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「売れ残り試算16億円?」節分夜35店舗の恵方巻、閉店前で残り272本 税金投入され大部分が焼却処分

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
百貨店(デパ地下)では閉店5分前の時点で恵方巻きが272本残っていた(筆者撮影)

2019年1月、農林水産省が小売業界に対し、需要に見合う数を販売するよう通知を出した、恵方巻き。はたして2月3日夜、店舗が閉店する前にどのような状態になっているのか、首都圏の百貨店・スーパー・コンビニエンスストアを、19:30〜22:30にかけて合計35店舗を調査した。調査は、筆者と、学生食品ロス削減プロジェクトの大学生メンバー6名(記事末尾に詳細)で手分けして行った。

百貨店1店舗 閉店5分前で272本以上が残っていた

百貨店(デパ地下)は、寿司専門店、鮮魚売り場、弁当売り場、特設カウンター3箇所の、合計6箇所で販売されていた。売価は925円、980円、1,200円、1,380円、1,980円など(全て税抜き価格)、比較的高額なものが多かった。閉店30分前から閉店までの間に、50円引き、30%引き、半額など、売り場によって、見切りの金額が違っていた。全ての売り場で残っていたのは272本以上。山積みになっている特設売り場は、数えきれなかったので、これ以上あったと思われる。

圧倒されたのは、消費者の姿勢だ。半額シールが貼られた後は、売り場に群がっていた。

百貨店(デパ地下)の恵方巻き売り場に殺到する消費者(2019年2月3日、閉店8分前、筆者撮影)
百貨店(デパ地下)の恵方巻き売り場に殺到する消費者(2019年2月3日、閉店8分前、筆者撮影)

コンビニエンスストア 24店舗で264本 最多50本、最少ゼロ

コンビニエンスストアは合計24店舗で調査した。農林水産省の通知が出たことで気をつけたと見られ、24店舗中8店舗で残りゼロだった。

コンビニの店頭(2019年2月3日21時台、筆者撮影)
コンビニの店頭(2019年2月3日21時台、筆者撮影)

ただ、店頭になくてもバックヤード(裏の倉庫)にある場合もある。ベンダーと呼ばれる、コンビニに弁当・おにぎり・恵方巻き類などを納入している製造業者のところで廃棄が出ていることは、2月に食品リサイクル工場に入ってきた食品で確認できた。

売価は、364円、389円、420円、552円、554円など。

知人が、夜中12時過ぎた時点でコンビニで廃棄となった恵方巻きの写真のツイートを教えてくれた。

スーパー10店舗で1,048本、最多488本、最少ゼロ

スーパーは、合計10店舗で調査した。企業や店舗ごとに大きな差があり、最多は488本、最少はゼロ。2店舗が売れ残りゼロだった。だが、バックヤードから21時30分の時点で次々運んできている店舗もあったので、店頭にないからといって、バックヤードがゼロとは限らない。

売価は、398円、537円、546円、598円、638円など。20%引き、30%引き、半額などのシールが貼られていた。

最多の488本の店舗は、山積みで数えきれない部分もあったので、これより多いかもしれない。

あるスーパーでは21時の時点で488本あった(筆者撮影)
あるスーパーでは21時の時点で488本あった(筆者撮影)

全国のスーパー・コンビニ・百貨店で同様に残ったと試算すると売価試算は16億6406万円

経済効果の専門家からは怒られそうだが、これと同じ程度の売れ残りが全国で発生したとして、およその恵方巻きの売価を試算してみた。

スーパー10店舗で、586円(今回の調査平均価格、税込)の恵方巻きが1,048本残っていた。これを全国20,840店舗(全国スーパーマーケット協会によるスーパーマーケット統計調査事務局の調査、2018年12月末時点)に換算すると、218万4032本の恵方巻きが売れ残っていたことになる。この売価が12億7,984万2,752円。

コンビニ24店舗で、491円(今回の調査平均価格、税込)の恵方巻きが264本残っていた。これを全国55,743店舗(日本フランチャイズチェーン協会、2018年12月度調査)に換算すると、61万3,173本の恵方巻きが残っていたことになる。この売価が3億106万7,943円。

百貨店1店舗で、1,396円(今回の調査平均価格、税込)の恵方巻きが272本残っていた。これを全国219店舗(日本百貨店協会加盟店)に換算すると、59,568本の恵方巻きが残っていたことになる。この売価が8,315万6,928円。

合計すると、16億6,406万7,623万円となった。

経済効果に詳しい関西大学の宮本勝浩名誉教授の試算では、少なくとも10億2,800万円という金額が出ていた。これには百貨店の数字が加えられていないので、売り場のみに関してみれば、10億円から20億円程度の恵方巻きが売れ残りとしてロスになっているという数字は、現状には近いのかもしれない。

さらに、これに廃棄するための「廃棄コスト」がかかり、店頭に出てこない、コンビニやスーパー、百貨店のバックヤード(裏の倉庫)で捨てられるもの、製造業者の工場で出荷されずに捨てられるものが上乗せされる。

2月3日21時前の首都圏のスーパー(筆者撮影)
2月3日21時前の首都圏のスーパー(筆者撮影)

企業の営業部長、コンビニオーナー、アルバイトなど、販売関係者8名へのインタビューによれば・・・

学生食品ロス削減プロジェクトのメンバー5名が、首都圏のスーパー・コンビニの関係者にインタビューを実施してくれた。

大手スーパーの営業部長が、恵方巻きの廃棄率を「20から30%」と回答している。前述の、関西大学の宮本勝浩名誉教授の試算では4%の廃棄率と見積もっており、乖離の大きさにも注目したい。

大手スーパー営業部長

(どれくらい廃棄が出ているかについて、)詳しい数字については答えられない。ただし、例年だと、廃棄率は20-30%くらい。他の惣菜に比べて、特に多いわけではない。

すぐ売り切れるような量しか置かないと、売り切れたときにお客様に申し訳ないし、機会ロスが発生する。少し多めに置くのが、スーパーマーケット業界での鉄則。

ただし、下記2点のように、食品ロスが出ない工夫をしている。

1つは、夕方以降の値下げ。在庫数と、その時間以降の集客数を見て値下げをし、できる限り売り切っている。

もう1つは、生産量の調整。前年度の売り上げや、今年度の来客数などを考慮して、生産量を調整している。また、各店舗ごとの属性を見ながら、販売量を計算している。たとえば、駅に近い店舗は、平日は賑わうが、休日は郊外型店舗に比べて来客数が伸びない。だから、休日でも生産は増やしていない。

メディアでは、恵方巻きの食品ロスが大々的に報じられる。だが、恵方巻きだけが特別、食品ロスが多いわけではない。もちろん、食品ロスは問題だが、恵方巻きだけに問題意識があてられることに違和感がある。

大手コンビニ加盟店オーナーPさん

今年は店頭のもので売り切れなので、ロスは出なさそう。例年より少なめに入荷した。自分の店は、平日の方が人(客)が入るので、日曜ということもあり、平年未満。

世間の目は、やはり気になる。ロスは出ないように気をつけている。

(「本部から言われてますか?」という質問に対し)

いえ、本部からは厳しいことは言われてない。オーナーの権限なので、去年のデータをみて入荷してるだけ。ちゃんと売りたいというだけで。売れ残らないのでよかった。

大手コンビニ加盟店オーナーQさん

明日2月4日の午前2時が消費期限なので、それまでに売り切れないとロスになる。例年よりは、売れ行きがよかった。入荷も多目にしたが、去年(2018年)の方が売れ残った。今年は、店頭分で終わり。その分、恵方巻き以外の他の商品が売れなかった・・・。

大手コンビニ加盟店バイトRさん

夕方には10個くらいしかなく、18時くらいには売り切れてしまった。ご予約の分が多く、店頭販売は少なかった。今日2月3日を過ぎたら売れないものなので、まあ、悪くはないのかなあと思う。

大手コンビニ加盟店バイトZさん

21時前には売り切れた。数はわからないが、結構仕入れていた。

大手スーパースタッフYさん

消費期限が(2月4日の)午前1時なので、(その)1時間前(夜中の12時)には(残っているものを)引き上げちゃう。例年よりは多めで、(ロスを減らす)対策したけど、売れ残り出ちゃったって感じ。

大手スーパースタッフVさん

売れ残りがあったら貰おうと言ってたんだけど、今日は売れ残りが出なかったから。基本、売れ残りは出ないようにしてる。また電話頂けたら、詳しく説明する。

大手スーパーアルバイトLさん

去年(2018年)もこの時期にバイトをしていたが、大量に捨てられ、持って帰ることも衛生管理上できず、非常にもったいなかった。

2019年2月、食品リサイクル工場である日本フードエコロジーセンターに入ってくる恵方巻きのバラの状態(筆者撮影)
2019年2月、食品リサイクル工場である日本フードエコロジーセンターに入ってくる恵方巻きのバラの状態(筆者撮影)

処分される恵方巻きのすべてが豚のエサになってよみがえるわけではない

2019年2月3日付の毎日新聞の記事「余りすぎ…恵方巻きの材料、豚の飼料に まだ多い食品ロス」では、食品リサイクル工場である日本フードエコロジーセンターに運ばれてきた恵方巻きが豚の飼料になることが説明されている(映像記事)。

一般の方の中には「豚が食べてくれるなら別に余ってもいいじゃん」と言う人がいる。だが、処分された恵方巻きのうち、家畜の飼料としてリサイクルされるのは、ほんの一部だ。残りの大部分は、税金も使われて焼却処分される。

筆者も、「クリスマスケーキ 大量廃棄の実態 一日500kgがブタのエサに 家庭ゴミにはホールの半分が捨てられ」という記事を書いたとき、日本フードエコロジーセンターの高橋巧一社長に「全部が豚の飼料になるわけではなく、そのほとんどが税金を使って焼却処分されている。むしろそのことを伝えてもらった方が、現状に即している」と指摘して頂いた。マスメディアの方には、今後、その点を報道して頂きたい。

自分たちの税金が、大量の食べ物の焼却処理に使われ、食料品価格には廃棄コストが転嫁されている

日本フードエコロジーセンターの高橋社長が指摘する通り、年間2兆円に及ぶ税金がごみ処理費として使われている。食べ物のごみは水分と重量が多く、処理に時間とコストとエネルギーを膨大に費やす。

企業も廃棄コストを捻出するが、ごみ処理に使われる税金は、私たちが暮らす自治体に納めたものだ。

恵方巻きそれ自身が悪いわけではない。恵方巻き廃棄の映像や写真を見て「もったいない」と他人事のようにつぶやく間にも、365日、毎日、このロスは起こっている。欠品を許さない販売体制や、手作りではなく工業生産による必要数以上のロット製造になること、リサイクルせず焼却処分してしまうやり方など、構造的に食品ロスを生み出す仕組みになっていることを、一人ひとりが理解して、少しずついい方向に変えていきたい。

今回の調査を担当、学生食品ロス削減プロジェクトのメンバーの感想

今回の調査を担当してくれた学生食品ロス削減プロジェクトメンバーは6名。代表の本多将大(まさひろ)さんは、

実際にオーナーの方などに話を聞いてみると、やはり世間の声なども気にし始めていて、そのようなオーナーさん方は、売れ残りがないように、去年の売れ行きなどを参考に、できる限り売り切るということを心がけていることが印象的でした。徐々に、ロス削減に向けた動きが、ボトムアップ的に出てきているのかと、嬉しくなりました。

出典:本多将大さんの言葉

と語っている。

若い世代が積極的に食品ロス問題に関心を持ち、解決のために取り組んでくれていることも嬉しく、励みになる。

調査してくれた「学生食品ロス削減プロジェクト」のメンバー

代表:慶應義塾大学2年 本多将大さん

企画共同発起人:明治大学3年 冨塚由希乃さん

慶応義塾大学2年 木村祥子さん

専修大学2年 尾山結花里さん

東京大学2年 高柳剛弘さん

慶應義塾大学の末永玲於さん

注:タイトルは文字数の関係で「恵方巻」とし、文章中は「恵方巻き」とした。

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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