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セブンイレブン本部「値引き禁止」で公取から排除措置命令 あれから15年経ち「値引き推奨」

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:ロイター/アフロ)

2024年4月20日、日本経済新聞のトップ一面に「セブン、本部主導で値引き推奨 食品ロス削減へ方針転換」という記事が掲載されている(1)。「イブニングスクープ」として、4月19日18時に日経新聞の有料会員限定向けに出された記事だ。

同じく4月20日早朝、読売新聞の同様の内容の記事(2)がYahoo!ニューストップページに掲載された(3)。

(2024.4.20.6:22am時点のYahoo!ニューストップページを筆者スクリーンショット)
(2024.4.20.6:22am時点のYahoo!ニューストップページを筆者スクリーンショット)

食品ロス削減の観点から、コンビニ本部が値引きを推奨し、日持ちの短い弁当やおにぎりを廃棄せずに売り切ろうとするのは良いことだ。

「値引き販売」は何十年も前から全国のスーパーがやっている

ただ、弁当やおにぎりといった日持ちしない食品の値引き販売は、何十年も前から全国のスーパーが当たり前に取り組んできたことだ。あるスーパーの社員は「廃棄は悪 売変(売価変更)してでも売り切る」として売り切る努力を語っている。今さら「値引き」とは。日経一面に載せるほどの話なのだろうか。

とはいえ「食品ロス」より「機会ロス」を重視してきた最大手コンビニ本部がついに値引き推奨、というのは、ある意味、日経一面に載るビッグニュースなのかもしれない。

セブン-イレブン加盟店オーナーに配られる「セブン-イレブンファミリー」の2015年9月号の特集は「機会ロスをなくそう。」(オーナー提供写真)
セブン-イレブン加盟店オーナーに配られる「セブン-イレブンファミリー」の2015年9月号の特集は「機会ロスをなくそう。」(オーナー提供写真)

セブン本部は弁当の値引きを禁止し2009年6月公取から排除措置命令

株式会社セブン-イレブン・ジャパンは2009年6月22日、公正取引委員会から排除措置命令を受けた(4)。独占禁止法第19条(不公正な取引方法 第14項 優越的地位の濫用 第4号)の規定に違反する行為をおこなっているというのがその理由だ。なぜか。

加盟店の一部オーナーが、弁当やおにぎりなど、いわゆるデイリー商品の見切り販売をおこなっているのを取りやめるようにさせたためだ。

このオーナーたちは、食品を捨てたくない、食品ロスを出したくないという思いで、見切り販売をしようとした、あるいは続けてきた。食品に携わる者として、まっとうな行為だと考える。

だが、本部はそう考えてこなかった。売れ残り食品に関する負担は、公正取引委員会の排除措置命令を受ける以前は、100%、加盟店の負担だった。

公正取引委員会からの排除措置命令を契機に、加盟店との契約内容を一部見直しということで、現在では、同意を得られた加盟店との費用負担は、本部が15%だけ持ち、残りの85%は加盟店負担ということになっている。

販売期限で処分される食品(オーナー提供写真)
販売期限で処分される食品(オーナー提供写真)

なぜ公取の排除措置命令から15年も経って「値引き推奨」なのか

2009年6月22日、公正取引委員会から排除措置命令を受けた当日、株式会社セブン&アイ・ホールディングスは「当社子会社に対する公正取引委員会からの排除措置命令について」というリリースを出している(5)。その中で、次のように食品ロス削減を追求していくと述べている。

食品廃棄につきましても大きな経営課題として捉えており、商品の需要予測の 精度を高めることにより無駄なロスをいかに少なくするかを追求する一方、食品廃棄の リサイクル活動を推進する等、さらなる対策を実施してまいる所存です。

本来なら、この時点から値引き推奨すべきだった。だが、2009年の排除措置命令から15年経った今、なぜようやく「本部主導で値引き推奨」なのか。

複数の要因があると考える。

たとえば2020年9月2日、公正取引委員会が、大手コンビニ5社を対象に調査した結果、コンビニ一店舗あたり年間468万円(中間値)に匹敵する食料を廃棄していると発表した(6)こともあるだろう。

でも、それなら2020年から値引き推奨すればよかったのではないだろうか。

もう一つの裏の理由があるが、これについては当事者に公開可能かどうかを確認してから記事に書こうと思っている。

2024年4月8日、セブン-イレブン・ジャパンの永松文彦社長は、社内向けの会議で、食品ロス問題への対策などを考えて一年間かけてテストしてきた「エコだ値」値引きシールが好評で、多くのオーナーから賛成の声を受け取ったと話している(7)。

このテストは直営店とフランチャイズチェーンの約220店舗で実施し、店舗の廃棄額が1割減り、1日当たりの売上額が増える結果となった(1)。前述の永松社長によれば「エコだ値」のテストを一年間してきたとのこと。

これまで捨てていたものを捨てずに値引き販売すれば廃棄量が減るのは当然のことだ。おまけに廃棄コストをかけずに少しでも売り上げに貢献するのだから売り上げも伸びる。一年間もかけてテストせずとも予測できる話だ。だが「セブンイレブンは食品ロス削減にしっかり取り組んでいる」と世間に対してアピールしなければならない。セブン&アイ・ホールディングスは、米国の”物言う株主”であるバリューアクト・キャピタルから2023年に経営陣の退任を求められたこともあった(8)(2023年10月、バリューアクト社は大株主からは外れた)。

これまで長年、値引き販売をしてきたセブン-イレブンのあるオーナーに、今回の「本部値引き推奨」について伺ったところ、「何を今さら、何もなかったかのように….これまで本部は、見切り販売するオーナーに対し、(本部のやり方を賞賛する)黎明期の重鎮オーナーたちを使って圧力をかけ、われわれの悪口を吹聴してきた。最初に見切り販売を始めた”ファーストペンギン”に謝ってほしい」と語った。

これも複数の関係者から聞いた話だが、セブン社内では「食品ロスの井出留美に気をつけろ」という話が出ているらしい。「Yahoo!に書かれてしまうぞ」と。筆者がヤフー社員とともに取材にいった際も、厳重に防御をしたとのことだった(9)。録音も写真も禁止、アポイントを取ろうとしたら電話をするたびに担当者が7回変わり、ファミリーマートとローソンは電話ですぐにコメントをいただけたが、セブンは同じ内容の取材で「本部に来るように」となり、2ヶ月かかった。真摯に食品ロス削減に取り組んでいるのなら、取材されることに対し「気をつけろ」という必要があるのだろうか。グローバル食品企業で広報を14年5ヶ月つとめていた筆者は不思議に思う。

食品を捨てないでとことんまで売り尽くすことは食品関連企業にとって当たり前の話だ。今回の日経の記事を書いた記者も、セブンに頼まれたからかはわからないが、これまでの経緯をきちんと調べてから書いてほしい。

前述のセブンオーナーは、「どうせ時間がくれば値引きセールすればいいんだから大量発注するように。揚げ物もどんどん作れ」と指示を受けているとのこと。食品ロスより「機会ロス」を重視してきた最大手コンビニが、今度こそ「やってるふり」のパフォーマンスに終わらないことを祈っている。

参考資料

1)セブン、本部主導で値引き推奨 食品ロス削減へ方針転換(原欣宏、日本経済新聞、2024/4/19)

2)セブン-イレブン、おにぎりや弁当の「値引き」タイミングを本部が通知へ…食品ロス削減狙い(読売新聞、2024/4/19)

3)セブン-イレブン、おにぎりや弁当の「値引き」タイミングを本部が通知へ…食品ロス削減狙い(Yahoo!ニュース 2024/4/19)

4)株式会社セブン-イレブン・ジャパンに対する排除措置命令について(公正取引委員会、2009/6/22)

5)当社子会社に対する公正取引委員会からの排除措置命令について (2009/6/22、セブン&アイ・ホールディングス)

6)(令和2年9月2日)コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査について(公正取引委員会、2020/9/2)

7)関係者談話による

8)勃発!「セブンvs物言う株主」委任状争奪戦の行方 バリューアクトの株主提案にセブンが徹底抗戦(田島靖久、東洋経済オンライン、2023/5/15)

9)販売期限切れの弁当はどうなる?コンビニオーナー座談会でわかった「寄付は絶対しない」の理由とは(井出留美、Yahoo!ニュースエキスパート、2017/10/13)

参考
冒頭のYahoo!転載記事に関する筆者コメント

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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