NPB12球団ジュニアトーナメントで躍動した阪神タイガースジュニア2021
■ハマスタにぶち上げた2発の花火
「打った瞬間、泣きそうでした。コーチのみんなも」―。
そう喜びを嚙みしめる白仁田寛和監督。それは劇的なホームランだった。前日、投手として5失点した辻琉成選手の悔しさが詰まった先制の2ラン、そして2打席連発となるソロ弾は、阪神タイガースジュニアに初勝利をもたらしてくれた。
「琉成がホームランを打って(ベンチに)還ってくるとき、めっちゃ笑顔だった。ホッとしたのと、あの嬉しそうな笑顔を見て『ほんとスタメンで出してよかったなぁ』って心の底から思った」。
辻選手自身を、そしてみんなを幸せにしてくれた2発の打ち上げ花火だった。
野球界ではすっかり年末の風物詩となった「NPB12球団ジュニアトーナメント」は、プロ野球各球団が小学5、6年生16人でジュニアチームを作り、日本一を目指す大会だ。監督、コーチはその球団のOBが務め、ジュニア選手たちはその球団のプロ選手と同じユニフォームを身にまとって戦う。
多くのプロ野球選手がこの大会から巣立っている。(参照記事⇒阪神タイガースジュニアのセレクション)昨年のドラフト指名選手の中にも、13名の大会卒業生がいる。
今年の阪神タイガースジュニアは白仁田監督ほか、岩本輝、上本博紀、柴田講平の3人のコーチで首脳陣を結成し、悲願の初優勝を賭けて大会に臨んだ。(参照記事⇒阪神タイガースジュニアの戦績)
では、辻選手の2ホーマーも含めて、タイガースジュニアの戦いを振り返ってみよう。
■読売ジャイアンツジュニア戦
初戦(12月28日・神宮球場)は読売ジャイアンツジュニアが相手だった。昨年の反省から、まずは守備重視のオーダーを組んだという。
【読売ジャイアンツジュニア戦・スターティングラインアップ】
1(左)石野、2(一)大西蓮、3(中)井本、4(指)細川、5(遊)大西奏、6(二)有本、7(三)中島、8(右)多井、9(捕)筧、P赤司
【試合経過】
先発の赤司海斗選手は安定したピッチングで立ち上がり、初回、二回を三者凡退に抑えた。テンポがよく、球速表示以上に速さを感じるのか打者は差し込まれていた。
するとその裏、先頭の大西奏輔選手がヒットで出塁すると、中島大誠選手が真ん中高めを右中間に運んでタイムリー2ベースとした。先制だ。
多井桔平選手がセンターの頭を超す安打で繋ぐと、トップに返って石野稜眞選手がレフトを襲って2点タイムリー3ベースヒットで加点した。
三回表はハードラックな当たりで1点を失ったが、その裏にビッグイニングで4点を挙げた。井本陽太選手の左越え2ベース、細川凛人選手の右越え2ラン。いずれも逆方向だ。
有本豪琉選手、中島選手の連打でさらに1点、そして木ノ下湧万選手の代打安打でのガッツポーズにベンチも保護者たちも沸きに沸き、内野ゴロで1点追加して7―1とした。
四回表にマウンドに上がったのは辻選手。緊張もあったのか、いきなり2ランを浴びた。しかしそれでもタイミングを変えるなど工夫し、また大西奏選手の好守備などにも助けられて2失点で踏みとどまった。
続く五回は打ち取った当たりがヒットになった後、相手の主砲にはカウント負けして3ランを許してしまった。
こうなると勢いを止めるのは難しい。代わった多井選手も流れに飲み込まれてしまい、ファウルに見えた当たりで失点して勝ち越されてしまった。その当たり自体もそうだが、球審のジャッジが遅れ、塁審のジェスチャーもなかったことは、不運がいくつも重なったとしか言えない。
それでも多井選手は気丈にも六、七回を3人ずつで斬り、味方の反撃を待った。
しかしその後、打線は振るわなかった。注目の女子投手・濱嶋葵選手は一般客にもよく知られており、出てきたときの歓声もすごく、一気に視線を集めた。スタンドの応援とジャイアンツ打線の勢いにも力を得た濱嶋選手からは1点しか奪えず、あとはすいすいと投げさせてしまった。
野球には流れがあり、一度手放した流れを引き戻すのは容易ではなかった。
7―9で敗れた試合後、「琉成と桔平は泣いていた、終わってからずっと」と教え子たちの悔し涙に暮れる姿を見て、白仁田監督も悔しさとともにギュッと胸を締めつけられていた。「めちゃくちゃつらいし、責任も感じる」とはいうものの、いざマウンドに送り出すと、首脳陣ももうどうしてあげることもできない。
だが、「それでも、もっといい方法はあったんじゃないかと考えたりする」と、いつまでも自身を責めていた。
しかしこの大会のルールでは、2試合で1勝1敗の6チームの中から得失点差がもっとも大きいチームが「ワイルドカード」として決勝トーナメントに進出できることになっている。まだ翌日の戦いに希望は残っているのだ。
■オリックス・バファローズジュニア戦
2戦目(29日・横浜スタジアム)は初戦に敗れた同士であるオリックス・バファローズジュニアとの対戦となった。何度も練習試合を重ねた、お互い手の内のわかった相手だ。ワイルドカード奪取に向け、とにかく1点でも多く取らねばならないタイガースジュニアは、攻撃型オーダーで臨んだ。
【オリックス・バファローズジュニア戦・スターティングラインアップ】
1(左)石野、2(三)中島、3(右)辻、4(一)細川、5(指)木ノ下、6(遊)大西奏、7(二)有本、8(中)多井、9(捕)筧、P赤司
【試合経過】
前日好投した赤司選手が連投で先発マウンドに上がり、ランナーを許しながらも2回をしっかり0に抑えた。三回から登板した井本選手も、ときおり腕を下げたりクイックを織り交ぜるなど巧みなピッチングで、5イニングスをソロ1本被弾したのみの1失点と期待に応えた。
全得点を挙げたのは辻選手だった。まず初回だ。左翼フェンス直撃二塁打の中島選手を置いて打席に入り、カウント2―1からインサイド低めの球をライナーで右翼に運んだ。
連発となる2打席目は先頭でのソロだ。同じく内よりの球を、今度は滞空時間の長いアーチにしてライト頭上に架けた。
高々と左拳を掲げてダイヤモンドを駆ける我が子の姿を、スタンドの両親は万感の思いで見守っていた。カメラのレンズ越しに見ていた母はボールの行方を見失い、ほかの保護者の歓声でホームランだと気づいたという。そこからはもう飛び跳ねて喜んだ。父も、前日のプレーからしっかり切り替えて臨んだ息子を誇らしく思い、立ち上がって歓喜した。
さらにそのあと木ノ下選手の左前打、大西奏選手のワンバウンドでフェンスに当たる右越え打、代打・大西蓮太郎選手の死球で1死満塁と攻め立て、ここでタイガースジュニアが誇る長距離砲・磯﨑琉生選手を代打に送った。
が、1―1から外の球を空振りした磯﨑選手は、最後は高めの球で空振り三振に仕留められた。一気呵成で大量点を見込んだが、残念ながら1点止まりだった。
しかし井本投手の好投で逃げ切り、3―1で勝利した。
1勝1敗のタイガースジュニアは、この時点では準決勝戦に進出の可能性を残していた。ほかのゲームの結果を待ったが、結局、コールド勝ちした福岡ソフトバンクホークスジュニアに届かず、惜しくも涙を呑んだ。
■ボール回しで優勝
ただ、トーナメントは5位だったが、新設された「プロスピ賞」を受賞した。これは初日のシートノック前に左右2周ずつ、計4周のボール回しを2度行ってベストタイムを競うものだが、タイガースジュニアは24.82秒を記録して優勝した。
練習では何度も「カバー!」「カバー!」と注意を受けながらも25秒を切れなかったが、本番ではしっかりカバーリングを怠らず、24秒台を叩き出すとはお見事だ。
これはまさに結束力の勝利といえる。初代王者に輝いた証しのメダルは、一生の宝ものになるだろう。
■タイガースジュニアのみんなへ
8月のセレクションで選ばれ、関西圏のトップレベルの選手たちで結成した「阪神タイガースジュニア2021」のメンバーたち。最初はぎこちない関係だったのが、練習を重ねていくうちにお互いの力を認め合い、徐々に仲が深まっていった。
そして練習試合で力を合わせて戦い、本大会を迎えるころにはもう、得がたい唯一無二の仲間として、その絆は強固なものになった。
優勝できなかったことは非常に悔しかっただろう。結果が出なかった選手、あるいは出番が少なかった選手は、不完全燃焼な思いを今も引きずっているかもしれない。
しかし、大事なのはそこではない。ジュニアたちはこの4カ月間、かけがえのないものを手にしたはずだ。元プロ野球選手である監督とコーチ陣から、これまで知り得なかったレベルの高い野球、また礼儀や整理整頓などアスリートとしてたいせつなことを教わった。
さらに、スキルの高い仲間たちと一緒にプレーできたことで、己の力量を理解し、適切な目標設定ができるようにもなった。
なにものにも代えがたいこの経験は、ジュニアたちの誇りであり、宝ものだ。と同時に彼らの今後を支える糧になり、プロ野球選手を目指す上での礎ともなることだろう。
ジュニアたちよ。これからも“タテジマ魂”を胸に仲間をたいせつにし、お互いをリスペクトすることを忘れず、離れていても切磋琢磨していってほしい。
そして、ずっとずっと野球を、タイガースを愛し続けてほしい。
次回は、白仁田監督がちびっこ虎戦士ひとりひとりについて語る。(記事はコチラ)
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