サトテル2世を探せ!ミズノ社の「BLAST」が強打者ぞろいの阪神タイガースジュニアの打撃を徹底解剖!
■「BLAST」ってなんだ?
10月のとある日、阪神タイガースジュニアの練習にミズノ社の「BLASTチーム」が現れた。
「BLAST」とは、バットのグリップにセンサーを装着して、バッティングにおけるさまざまな数値を計測するという最新のハイテク機器だ。メジャー26球団で採用され、日本ではミズノ社が今年3月から販売開始しているが、すでに高校や大学などで広まりつつある。
そのBLASTがタイガースジュニアのバッティングを徹底的に分析するというのだ。
ミズノ社のBLAST担当である目賀田俊介さんはこう話す。
「指導にしても自分での修正にしても、今まではどうしても感覚に頼っていた。けれど、こうやっていろんな数値を見ながら自分のバッティングを客観的に見ることで、どこをどう修正したらいいのかというのを、科学的かつ効率的に自分で目標設定できる」。
かつては指導者が自身の経験による感覚を頼りに、擬音語などを交えながら教えていた。だが、計測したさまざまな数値を示すことで教わる側も理解しやすく、それによって再現性も高めやすいというわけだ。
計測できるのはこちらの図のとおり13項目だ。
この中から今回は、「バットスピード」「アッパースイング度」「オンプレーンの効率」の3項目の数値がジュニアたちに伝えられた。
◆バットスピード◆
「バットスピード」はスイングの速さで、時速で表示される。
注意したいのはヘッドスピードではなく、ボールをとらえるインパクトの‟芯“の部分のスピードを測定するという点だ。だからヘッドスピードの数字と比べるとやや遅い数値になる。
◆アッパースイング度◆
「アッパースイング度」はどういう角度でバットがボールに入っているか。いわゆる入射角である。理想の度数は0度から約10度だという。
バットのヘッドが下がりすぎてしまうと数値は大きくなり、逆に上から叩くとマイナスの数値が出る。
よく「上から叩け」という指導を耳にするが、それでは実際にはゴロになってしまう。あくまでも「上から叩くイメージで」という感覚的なことだろう。だからといって、アッパーすぎるのもよくない。そのちょうどよい頃合いを数値で確認できるのだ。
◆オンプレーンの効率◆
「オンプレーンの効率」というのは、仮想の平面を計算し、その平面上にバットの軌道がどれだけ乗っているかというのを測定する。ボールに対して一連のきれいな軌道でスイングできているか、つまり、いかにボールを線でとらえられているか、という割合を数字で表している。
この平面からスイングの軌道が外れている場合、エネルギーをうまく伝えられていないということになり、数値が安定して70%を超えていると、理想の軌道のスイングができているというわけだ。
■阪神タイガースジュニアが挑戦
さて、いよいよ計測だ。2人1組でティーバッティング、フリーバッティング、走塁、守備の練習を順に回していくが、ティーバッティングの時間に計測したので、練習の流れを妨げることがなかった。練習の流れの中に組み込めるのは非常に効率がいい。
センサーをバットのグリップエンドに装着してティーバッティングを行うと、さまざまな測定数値がiPad(もしくはiPhone)に表示されていく。スイングと同時に表れる仕組みだから、時間のロスがまったくない。
今回は初めてだったので、計測が終わるごとに目賀田さんがひとりひとりにわかりやすく説明を行っていた。
「数字を見ながら特徴であったり、もうちょっとこういう意識を持ったほうがいいんじゃないかという話をさせてもらった。それを受けて、自分の感覚と合致させてもらえれば…。1か月後にまた計測するので、楽しみですね」。
タイガースジュニアのメンバーたちがどのように意識し成長するのか、1か月後にまた見せてもらおう。
昨年のタイガースジュニアも1度だけ計測した。目賀田さんによると「昨年のほうが平均のバットスピードは若干速かったけど、今年は84~5cmのバットを使っている選手が多いので、一概に比較はできない。大人サイズのバットを操作できていて、いい数値をたたき出していることがすごい」とのことで、驚きを隠せなかったようだ。
アメリカではかなりのデータが集まっているそうで、小学生の速い選手で約90キロ、高校生で90~105キロだという。タイガースジュニアの中には117キロを超える選手もいたので、かなり優秀なようだ。
また「タイガースジュニアはオンプレーンの効率が平均的によかった。きれいな軌道をしている選手が多かったように思う。かつ、アッパースイング度に関しても、極端に上から出ていることもなかったし、めちゃくちゃアッパーになっている選手もいなくて、理想とされる角度の中でボールをとらえていたので、やはり小学生の中でもトップレベルだと思う」と、感心しきりだった。
■阪神タイガースジュニアの感想は…?
実際に測定したタイガースジュニア16選手の中から、代表して6人に感想を述べてもらった。
磯﨑琉生くんは「初めてやったので楽しかった」と笑顔を見せ、117キロ超えというトップクラスのスイングスピードに胸を張った。
計測したことで「自信がついたので、これからも頑張りたい」と自身の打撃でチームを牽引していくことを誓っていた。
大西奏輔くんは「スイングスピードとか自分の悪いところ…スイングのバラつきとかが知れてよかった」と収穫を得たようだ。
今後について「練習から強く振ることを意識していきたい」と話していた。
有本豪琉くんは「滑らないから打ちにくかった」と率直な感想を口にした。取り付けたセンサーが気になったようだ。
しかしながら有本くんも117キロを超え、小学生ではトップレベルのスピードだった。「いや、バットが一番軽いから」と謙遜するが、たいしたものである。
「軌道が悪いということが知れたので、これから生かしていきたい」と、しっかりと課題も手にした。タティスJr.のような長打が打てるバッターを目指す。
筧侑大くんは「アッパーになりすぎていたことがダメだなと思った。自分の悪いところがわかってよかった」と振り返った。これまでとくに注意されたこともなく、初めて気づいたという。
今後「コーチとかにいろんなことを聞いて、自分で修正したい」と、さらなる上達に向かって瞳を輝かせていた。
細川凛人くんは「スイングスピードが知れてよかった」と、自身の数値に満足げな顔を見せた。
112キロ以上の数値を目にして「自分のバッティングに自信が持てた」と言い、「これからもチャンスで打てるように頑張りたい」と気合いを入れていた。
井本陽太くんは「楽しかった」といつものようにニコニコ笑顔を弾けさせた。気づいたことを尋ねると、「アッパーがすごかったですね!」と、目を丸くして驚きの表情を見せる。どうやら新しい発見だったようだ。
「そこは修正していきたい」と意気込み、今後の試合に向けて「しっかり打てるようにしたい」と活躍を約束していた。
■“サトテル2世”は誕生するのか
野球がうまくなりたい、バッティングを向上させたいと願う子どもたちだ。今回の計測で、その意識がさらに高まったようだ。
「今までなら感覚や手探りでやらなきゃいけなかった。でも漠然とティーをするんじゃなくて、『これくらいの力の入れ方をしたら、〇キロだったのが〇キロになったな』とか、『これくらいの角度でバットを出していけば理想の10度くらいなんだな』とかいうのが、計測することで可視化される。上達する道筋が見えやすくなる」。
目賀田さんも高校や大学を回って、その効果に自信を深めているという。練習中にいつでも計測ができれば、自身の感覚と数値が一致しやすい。そうすることでより意識も高まり、上達が早くなるであろう。
今回は3つの項目に絞ってレクチャーされたが、ほかの項目も取り入れることでさらに自分のバッティングを深く分析し、改善点を理解することができる。つまり、向上につながるわけだ。
10年前の阪神タイガースジュニアには佐藤輝明選手が所属していた。佐藤選手はプロに入って現在、ルーキーながらチームトップの23本塁打を誇っている。
今年のタイガースジュニアのメンバーたちも今回の計測で、それぞれがヒントをもらった。これをきっかけにさらにバッティングが向上し、ゆくゆくはこの中から“サトテル2世”が誕生するかもしれない。数年後を楽しみにしよう。
(表記のない写真の撮影はすべて筆者)