秘密とされている「ロシア帰り」が、お荷物扱いされる可能性は高い。

(参考記事:「死の直前、泣き崩れる兵士」北朝鮮軍が見せる残酷映像

元兵士のある脱北者は、「北朝鮮はロシアに送った兵士らがひとりとして帰還するのを望まないだろう」とさえ言っている。欧州の戦場で傷を負った兵士らは、さらなる試練に直面することになるかもしれない。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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