法律できたから「食べ物を捨てるのは違法」?ものづくりを誇る日本の盲点とは?捨てるべきは食べ物ではない
2019年5月24日、日本初の「食品ロス削減推進法」が成立した。
成立したのはいいけど、内容がよくわからないという人も多いだろう。
2018年6月に法律案が全文公開されたが、2016年2月3日、世界初の食品ロス削減に関する法律を成立させたフランスのものと比べると、具体性を磨いていくのはこれからだ。5月24日の成立から半年以内に施行される。
朝日新聞が、5月24日、「食べられるのに捨てる」は違法に 食品ロス削減法成立という見出しで記事を出していて、ちょっと驚いた。もし見出しの通りなら、この国では、おそらく数千万単位の違法者と違法企業が出るだろう・・・。
今回の法律は、食品ロスの削減を推進するための法律である。食べられるものを捨てたら即、違法、ではない。ただし、どの立場の人も、食品ロスを減らすための責務を持つ。
「モノを作っちゃいけない 人を作るぐらいに思わないと」
ドキュメンタリー映画の「地球交響曲(ガイアシンフォニー)」。
映画の事務局から、日めくりカレンダーを贈って頂いた。
第一番から第八番までの登場者が語った名言を、写真入りで紹介している。
その中に、第八番に登場した、能楽師の梅若玄祥(うめわか・げんしょう)氏の言葉があった。
ハッとした。
筆者が、食品メーカーに勤務していた14年5ヶ月のうち、後半で思っていたことと似ていた。
日本全体を見渡すと、毎日、メーカーの新製品が発売される。
でも、生き残るのは、ほんの一部だけ。
1000出して3つしか残らないとも言われ、「千三つ」という言葉もある。
産んでは殺し、産んでは殺していく。
メーカー勤務の途中から、日本全体で日々発売される新製品の多さを目の当たりにし、「もし製品が人だと思ったらこんなにバンバン出さないよね」と思うようになった。「終売(しゅうばい)」といって、製品そのものがなくなることも多い。人なら、殺されるようなものだ。
新製品みたいな「改訂品」も次から次へと出てくる
新製品は、小売(コンビニ・スーパーなど)の本部商談で、採用されやすい。
消費者も、「新」という文字に弱い。
だから、メーカーは、新製品を出したい。
とはいえ、新製品の開発には莫大なコストがかかる。
だから、コストや労働力をかけずに出せる「改訂品」が出てくる。
容器のデザインをちょこっと変えただけ。
流行りの成分を入れただけ。
まだ食べられるにもかかわらず、今まで出ていた商品は「旧品」となり、「新製品」との自然切り替え、もしくは商品棚から引き上げて返品→廃棄となる。
本気の新製品や改訂品もある
もちろん、本気の新製品や改訂品もある。
大塚製薬株式会社は、出す新製品は少ない。
その代わり、いったん発売したら、大事に育てていく。
発売したものに小さな改善を加え、より、いいものを目指す。
最近では、食品ロスを減らすための容器包装の改良や、製造方法の変更などによる「改訂品」も多い。
キユーピー株式会社が、マヨネーズの賞味期限を、7ヶ月から12ヶ月まで延ばしたのもその一例だ。製造方法や容器包装を改良することで、5ヶ月の賞味期間の延長を実現した。
だが、市場に出てくる新製品や改訂品が、すべて、そうとは言えない。
売上が落ちてきたから、いわゆる「テコ入れ」をするためのデザイン刷新などもある。
こうして、さまざまな理由や背景の「新製品」や、「新製品みたいなもの」が出され、古いもの(旧品)が捨てられる。
旧品を、安価に売るお店やサイトもある。だが、全量が売り切れるわけではないし、ブランドイメージが落ちたり、変なところに自社商品が出回ったりするのを恐れて、そのようなところで販売しない企業も多い。つまり、廃棄する。
次から次へとモノを生み出す姿勢そのものを見直す時期では?
筆者は、最初の就職先も日用品メーカーだったし、退職後に参加した青年海外協力隊を経て中途入社した企業も食品メーカー。ものを作る立場であるメーカー勤務の職歴がキャリア上で最も長い。コンビニやスーパーで食品を見るのも大好きだ。より良いものを、と、向上心を持って取り組む姿勢も素晴らしいと思う。
だが、日本を出て海外へ行ってみると、日本ほど新製品を多発していないことはすぐわかる。
日本がG7(先進7カ国)中、1970年から50年近くも労働生産性で最下位なのは、過剰品質を求め過ぎていることも一因ではないだろうか。そこまでお金と人々の時間を費やす必要があるのだろうか。必要あるものもあるだろうが、それと引き換えに、何かを失ったり犠牲にしたりしてはいないか。
モノの多さだけではない。
厳格すぎる規格もそうだし、コンビニなどのサービスも同様だ。
月曜日の早朝、電車の座席に座る人が、ほぼ全員、うなだれるほど眠っていることがある。
2020年のオリンピック・パラリンピックで「おもてなし」と言っているが、来日した人は、満員電車で月曜の朝から頭を垂れて睡眠にふける日本人の姿を見て、どう思うのだろう。来日者に見せるのは外向きの顔だけでない。われわれの日常がさらされるのだ。
心身のゆとりがないと、人に優しくできない。
来日して困っている人を助けることもできない。
梅若玄祥氏が言うように、「モノを作らないで人を作る」ぐらいの気持ちで、ものづくりに臨んではどうだろうか。
そのためには、小売もメーカーも、”もっと、もっと”と、「常に右肩上がりのグラフ(売上)」を目指す姿勢から見直す必要がある。2019年1月、農林水産省が小売業界に出した通知でも、「前年実績で恵方巻きを販売する」スーパーをお手本にしていた。身の丈で商売する、ということだ。
だが、結局、大手企業は、”もっと、もっと”の「前年増」の売上を目指し、大量の恵方巻きが廃棄されていた。
これからの時代、捨てるべきは、食べ物ではなく、強欲さではないか。
われわれ消費者も、新しいものや便利さを享受する裏側にある、目に見えない誰かの犠牲にも、こころを配れるような優しさを持ちたい。
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