阪神タイガースジュニア2021のちびっこ虎戦士たちへ、白仁田寛和監督から贈る言葉
■阪神タイガースジュニア・白仁田寛和監督の総括
野球界の年末の風物詩ともなった「NPB12球団ジュニアトーナメント」。昨年は初めてNPB公式サイトでネット配信も行われ、より多くの注目を集めた。
各球団のジュニアたちのいきいきとプレーする姿は感動を呼び、彼らの今後の活躍を想像する野球ファンたちは、期待に胸を膨らませた。
阪神タイガースジュニアは予選トーナメントを1勝1敗と健闘したが、残念ながら決勝トーナメントには進めなかった。しかし、勝利以上のたいせつなものを手にした。(前回の記事参照⇒躍動した阪神タイガースジュニア2021)
白仁田寛和監督はじめ、岩本輝、上本博紀、柴田講平の各コーチ陣もジュニアたちに感謝し、別れを惜しんだ。白仁田監督はこう振り返る。
「昨年の反省を生かして臨んで、守備面は今年よかった。経験を生かせたと思う。ただ、僕の目的は全員出したいし、できるだけ一人一人を長く出したいなとは思っていた。なかなかそれができなくて申し訳なかった」。
結果的に2試合で終わったこともあるし、試合展開もある。思うように選手を出場させられなかったことに胸を痛めていた。
そして、ひとりひとりへの思いを明かした。
◆赤司海斗
まず、2試合とも先発し、合計5回を4安打1失点にまとめた赤司海斗選手だ。
「海斗は練習試合でも抑えていたし、キャッチャーの侑大(筧選手)は『受けてて海斗が一番いい』って言ってるくらい。ボールが真っスラ気味にカットするのが持ち味で、気持ちも前面に出る。ジュニアの中では体はそんなに大きくないけど、肩も強くて足も速い、総合的な能力の高い選手。バッティングも飛ばすしね。なによりキャプテンとして、ほんとに頑張ってチームをよく引っ張ってくれた。そこが一番かなと思う」。
空振り三振を奪ってポンポンとグラブを叩くシーンに気合いを感じさせた。大舞台に強いのか、いや大舞台を楽しんでいるかのようなピッチングは、今後さらに上のステージで輝くだろう。
◆辻琉成
辻琉成選手は、投手としては初戦に1回と1/3を6安打5失点したが、翌日は打者としてチーム全打点となる2ホーマーを放つという、超ド級の活躍を見せた。
「1イニング目は緊張もあっただろうし、なんとか挽回してほしいのと、ピッチャーもそうつぎ込めないので長く投げてほしいと、琉成を信じて2イニング目もいかせた。2戦目はとにかく点を取らなきゃいけないので、バッティングのいい琉成を3番に入れた。しっかり取り返してくれて、すごく嬉しかった。ほんと真面目で、日ごろから周りに流されずに素振りしたりとか、そういうのが実ったのかなと見ている。自分でよく練習して頑張ったなと」。
コツコツとやってきた努力は嘘をつかない。練習中も一人ボール拾いをするなど、よく気がつく一面を見せていた。
「でも自分の道具はいつもどこかに置き忘れてるけどね(笑)。上本コーチが整理整頓を厳しく言って並べさせてるけど、いつも琉成のグラブだけなくてバットケースの上にあったり。コーチみんなで『琉成のグラブは足が生えてんなぁ~』ってケラケラ笑っている。そういうとこもかわいい感じ(笑)」。
愛されキャラだけに、挽回プレーには誰もが喜んだ。
◆多井桔平
1戦目の最後にマウンドに上がった多井桔平選手は、ライトを守りながらも味方の攻撃中にずっと投球練習をしていた。
「(守備から)帰ってきては作ってで、その回数も多かったりした。『次いくぞ!』と言いながらステイさせてというのもあって、肩はいつでもいけるという状態だったけど、気持ちの面でちょっとかわいそうだった。でも、あとの2イニングはピシャッと抑えた。緊張もあったかもしれないし、ランナーがいなかったとはいえ小学生には難しい登板だったかな。でも、あの後半のピッチングが最初からできるようになってくれたら、さらにいいピッチャーになる。桔平は右打者の被打率がものすごく低くて、これまで右にはほとんど打たれなかった。不慣れな外野守備もこなし、強肩を生かした外野からの送球は正確性が光っていた」。
足も速い多井選手は、これから体が大きくなるとさらに能力を発揮し、いい選手になるだろう。
◆井本陽太
腕を下げてみたりクイックでタイミングを外したりと自在なピッチングを見せる井本陽太選手。白仁田監督はまず「陽太は野球小僧。野球小僧の一言だけでいい」と答えて、楽しげに笑った。
「ほんとに野球が好きで、純粋に野球を楽しんでるし、めちゃめちゃ考えている。ピッチャーとしては、どこから投げてもコントロールできて低めに集められる。高めにほぼ抜けないし、低めの勝負ができる。リズムがよくて、小学生レベルでは打たれないなっていう感じ」。
バッティングフォームも自ら試行錯誤して取り組んできた。
「守備位置見て打っているし、最初のころはセーフティで意表突いたりとかもあった。(練習試合の)後半は周りに圧倒されたのか、打ちたい願望が強くなったのか、ちょっと余裕がなくなって自分を見失った部分はあったけど。でも引っ張りだけじゃなく流したりとか広く打てるし、打球を飛ばせる。ベースカバーなども忘れないで絶対にいく。ほんといろいろ考えてるし、おもしろい選手」。
ニコニコ笑顔と、打席での独特のルーティンは忘れられない。
◆石野稜眞
2戦とも切り込み隊長の役割を任された石野稜眞選手は初戦に2点タイムリー三塁打を含むマルチ打を放ったが、2戦目は快音を響かせることはできなかった。
「稜眞はポテンシャルがすごく高い。足も速くて、引っ張りだけじゃなくて逆方向にも広角に強い打球が打てるところがいい。練習試合ではみんなが三振するようなときでも、ほんとに三振を見なかったんだけど、大会では珍しく三振が増えた。ちょっと緊張しぃなのかな。(大会で)投げる機会はなかったけど、ピッチャーとしても球が速い」。
2安打とも逆方向にしっかりと打っていた。これから投手としての活躍も楽しみだ。
◆大西蓮太郎
初戦の初打席、速球をしっかりと振り抜いてライトへの安打を記録し、即座に盗塁を決めた大西蓮太郎選手だが、ヒットはその1本のみだった。2戦目は代打で頭部付近に死球を受け、代走に交代した。
「本大会ではちょっと調子が落ちた。蓮太郎も逆方向にも広く打てるし、練習試合の最初のころ、めちゃくちゃ打っていた。やっぱり全国大会に出ているだけあって経験が豊富。そういうところに大いに期待した。今回はちょっと本来持っている力を発揮しきれなかったけど、どんなボールにも対応できるのが蓮太郎の強みで、飛距離もあるし、足もめちゃくちゃ速い」。
この悔しさはきっとまた、晴らすときが訪れる。
◆細川凛人
初戦、先制の2ランを放った細川凛人選手も、タイガースジュニア自慢の長距離砲だ。最初のころの練習試合では連発する本塁打がすべて引っ張りだったが、指導を受けてセンターから右を意識するようになった。神宮球場でカチ込んだのも、右翼越えの一発だった。
「凛人は普段の練習でのロングティーでもセンター方向に飛ばすようになって、試合直前の室内での練習から『あ、なんか違うな』っていうのはあった。軽く振ってもホームランにするだけのパワーがある。ほんとにすごいし、頼もしい」。
ホームランはやや詰まったように見えたが、それを後ろ手でしっかり押し込めるのは、まさに長距離バッターだ。
◆大西奏輔
ショートで華麗な守備を連発していた大西奏輔選手。2戦通じての守備機会は、実に14度あった。
「守備は安心して見ていた。上手だった。バッティングもよかった、飛んだ方向も。調子は悪くなかったと思うし、それがもっと結果に結びつけばよかったんだけど…」。
たしかに結果としては2安打だが、相手の好守に阻まれてヒットにならなかった当たりもあった。
「そこはもう流れかもしれない。でもほんとうに奏輔は、守備もバッティングもとてもいい」。
大西奏選手の“魅せる守備”は、野球ファンの間でも話題に上っていた。
◆有本豪琉
大西奏選手と鉄壁の二遊間を組むセカンド・有本豪琉選手は、堅実な守備と初戦のヒット&スチールからホームを踏み、得点に絡んだ。
「豪琉はチームのムードメーカーであることは間違いない。声かけとかもそうだし、二遊間コンビの奏輔との相性もよく、守備で内野を引っ張ってくれた。バッティングではインコース打ちがうまく、インローをレフトから左中間に大きく打てる強さがある」。
大きな声でチームを盛り立てていた姿が印象的だった有本選手。タティスJr.に近づくべく、これからも精進あるのみだ。
◆中島大誠
タイガースジュニア打線でもっとも当たっていたのが中島大誠選手だ。3本のヒットはすべて2ベースで左越え、右中間と打ち分け、2本がタイムリー、1本は辻選手の2ランを呼び込んだ。打順も初戦の7番から、2戦目は2番に上がった。
「大誠はキーマンだった。家でめちゃくちゃ練習してたと思う。その頑張りが結果として出たんじゃないかな。2戦目は点取らなきゃいけないので、いいバッターから打順の上位に置いてたくさん回るようにした。1番が倒れても大誠なら出てくれるかなと期待して。ポジションも急遽サードにした。やはり全国レベルになると足の速い子ばかりになって焦って暴れてしまうことがあるけど、大誠なら上手だし、捕ってからも速いのでいけるかなと思った。大会でも守備もよかった」。
中島選手が次はどの舞台でキーマンになるか、非常に楽しみである。
◆筧侑大
タイガースジュニアの正捕手・筧侑大選手は、5人の投手を懸命にリードし、ワンバウンドも必死に止めていた。一方、初戦の1死一、三塁ではピッチャーゴロ(打点1)、2戦目の2死満塁のチャンスでは見逃し三振を喫したのは、相当悔しかっただろう。いい当たりが好捕されたのも、ハードラックだった。
「侑大はキャッチャーでは一番いい。今大会を見渡しても一番じゃないかと見ていた。すごいのは相手の打順が常に頭に入っていて、結果やゲーム展開もほぼ覚えている。なにより肩がすごい。そういった諸々を含めてナンバーワンキャッチャーだと思う。とにかくキャッチャーの能力に長けている」。
扇の要であるポジションをしっかりと守りきった。筧選手が今後、どれだけビッグな選手になるのか注目だ。
◆木ノ下湧万
初戦の代打でいきなりの左前打が鮮烈だった木ノ下湧万選手。一塁ベース上でのガッツポーズが頼もしかった。2戦目のDHでも1本放ち、最終打席は相手の美技に阻まれはしたが、いい当たりを見せた。
「練習試合でもジュニアで一番打ったんじゃないかな。バッティングはほんとうに勝負強さがある。それは首脳陣みんなが買っていた。1試合目のDHは凛人と非常に迷った。でも湧万は代打でも安心して出せる選手なんで、1打席でも結果を出せる湧万をここぞというときに、ランナーがたまっているときに使おうというのがあった。それに応えてくれた。守備は今後よくなりそうなので、すごく期待している」。
ピッチャーもキャッチャーもできる万能選手である木ノ下選手の飛躍にワクワクする。
◆磯﨑琉生
2戦目の1死満塁、畳みかけたい場面で代打に起用された磯﨑琉生選手はしかし、空振り三振に倒れてしまった。高めのボール気味の球に手が出てしまったのは悔やまれるところだろう。
「2試合目はどんどん点を取らないといけなかったんで、琉生のホームランに懸けたんだけど…琉生自身のためにも、みんなのためにも打ってほしかった。それくらい期待していた。琉生はチームでも一番スイングスピードが速いし、飛ばす能力もナンバーワン。キャッチャーしかやってないので控えに回っていたけど、いい選手であるのは間違いない」。
ただ、筧選手とのポジション争いで、磯﨑選手が一つ敵わなかったことがあるという。
「経験値。琉生はもう圧倒的に経験値不足。自チームが毎回コールド負けするような弱いチームで、打席も1試合にほぼ1度しか回ってこないらしい。やはり大きい大会では経験が出る。緊張もしていたし、自分が不利な状況になると動きが固くなる。それはもう大舞台を経験していないから」。
こればかりはどうしようもない。
「ただ、今後はおもしろい選手。足も速いし、総合能力はめちゃくちゃ高い。心技体の、とくに心の部分が成長すると、ものすごい選手になるんじゃないかと思う」。
つまり、それだけ伸びしろがあるということだ。体も大きく大人っぽく見える磯﨑選手だが、まだまだ小学生なりの幼さを内包している。ジュニアでの経験は大きな肥やしになったであろうし、どんどん経験値を上げることで今後、飛躍的に進化することが期待される。
◆永井仁之丞
永井仁之丞選手は投手でもあるが、今大会は外野で出場した。初めての球場で、日差し対策にとサングラスを着用したが、どうやらそれが慣れなくて守備の邪魔をしたようだ。
「仁も琉生と同じく経験不足。自チームがほぼ活動がなかったようで…。もともと守備はすごくいいんだけど、緊張があったと思う。外野はどこでもできるし、ピッチャーもファーストもいける。ピッチャーでもきれいな縦回転で投げておもしろいボール投げるし、コントロールもいい。あの小さい身長からは考えられないくらい勢いのあるいいボールを投げる。今大会ではピッチャーより、外野のどこでも入れることに期待していた。ほんと野球センスのある子なので、今後が楽しみ」。
人懐っこく、好奇心旺盛な永井選手。これからもさまざまなことを吸収して成長するだろう。
◆川口壱茶
2戦目、最終回にセカンドの守備に就き、セカンドゴロをさばいて最後のアウトを完成させた川口壱茶選手。
「壱茶は細かい動きから守備範囲の広さ、打球反応からハンドリングまでレベルの高い守備を見せてくれ、どこでも任せられる印象があった。打撃ではセンター方向を中心にコンパクトなスイングで力強い打球を飛ばせるのが特徴。総合能力が高く、バランスのいい選手。自チームではピッチャーも務めているけど、ジュニアではピッチャーは見れていないので、今後の活躍で僕らを後悔させてほしい」。
いつも元気で、受け答えもハキハキしている川口選手は、今後どこのチームでも中心選手としてやっていくのだろう。そして首脳陣を見返す活躍をするに違いない。
◆山口琉希
山口琉希選手は2戦目の途中にサードに就いたものの、残念ながら守備機会は訪れなかった。
「琉希は打撃は引っ張りメインだけど長打力もある選手。守備では前後の動きもいいし、三遊間を抜けるようなゴロもさばける。打球への反応、グラブさばき、ともにいい。守備範囲も広く、対応力のある選手」。
ジュニアではおもにサードを務めていたが、実はキャッチャーというユーティリティープレーヤー。中学での飛躍が大いに楽しみな山口選手だ。
選手起用には非常に苦慮したという白仁田監督。
「壱茶も琉希も守備だけでなく打席にも立たせたかったけど、(試合展開で)できなかった。本来なら琉生にも守らせたかった。みんな悔しい思いは持っているだろうから、今後、絶対に頑張ってくれると思う」。
試合は“生きもの”であるから、全員に公平な出場機会を与えるのは難しい。各々がそれぞれ消化しきれない思いを抱いているだろう。しかしこれは、どこに行っても付きまとうことである。どう受け止め、どのように昇華させていくかは自分次第である。
■16人全員がプロ野球選手に
すべてが終わって宿舎に戻ったタイガースジュニア一行は夕飯の前にミーティングを行い、監督やコーチがジュニアに向けて思いの丈を明かした。白仁田監督はまず、「みんなともっと野球がしたかった…」と口にした。別れがたい気持ちでいっぱいだった。そして語りはじめた。
「今もそうだけど、平等じゃない世界だよね。スタートラインもみんな違うし、体格も違う。すべてがみんな平等じゃないけど、それを言い訳にせずに頑張ってほしい。たとえば体が小さいことを理由にダメなんだとかじゃなくて、みんな何か自分の武器を一つでも作って、頑張っていってほしい」。
ほかにもいろいろ話したというが、さまざまな思いがあふれて「もう、涙をこらえるのに必死だった」と振り返る。必死にこらえていたのに「海斗がもう泣いてて、そのあとみんなでご飯を食べてるときも海斗がずっと泣いてて、それ見て泣けましたね」と赤司選手の涙に、とうとう涙腺は決壊した。
4カ月という短い期間だった。
「コーチたちも一緒にやってきて、みんながほんとに楽しかった。すごい子たちばっかりと一緒に野球ができて、こっちが楽しませてもらった。思い入れもどんどん強くなるし、4カ月ってほんとに短い。いや、週に1日か2日だし、実質会っている日数にすれば1ヶ月もないくらい。でも逆に、ずっと一緒にやってきたのかなと思えるくらい、長く感じたりもする」。
それくらい濃密だったということだ。たっぷりの愛情をもって接してきた裏返しでもある。
ふと、白仁田監督がつぶやいた。
「今でも淋しいなぁ…」。
心にぽっかり穴が開いたような、そんな空虚さはきっと白仁田監督だけでなく岩本コーチも上本コーチも柴田コーチも感じている。そしてもちろんジュニアたちも、さらにそのご家族たちも同様だろう。
これから中学に進学し、また別々のチームで活動が始まるジュニアたち。彼らに向けて、白仁田監督は最後の言葉を贈る。
「16人全員がプロ野球選手になるという夢を叶えてほしい。全員が花開いてほしい」。
教え子からプロ野球界での後輩に―。そんな日が来ることを、白仁田監督は願ってやまない。
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