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「値引き推奨」のセブンイレブン本部、公取の排除措置命令を受けた15年前は「値引き中止推奨」していた

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:ロイター/アフロ)

2024年4月24日に放映されたTBS Nスタは、セブン-イレブン本部が食品ロス削減に向けて「エコだ値」と名づけた値引きを推奨、客も「(食品ロス削減に)貢献できて嬉しい」とコメントした、という内容だった(1)。

番組の動画(2)もYouTubeにアップされており、このコメントを読むと、一般の人がどのように思っているかがわかる。

「30年間食品廃棄しつずけ(原文ママ)、もったいないから値引きで売らせてくれというオーナーを叩き潰してきて、今更なにをw」

「前に加盟店のオーナーが値引きシール貼ったらセブンの本部が「値引きはやめろ」と圧力をかけてたのにな。あれから15年経ったけど、今は手のひら返して値引き推奨か。当時のオーナーは今どんな気持ちなのかね。」

「以前、見切り販売やってたフランチャイズ店を契約解除したり、嫌がらせしてたよね?みんな覚えてるよ」

大手コンビニ本部は、コンビニ会計といって、廃棄した商品の仕入れ値を原価に含ませておらず、廃棄商品の原価の80%以上を、本部でなく加盟店が負担するケースが多い。値引きして売るより廃棄した方が本部は取り分が大きく、捨てても本部は損をしない会計システムになっている。

セブン-イレブン本部は、見切り(値引き)を禁止していたことで、2009年6月22日、独占禁止法の優越的地位の濫用にあたるとして公正取引委員会から排除措置命令を受けた。

それよりもっと以前から、見切りによって食品ロス削減を目指す行動を起こし、訴え、周囲から圧力をかけられていたオーナーたちは、今どう思っているのだろうか。

オーナーの一人は「何を今さら」「何もなかったかのように」「偽善だ」と憤る。そのオーナーが、セブン-イレブン本部が加盟店オーナー向けに配布している冊子『セブン-イレブンファミリー号外』(2009年8月4日)(3)を見せてくれた。

セブン-イレブンファミリー号外 2009年8月4日号 オーナー撮影
セブン-イレブンファミリー号外 2009年8月4日号 オーナー撮影

タイトルに「お客様の期待に応える品揃えを実現するために ―見切り販売を行い、中止されたオーナー様の生の声を特集―」とある。

中を開くと、全国のオーナーが、いかに値引き処分は恐ろしく、害になることかを謳っている。たとえば次のようなコメントが並んでいる。

『私が「値下げ処分」の恐ろしさを実感したのはその後です。(中略)廃棄が出そうな時だけ臨時に値下げ販売をするつもりでも、お客様から見ると、いつも値下げ販売をする店という印象をもたれてしまうのですね』

『値下げ処分は、長い目で見れば商売の「害」』

『私が、ほんの一時であれ値引き販売したことで、セブン-イレブン全体のイメージを損なったのではないかと、近隣のお仲間の皆さんに対しても、たいへん申しわけなく思っています』

『値下げは、商品価値を損なうということがよく判りましたので、今後値下げする気持ちは毛頭ありません』

『見切り販売に対するお客様の反応は冷たく、見切り販売は、かえってお客様のロイヤルティーを失ってしまうと実感しました』

『当店は固定客が多く、毎日のように幕の内弁当を買ってくださるお客様がいらっしゃいます。このお客様が、10分後に別のものを買いにみえた時に、その幕の内弁当が200円引きで売られていたら損をした気持ちになるでしょう。大切なお客様を失うことになる値引き販売はできません』

『セブン-イレブンチェーンの一員として、他のオーナーのお仲間に迷惑のかかることは絶対にしてはいけないと思います』

『デイリーの見切り販売を行えば、いつも欲しい商品や新しい商品を楽しみに購入していただいている常連のお客様を裏切ることになりますから、私には到底できません』

などなど。

そして本部からのコメント「上記のオーナー様と同様に、見切り販売を行い、中止されたお店は多数に上ります。」と書かれている。コメントのところどころに「縮小均衡に陥る」とオーナーが言った言葉が太字にされている。いかに見切りが悪徳行為かということが、全国のオーナーの意見によって強調されている。

2024年4月24日に放映されたTBS Nスタでは、セブン-イレブン・ジャパン オペレーション本部の矢島弘樹副本部長が『(見切り品を)買っていただいたら「ご協力ありがとうございました」という接客で迎えたい』と話している。

Nスタはスタジオで、食品ロス削減に対するセブン-イレブンの取り組みとして、2020年からは販売期限が近い商品にポイント5%付与のシールを貼り、2021年からは「てまえどり」を呼びかけ、2024年3月からは手巻おにぎり5種の消費期限を平均で約8時間延長させたと褒め称えた。

2024年4月24日に放映されたTBS系列Nスタのワンシーン、YouTubeを筆者がスクリーンショット
2024年4月24日に放映されたTBS系列Nスタのワンシーン、YouTubeを筆者がスクリーンショット

この番組は、今までの経緯をきちんと調べているんだろうか。それとも、企業に言われるがままにアピールしているのだろうか。

15年前、いや、もっとそれ以前から、「値引きしてでも売り切る」という正しい行為をしていたセブン-イレブン・ジャパンのオーナーたちと、その行為を禁じ、2009年に公正取引委員会から排除措置命令を受け、それ以降も食品ロス削減より本部の利益を優先して積極的に値引きをしてこなかったセブン-イレブン・ジャパン本部。当時から正しい行為を続けてきたオーナーに謝罪し、その行為を評価すべきではないのか。これまでのことをなかったことにして、「会社は今までもこれからもいいことをしています」「規格外野菜でスムージーを作って食品ロスを減らしています♪」(4)とパフォーマンスしても、一般の人がその企業姿勢を長期間見て判断してきたことはYouTubeのコメントを読めばよくわかる。

コメントの一つに「コンビニ本部は地球環境よりもまずは従業員を大事にしなさい。従業員を大事にできないのに、客とか地球環境とか大事にできるわけないと思う」とあった。

参考資料

1)目印は「エコだ値」シール、セブン-イレブン“見切り品”値引き拡大へ 食品ロス削減へ…客「貢献できて嬉しい」【Nスタ解説】(TBS Nスタ、2024/4/24)

2)目印は「エコだ値」シール、セブン-イレブン“見切り品”値引き拡大へ 食品ロス削減へ…客「貢献できて嬉しい」【Nスタ解説】(TBS Nスタ、動画、2024/4/24)

3)加盟店オーナー向けに配布している冊子『セブン-イレブンファミリー号外』「お客様の期待に応える品揃えを実現するために ―見切り販売を行い、中止されたオーナー様の生の声を特集―」(2009年8月4日)

4)サステナビリティアクションブック2024 未来世代の想いに応え、持続可能な社会を皆様と創りたい(セブン-イレブン・ジャパン)

参考

セブンイレブン本部「値引き禁止」で公取から排除措置命令 あれから15年経ち「値引き推奨」(井出留美、2024/4/20)

セブンイレブン「値引き推奨」昨年も4月に日経記事「納品期限緩和」5月株主総会 BBCの取材は無関係か(井出留美、2024/4/23)

Yahoo!編集部の校正ご担当者の方へ。タイトルは50文字までしか入れることができないため「セブン-イレブン」のハイフンを省略しております。(今回の記事、前回2024/4/23の記事、前々回2024/4/20の記事、すべて同様です)

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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