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セブンイレブン「値引き推奨」昨年も4月に日経記事「納品期限緩和」5月株主総会 BBCの取材は無関係か

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
コンビニ24時間営業 人手不足で曲がり角に(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

セブン-イレブン・ジャパンが2024年4月20日付の日本経済新聞一面で「本部主導で値引き推奨」と報じられた(1)。消費期限の短いおにぎりや弁当などを対象に、「エコだ値」と名付けた20円、30円、50円、100円の値引きシールを貼ることを本部が推奨する。ただ、値引きするかどうかは最終的に加盟店の判断だ。

食品ロス削減の観点から、消費期限の短い食品を、値引きしてでも売り切るのは良い取り組みだ。スーパーでは、何十年も昔からやっている。20円、30円どころか20%引き、30%引き、半額引きは全国のスーパーで見られる風景である。

そして、忘れてはならないのは、セブン-イレブンのオーナーの中には2000年代の初めから値引きして売り切ろうとしてきた人たちがいたことだ(2)。当時、セブン本部は値引きを禁止し、そのことが独占禁止法の「優越的地位の濫用」にあたるとして、2009年6月22日、公正取引委員会から排除措置命令を受けたということ(3)も覚えておかなければならない。食品ロスをなくそうとしてきたオーナーたちの行為を禁止していたということだ。

本部が値引きを禁じていたのは大手コンビニ特有のコンビニ会計がある。廃棄した商品の仕入れ値を原価に含ませない。廃棄商品の原価の80%以上を加盟店が負担するケースが多い。値引きして売るより廃棄した方が本部にとっては取り分が大きいし、本部は捨てても損をしない。公取の排除措置命令を受けてから15年も経って「食品ロス削減は重要です」「本部は値引きを推奨します」と言われても、当のオーナーたちは「なにを今さら」と憤るのは当然だろう。

セブンの「値引き」の取り組みは既視感がある。セブン-イレブン本部は消費期限の迫った食品を買うと、ナナコカードを持っている客に関してのみ5%のポイントを付与するという取り組みを始めていた(4)(5)。

この「エシカルプロジェクト」を始めたのは4年前、2020年5月である(6)。日本食糧新聞2020年4月22日付の記事では「セブン-イレブンは廃棄ロス削減として販売期限が迫った対象商品にポイントを付与する「エシカルプロジェクト」を5月から全国に拡大する」としている(7)。セブン-イレブンの顧客のうち、ナナコカードを持っている客は約2割に過ぎないという(オーナー談)。「エシカル」とは「倫理的な」という意味だが、ただの値引きに対して「倫理的」と名づけるとは大仰な印象だ。

2020年5月、セブン-イレブンが全国で実施をはじめた「エシカルプロジェクト」(筆者撮影)
2020年5月、セブン-イレブンが全国で実施をはじめた「エシカルプロジェクト」(筆者撮影)

日経、昨年4月にも「セブン&アイ、食品ロス削減へ納品期限緩和」の記事

筆者は日経を購読しているが、セブン関連の今回の記事(1)は違和感を感じた。値引きしてでも無駄にせずに売り切ろうとするのは食品に携わる者にとっては当たり前のことだからだ。長年、値引きを禁じていたのになぜ今さら?しかも日経トップ一面に?

前にもその違和感を感じたことがあった。2023年4月3日には「セブン&アイ、食品ロス削減へ納品期限緩和、中小波及も」という記事を出している(8)。だが、食品ロス問題に関わってきた人間なら記憶していることだが、農林水産省と食品業界がワーキングチームを組んで納品期限の緩和に動き出したのは今から12年も前の2012年のことだ。そのワーキングチームのメンバーにはセブン&アイ・ホールディングスの傘下にあるイトーヨーカ堂が入っている。知らなかったとは言わせまい。

日経は2019年7月5日付の記事でも「セブン&アイ、全加工食品で納品期限を緩和 まずはカップ麺」と報じている。4年前と同じ話を、また日経でアピールしているのは明らかに違和感がある。筆者もこのことを指摘した記事を書いた(9)。ちょうどこのとき食品業界向けに食品ロスの講演をしていたが、聴講者である食品関連企業からも「なんで今さら」と同様の声があがっていた。

販売期限で処分される食品(オーナー撮影)
販売期限で処分される食品(オーナー撮影)

「いつも4月」毎年5月の株主総会の前

セブン-イレブンの関係者は「5月の株主総会に向けてのイメージアップ戦略」ではないかと語る。セブン&アイ・ホールディングスの大株主だった米国投資ファンドのバリューアクト・キャピタルは、2023年10月に大株主からは外れたが、「もの言う株主」として知られている(10)。2024年4月18日には、セブン&アイ・ホールディングスがスーパーマーケット事業の株主上場に向けた検討を始めたことに対し「賛同する」とコメントを発表した(11)。

今回、日経の記事で「値引き推奨」と報じられたのが2024年4月。

前回、日経で「納品期限緩和」と報じられたのが2023年4月。

エシカルプロジェクトについて日本食糧新聞の記事が出たのが2020年4月。

いつも4月。

たまたまだろうか。5月の株主総会前の4月に施策をアピールする目的か。

あるマスメディアの記者は「トヨタとセブンには斬り込めない」「巨額の広告費を受け取っているから」と話している(2023年談話)。だからといって、ただの値引きの話を一面に持ってくる忖度はどうなのだろう。

筆者はセブンイレブンで不買運動をしているわけではなく、日頃から買い物もしている。ただ、願っているのは、食品ロスを減らしているようにパフォーマンスやアピールで「やってるふり」をするのでなく、やるなら本気で減らしてほしいということだ。公正取引委員会の調査によれば、大手コンビニ1店舗あたり年間468万円の食料を捨てている(12)。お金がもったいないし、環境にも悪いし、それだけお金があるなら福祉や医療や教育など、別のことに使うチャンスがある。なのにそれを失ってしまう。

日本は食料を38%しか自給できておらず、ウクライナから小麦が輸出できなくなったように、ひとたび戦争や紛争が始まれば必ずしも輸入できるとは限らない。もっと高い金額で買う他国に日本は買い負けるかもしれない。気候危機の影響で農産物や水産物がますますとれなくなってきている状況で、限られた貴重な食料を捨てている場合ではない。

セブンオーナーに配布される冊子、2015年の特集は「機会ロスをなくそう。」(オーナー撮影)
セブンオーナーに配布される冊子、2015年の特集は「機会ロスをなくそう。」(オーナー撮影)

2024年4月初旬、BBCはセブン-イレブン本部に取材

筆者は2024年3月、BBCで記事を書いているジャーナリストから食品ロスに関する取材を受けた。この記者は、2024年3月から2024年4月初旬にかけて、日本の大手コンビニエンスストア本部に食品ロスに関する取材をしている。筆者や大手コンビニ本部がBBCから取材を受けたという事実は、BBC記者に確認の上、公開してよいとの承諾を受けた。

2024年5月以降、日本の食品ロスに関する記事がBBCで報じられるだろう。筆者は取材を受けただけで、どのように報じられるかまでは把握していない。ただ、記者が大手コンビニ本部に取材した事実は知っていたので、日経が4月20日付のトップ一面で「セブン本部、値引き推奨」と報じたとき、「4月初めにBBCが取材したからだろうか」と一瞬思ってしまった。海外には「物言う株主」もいるし、海外メディアの報道をまったく気にしないというわけではないだろう。

だが、これまでの毎年の経緯と「いつも4月」の件を振り返ってみると、5月の株主総会の前だから(いまアピールしている)というのが最も符合するのかもしれない。読者のあなたはどう考えるだろうか。

参考情報

1)セブン、本部主導で値引き推奨 食品ロス削減へ方針転換(原欣宏、日本経済新聞、イブニングスクープ2024/4/19、朝刊一面2024/4/20)

2)セブンイレブン本部「値引き禁止」で公取から排除措置命令 あれから15年経ち「値引き推奨」(井出留美、Yahoo!ニュースエキスパート、2024/4/20)

3)株式会社セブン-イレブン・ジャパンに対する排除措置命令について(公正取引委員会、2009/6/22)

4)食品ロス削減のためエシカルプロジェクトを推進しています!(セブン-イレブン・ジャパン)

5)食品ロスの削減はできるか セブンイレブンの「エシカルプロジェクト」(金本裕司、朝日新聞SDGsACTION!、2020/10/23)

6)セブン「食品ロス削減」のプロジェクト、効果に疑問?ロス増の店も オーナー6人に聞いた

7)CVS6社決算、新型コロナで今期不透明 巣ごもり対応と加盟店支援並行(日本食糧新聞等3紙、2020/4/22)

8)セブン&アイ、食品ロス削減へ納品期限緩和 中小波及も(吉田啓悟、日本経済新聞、2023/4/3)

9)なぜ日経はセブン&アイの4年前と同じ件を今また報じるのか(井出留美、Yahoo!ニュースエキスパート、2023/4/5)

10)セブン&アイホールディングス取締役会への株主からの質問(バリューアクト・キャピタル、2023/4/2)

11)物言う株主 セブン&アイ方針に賛同(読売新聞 東京朝刊8面、2024/4/19)

12)コンビニエンスストア本部と加盟店との取引に関する実態調査について(公正取引委員会、2020/9/2)

参考:

『セブンが売れ残り商品の値引き開始へ 「エコだ値」シールで食品ロス削減・・・おにぎりなど鮮度が短い商品約300品で』(FNNプライムオンライン、2024/4/22)に対する筆者のオーサーコメント

『セブン-イレブン、おにぎりや弁当の「値引き」タイミングを本部が通知へ・・・食品ロス削減狙い』(読売新聞、2024/4/19)に対する筆者のオーサーコメント

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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