「阪神タイガースジュニア2021」とそのサポートをする人々
■キャプテンと副キャプテン
8月のセレクションを経て16人で結成した「阪神タイガースジュニア2021」は、練習や試合を重ねて日に日に仲が深まり、キャプテンと副キャプテンを中心に結束力を高めている。
キャプテンは赤司海斗くん、副キャプテンは大西奏輔くんと有本豪琉くんだ。任命した白仁田寛和監督はこう語る。
「海斗は目配り、気配りが一番できている。チームのこともしっかり見れているし、わからないこともしっかり聞いてくる。よく動いていて、周りを見ることもできている。声もよく出る。それでキャプテンに決めた。チームをどんどん引っ張っていってほしい。
副キャプテンを置いたのは、海斗ひとりだと荷が重いだろうなというのもあるし、奏輔と豪琉は二遊間を組んでいて連係もとれているし、よく話しているのも見ていたので、そのあたりを考慮して二人にした。海斗を助けてほしい」。
この3人が中心となって、チームを牽引している。
赤司海斗 キャプテン
自チームでもキャプテンを務めている赤司海斗くんは、「最初からキャプテンをやりたかったので、監督から指名されたときはもう嬉しくって、大きい声で返事しました」と笑顔を見せる。
責任も重いが、「目立ちたがり屋で、チームを引っ張ることが好き」と言いきれるところが頼もしい。「仲間がエラーして落ち込んだり、困っていたりしたら、『どうしたん?』と聞いてあげたい」と積極的に声をかけるようにしているという。
本大会でタイガースジュニアがいまだ優勝経験のないことは把握しており、「絶対に優勝する気持ちで、チームを優勝に導きたいです!」と威勢がいい。
大西奏輔 副キャプテン
大西奏輔くんはこれまでキャプテンや副キャプテンなどの経験はないそうだ。だから監督から任命されたときは、ただただ「ビックリした」という。
「声でもプレーでも引っ張っていけるような副キャプテンになりたい」と意気込み、とくに「声」に関しては意識して出している。
「エラーした人とかにも『次!次!切り替えて!』と声をかけています」と試合中はショートの位置から、また、試合以外のときも「みんなと会話するようにしている」と、常にチーム全体を見渡している。
有本豪琉 副キャプテン
有本豪琉くんも“役職”に就くのは初めてだ。「海斗が引っ張っていくので、そのサポートをしようと思っています」と意気に感じている。
試合中、有本くんの声もよく響いている。セカンドに就いているときはもちろんだが、ランナーコーチに立つときも声を張り上げている。
「ピッチャーを助ける声をかけたりしたい」と、ピンチの場面ではマウンドにも駆けつける。
大西くんともども「日本一になる」と誓いを立てている。
■福田伸綱トレーナー兼マネージャー
さて、ジュニアたちがのびのびと野球をするためには、力強いサポートが欠かせない。ジュニアチームのトレーナー兼マネージャーの任務を担っているのは、タイガースアカデミーでトレーニングコーチを務める福田伸綱さんだ。
昨年から担当しているが、現場でトレーナーとして選手を診るだけでなく、マネージャーとして練習の補助、練習道具の運搬や練習場所の確保、首脳陣への伝達、日程など活動スケジュール作成ほか、多岐にわたる調整作業を行っている。
ジュニアに対して、「やはりまだ小学生なんで、自分の体の状態を的確に言語化するのは難しい。まぁ大人でも難しいとは思いますけど。たとえば痛みに対して、何をするときに痛むのか、どういうふうに痛むのか、など詳しく言語化するのはなかなかできない。なので、なるべくそういうのを言いやすい雰囲気を作ってあげたいと思っている。それと、コミュニケーションをとりながら表情を気にしつつ、いつもと違うなとか感じるようにしている」と、日々の変化を逃さないよう観察を怠らない。
「子どもたちには自分の体に興味を持ってもらうのが一番大事だと思う。もちろん親御さんたちとも話をしています」。
未来あるジュニアたちの体はたいせつに守っていきたいと考えている。
■頼もしい専門学生たち
また、球団と大阪リゾート&スポーツ専門学校の関わりで、2018年から同校の生徒を実習生としてジュニアの現場で受け入れている。その生徒たちをとりまとめるのも福田さんの役割だ。
「なるべく僕が手を出すんじゃなくて、現場の経験の場として提供してあげたいので、ウォーミングアップとかはできる限り任せるようにしている。やってみて『もっとこうしたほうがいいんじゃない?』と、僕が言える範囲で言わせてもらうなど、フォローはするけど」。
活動当初は福田さんがしっかり見てフィードバックもしていたが、今では安心して任せているという。福田さんもジュニア以外の現場も忙しく、彼らの存在を頼りにしている。
「本当によくやってくれている、主体的に。自分たちでできることを見つけてやろうという姿勢が見えるし、意欲的な子が選ばれてきているんだろうなっていうのは感じますね、去年も今年も」。
4人の実習生が1日2人ずつ練習や試合に来て、ジュニアたちをサポートしてくれている。彼らは練習や試合での不慮のケガなどに対する応急処置はもちろん、ウォーミングアップやダウンなどのメニューを考え、その指導も行っている。
では、その大阪リゾート&スポーツ専門学校の実習生たちを紹介しよう。
小学生のときは外野手で中高は内野手と、自身も野球経験者だという岡本卓朗さんは、高校野球の監督になるのが夢だ。
「教員免許を取りたくて大学を目指していたけど、落ちてしまって…。どうしようか考えているときにこの学校を見つけた。『野球トレーナーコース』に興味がわいたのと、通信でも体育教師の免許が取れるので、一石二鳥でいいかなと思ってこの学校を選んだ。今、並行して勉強しています」。
練習中も打球捕など進んで引き受け、人数が足りない紅白戦などは延々と守備に就くこともある。野球が大好きなのが窺える。
「学校で実習はあったけど、アップとか実際に指導することはなかったので、そういうのをやる機会があって、いい経験になっている。小学生にうまくできたら、それより上の人にもうまくできると思う。学校の勉強でインプットはちゃんとやってたんで、習ったことの中からどれを使うかというのを考えてやっている」。
習ったことが活用でき、また学校の実習だけでは得られない経験に、大きな手応えがあるようだ。
「難しいことをし過ぎないというのと、集中するような声かけは意識しています」と小学生に合わせて、さまざまなことを考慮してやっているという。
高校野球の監督になっても、きっとこの経験は活きるだろう。
上田涼さんはこれまで「野球には触れたことがなかった」と、高校生のときはサッカー部のマネージャーをしていたそうだ。
「保育士になりたかったけど、マネージャーをしてみてスポーツをしている人のサポートをするということが楽しくて。人のお世話をするのが元々好きで、そういうスポーツトレーナーという職業があるって知って、この学校に入りました」。
将来、子どもや高齢者と関わる仕事がしたいと望んでいる。だから、この現場実習の話にも喜んで飛びついた。「対応が難しい子もいれば、めちゃくちゃ仲よくなれる子もいて、みんな個性がそれぞれある」と、実際に小学生たちと触れ合える現場にとけこんでいる。
「毎回同じメニューだと、小学生なので飽きてきたり慣れが出てきて気が緩んでしまうこともある。なので鬼ごっことか周りと競争して高め合うようなメニューを、岡本くんを中心に作っています」。
負けず嫌いな子どもたちの性格をうまくくすぐりながら、飽きさせずに取り組ませる工夫をしているという。
「福田さんの対応とか見ていると、やっぱり違うなって思う。まだまだ勉強不足だなっていう面がある。でも、こうしてそれを知れたのは大きいですね」。
今後の勉強に役立てていけそうだ。
松田依舞さんは昨年の担任の先生に「野球が好き。野球関係の仕事がしたい」とずっとアピールしていた。それを覚えてくれていた先生から推薦され、「絶対に行く!」と意気込んで参加した。
「小さいころから野球が大好きで、最初は高校野球ばっかり見てたけど、気づいたらずっと阪神タイガースを見ていて…」という虎党だから、ちびっこ虎戦士たちにも自ずと熱が入る。
「いずれみんな高校球児として甲子園に出場したり、タイガースじゃなくてもプロ野球で活躍するんかなと思うと、今、見ていてすごく楽しい」。
ウキウキとジュニアの現場に通う。ただ楽しいばかりではない。個性豊かなジュニアたちと対峙し、どうすればいいか頭を悩ませた時期もあった。「最初はやっぱり選手との距離がわからなくて、こっちが距離を詰めすぎても嫌な子もいる。いろんな子がいるので、コミュニケーションをとるのにすごく悩みました」と、距離を測りかねていた。
しかし時が解決し、「向こうからしゃべりかけてくれる子がいて、そこからいろんな子としゃべれるようになった」と笑顔を見せる。
「卒業したらパーソナルトレーナーになるんです。就職するジムでは小学生から高齢者まで見るので、そこで活かしていきたいと思う」。
大きな経験になっている。
プロ野球のトレーナーを目指しているという倉田奈緒さんは、同校がジュニアの現場に実習生を出していることを、以前から知っていたという。「オープンキャンパスでこれがあることを知って、これに来たくて、この学校に入った」と、強い意思をもって来ている。
「責任感とか、やはり座学だけじゃトレーナーってできないなって思う」と、現場の重要性を痛感しているそうだ。
「1年生で習った基礎を一番使っています。応急措置とか、やり方はわかってても、いざとなると『ほんまに合ってるんかな』とかパニックになったりする。そういうのは現場に出ないとちゃんと学べないとわかった。命に関わることもあるし」。
首脳陣はみな、元プロ野球選手である。「いろいろ経験されていて、よく知っておられるんで、教えてもらったりする」と、アスリートから学べるというのも貴重な経験だ。
「実習でもこの年代の子につくことってあまりないし、思春期っていう特別な時期のトレーナーとして関われたことは、ここでしか学べないことがたくさんあって、ほんとに参加してよかったと思う」。
将来の夢であるプロ野球のトレーナーへの第一歩を今、踏み出している。
■ひとつの大きなファミリー
そして、もっとも力強いサポーターは保護者のみなさんだ。土日の休みはジュニアたちに捧げている。毎週末の練習や試合の往復だけでも大変だ。なんと香川県や和歌山県から通うメンバーもいる。小さいきょうだいがいる家庭は、もちろん一緒に来てお兄ちゃんを応援する。
現場に着いたらお父さんたちはグラウンド整備、試合中の審判、ボールボーイ、お母さんたちは写真撮影にスコアの記入などと、みなさん大忙しだ。これまでスコアをつけたことがなかったというお母さんも、“ベテラン”のお母さんに習ってつけ始めるようになり、「より楽しくなった」と一生懸命にペンを走らせている。
撮影した写真はどれも愛情にあふれていて、ジュニアたちはみんないい表情をしている。その写真はインスタグラムにもアップし、多くのタイガースファンにも閲覧されている。(阪神タイガースジュニア2021 インスタグラム)
16人のメンバーの保護者やきょうだいたち、みんな仲がよく、ひとつの大きなファミリーのようだ。
■「挑・超・頂―挑む超える頂へ―」
ジュニアに関わるすべての人々が一枚岩となって、今月末の本大会「NPB12球団ジュニアトーナメント」に臨む。初戦は“伝統の一戦”である読売ジャイアンツジュニアとの戦いだ。
阪神タイガースの2021年のスローガン、「挑・超・頂―挑む超える頂へ―」を今年最後にタイガースジュニアが実践し、頂へ上りつめる。
(表記のない写真の撮影は筆者)